///4 初戦闘
大分時間がたってしまいました。自分でも投稿のペースがわかりませんすいません。
俺たちも適当に拳を上げ、一行は森の中を進んで行った。
薄暗い森の中を陽気にふるまいながら歩く。藪から飛び出した小さな小動物に七花が驚き、飛び跳ねた。
弘樹は懐に忍ばせていたナイフを投げ、その小動物に当てた。部屋から持ってきていた革袋にそのウサギのような動物を入れると、留まっていた歩みを再開した。
「弘樹くんすごいねぇ。」
「別に。昔少しだけダーツをしていたからね。」
「お前、そんな金持ちだったのか!?」
「おもちゃのやつだよ。」
森を抜けると少し開けた場所に出た。
「遅いよ!」
仁美がぼやく。とりあえず謝ると前衛、中衛の戦果を聞いた。
「こっちはウサギみたいのが3羽取れた。」
「こっちはだめだったよ。」
「つまり今日の朝はウサギみたいのが4羽か。先行隊、乱獲しすぎだろ。」
「!!」
「どうした!仁美。」
「なにかが来る。魔獣みたいな。」
仁美の知能増幅が使われたのなら何らかの危機が迫ってきているということか。
「全員、背中合わせに並べ!死角を消せ!」
剣を構え、目を光らす。森の中は真っ暗だった。こちらからはなにも見えない。
(そこか!)
弘樹はさっき活躍したナイフをもう一度投げた。弘樹の夜目は一瞬うごいた影を見逃さなかった。うめき声が聞こえてなにかが倒れる物音が聞こえた。
「弘樹くんさっすがー!」
「いや、たまたまだって。」
何かが倒れた場所まで警戒しながら進むと、一行の視界には肩にナイフが刺さった緑色の化け物が入っていた。日本でもよく知られていたゴブリンである。”それ”は棍棒を振り回しながら一行のもとへゆっくりと歩いてきた。
「グアァァァァァ!!」
ゴブリンは周りを威圧した。それだけで俺達は足がすくんでしまった。数秒間、誰も動けず、ゴブリンは前衛の目と鼻の先にまで迫っていた。
俺は逸早く威圧から脱し、まだ一日一回しか使えない初級魔法を使った。
「我らに降りかかる災いよ、目を闇で包め。ダーク!」
突如、ゴブリンは今にも食べようとしていた男女を見失い、混乱状態に陥った。”それ”の足も止まって前衛の危機は回避された。
仁美は烏山に指示を出して瞬間移動を使わせ、烏山は一回しか使えない瞬間移動を唱えてゴブリンの後ろへ姿を現した。
そして、自身の剣でゴブリンを後ろから突き刺した。
「グアァァァァァ!!」
ゴブリンは現れたときと同じ声を発しながら地に伏せた。
仁美はやっと倒したと思い、気を抜いてゴブリンに近づこうとしたが、そこで烏山から声が聞こえた。
「曽我、まだ来るな!先生、剣を構えたまま、こっちへ来てください!」
「わかった!」
俺は仁美たち女子三人を連れて後ろに下がり、烏山と先生が戻ってくるのを待った。
遠くから彼らの声も聞こえている。
「先生!ゴブリンは瀕死状態ですが、まだ死んでません。」
「だから、私にも攻撃させてあげよう、というわけですか?」
「強くなるために。経験値はもう入ってると思いますが、共にこの害獣を殺しましょう。」
「っっ!害獣・・・。わかりました。それでは、」
「せーのっ」
『グサッ』そういう生々しい音が聞こえたような気がした。
そして彼らの剣は”害獣”の心臓へと吸い込まれていっていた。と同時に全員に『ピコン』という音も聞こえた。多分、ステータスが上がったのだろう。
俺達は彼らのところへ戻り、ゴブリンの部位というか赤黒い石みたいなものを拾って小屋へ帰る道程についた。
小屋からの帰り道、俺達は各々の上がったステータスを見ながら一行は無言だった。
ちなみに戦利品の赤黒い石は俺が持っている。そのまま先行隊には渡さないつもりだ。
小屋へ着くと、その日中動いたせいで体力がなくなり、自分の部屋のベッドを見た途端、俺は意識をなくした。
「起きたのはいいけどなんで安藤がいるんだ?」
二日目にしてまた同じ目覚めをした彼は理解するのに時間がかかった。一瞬時間が巻き戻ったのかと思ったほどだ。
「あ、弘樹、おはよ。」
「おはよ、じゃないよ。なんで君がここにいるんだ?」
「弘樹が自分の部屋の前でドアを開けたまま寝てたから、弘樹をベッドに運んで一緒に。」
(あ、そうですか・・・。なんかすいません。)
「サンキュー。今日も昨日の続きで森に行こうか。」
「うん。仁美たちを呼んでくる。」
「じゃ、俺は先生と烏山を呼んでくるわ。」
「ん。またあとで。」
「ああ。」
烏山の部屋は確か俺の部屋の一階上だったと思う。弘樹は階段を登ると、見覚えのある扉を叩く。
「どうぞ。」
中からの返答を確認すると彼は扉を開けた。中にはベッドに寝転びじっと天井を眺める烏山の姿があった。
「森、行くぞ。」
「ああ。なあ、弘樹。」
