///3 初日
ペースが少し遅くなるかもしれません。
君たちが持つ固有スキルの説明は個人のステータスに載っているのでそこを参照すること。
また、大勇者は勇者より固有スキルが強く、魔王に対する攻撃力が少し強い。
これらの力を育てるためには魔物を倒すのが有効である。この森を抜けるためにはこの森の主(魔物)を倒さなければならない。その道中、誰かが死ぬということはあり得る。裏切りが起きる可能性もあるが、大勇者が先頭に立って、それを乗り越え人々を救ってほしい。』」
大分長かった文章を西山は読み終えた。彼は少し、疲れているように思えた。
突如として緋水が立ち上がってしゃべりだした。
「ということは俺がこれから先頭に立つ。ここは地球じゃねぇんだ。俺が命令を出させてもらうぜ!」
男どもは叫んだ。一部を除いて。ちなみに男の大勇者も叫んだ男のうちだ。西山は叫んでいない。
「おう!!」
いつものチームの完成だ。
緋水は部下である渡木と稲井を引き連れて前に躍り出た。
「この広場には幸いにも小屋がある。それも大人数が住める。
そこで、俺が選んだ人と選んでいない人は宿舎を分けさせてもらう。ただ、基本、女子は男子と分けるぞ。例外もいるが。」
西山が少し口を出した。
「選んでいない人は適当に小屋から出てもいいが、1グループ6人で行動しろ。死んだら、俺たちに報告しろ。以上だ。」
「学級委員長のその言葉には賛成だ。ここから出れるように励むぞ。」
緋水の取り巻きは興奮していたが、女子は困惑・混乱していた。
結局、攻撃できる人のみを集めた先行派と攻撃系ではない人を集めた後行&拠点派に分かれさせられた。
その日はひとまずきれいな宿舎に泊まり、次の日に先行隊が出発することになった。ちなみに俺は後行隊だ。
夜、西山が部屋にきた。
「斉田、少しいいか。」
「ああ。」
西山は斉田を外に連れ出すと、話し始めた。
「お前が最初に気づいたんだよな、異変に。」
「ああ。」
「どんな感じだった?」
「ただ床が光って五芒星が浮き上がっただけだ。それまではなにもわからなかった。」
「まあ寝てたもんな。」
「そこは触れないでくれ。過去のことを気にしても仕方ないし、今は寝ようぜ!!」
「そんな格好つけて言うなよ。はあ。眠いんだな。ばいばい。」
俺の意図が伝わったみたいだ。さあ、寝ようかな。
そう思ってベッドに寝転ぶ直前、