「どうした?」
「なんで俺達はここに呼ばれたんだろうな。」
「さあな。呼んだやつに聞いてくれ。俺は分からない。」
「そうだよな。わりい。変なこと聞いた。なんか感傷的な気分になってしまって。行こうぜ!」
「おうよ!」
森をしばらく歩いた頃だろうか。前方で物音がした。すぐに前衛の烏山と先生が警戒する。中衛の仁美と香菜は前衛の左右に展開、後衛の弘樹と七花は後ろを警戒する体勢になった。
弘樹は一瞬だけ前を向き、夜目を使った。
「あれは・・。」
「どうした!」
「先行隊の稲井です!」
弘樹の言葉に張り詰めていた空気が一瞬ゆるむ。
「気を許すな!ここは戦場だ!気を緩めると死ぬぞ!」
烏山の声に驚き、再び六名の間に緊張がはしる。稲井は六人の前に出ると倒れた。ずっと走りっぱなしだったのか、息が荒かった。
稲井を宿舎に運ぶと稲井は水を欲しがった。水を飲ませると彼は少し回復した。
「どうしたんだ?先行隊になにか起きたのか?」
「野路、木多が死んだ・・・。」
「嘘だろ・・・?」
「敵の魔獣の攻撃にあって・・・。一撃だった・・・。彼らは避けきれなかった・・・。」
「そんな・・・。」
弘樹はその場に立ち尽くした。
七花が泣きじゃくりながら寄りかかってくる。宿舎のロビーに重い空気が流れる。
(死人が出た?まさか・・。あの石板の言葉は嘘ではなかったということか・・・。くっそ!お前らの生まれた場所はここじゃなくて日本だろうが!なんでこんな場所で死んだんだよ・・・・!)
その夜、宿舎の食堂の棚には二人分の夕食が置かれていた。誰も手をつけない。犠牲者が出たという話はすでに回ってるのか。
「これから野路と木多の追悼式を行う・・・。」
そう切り出した先生の顔を見れたものは何人いたのだろか。多くのものがうつむいていた。夕食後の明るい雰囲気はここにはなかった。
その頃、日本では突然二人の少年が家に帰ってきたと大騒ぎになっていた。二人は突如としていなくなった谷川高校一年三組の生徒であることが発覚し、警察は即座に二人の事情徴収を行った。
だが二人は何も覚えておらず、高校一年三組が存在したことさえ、覚えていなかった。二人は自分は一年二組であり、三組であった覚えはないと言い張った。
警察はなんとか聞き出そうとあの手この手で事情徴収を進めたが二人は本当になにも覚えていないとしか言わなかった。警察は手を上げ、二人の調査を打ち切った。
翌日、後行隊は森の調査を行わなかった。メンバーの精神状態が良くなかったことに加え、弘樹が引きこもってしまったことだった。
先生は必死に励ましたが弘樹は回復の兆しさえ見せなかった。
「安藤がいればなんとかできたのかもしれないが・・・。」
「そうですね・・・。」
食堂で話す烏山と先生。烏山はいち早く回復してみせた。
だましだましやって回復させたことは先生にもわかっていた。
「あの・・。」
食堂の入り口に声が聞こえる。
二人は振り向き、一人の少女を認めた。
「安藤・・。」
「弘樹くん、大丈夫なんですか?」
七花の問にそろって首をふる二人。彼らの返答に肩を落とす七花。
「ちょっと行ってきます。」
そういって踵を返した彼女に烏山は声をかけた。
「どこに?」
「弘樹くんのところです!」
「なんで?」
「慰めるんです!見てられないから!」
軽い足音が去っていく。
あとに残された二人は顔を見合わせると深く息を吐いた。
「やっぱり安藤がいると助かるな。」
「非公認の彼氏彼女なんじゃないですか?」
「可能性はなくもない・・。」
一方、弘樹の部屋の前についた七花は少し荒い息を整えながら扉を叩いた。中からは案の定返答はない。扉を少しだけ開けると暗い部屋にじっと座り込む弘樹がいた。
「弘樹くん・・、どうしたの?」
「二人も犠牲者を出した・・。」
「それだけで・・?」
「それだけとはなんだ!犠牲者が出たんだぞ!お前はなんとも思わないのか!」
弘樹の剣幕に少したじろぎつつも彼女は言い返す。
「たった二人の犠牲でみんなに迷惑かけるつもり?!」
「え・・。」
「私達が森の周りを哨戒してるのは拠点組の安全を守るためじゃないの!?拠点が落とされないようにするのが私達の役目じゃないの?確かに私達は後行隊よ?でも出撃するまで脳天気に過ごしていろっていうの?言い方悪いかもしれないけど今宿舎にいる人達の中で戦力になるのは私達だけなのよ?その頼みの綱があるから先行隊は安心して戦えるの!それを分かってるの?!」
今までにないほど声を荒げた彼女に驚いた弘樹はしばらくぶりに思考を開始した。
(そうか・・・。)
自分の中で自分なりの答えを出し、七花を見据える。
「わかった。ここは守ろう。みんな大丈夫か?」
立ち上がった彼見てを七花はすこし嬉しそうな顔で笑った。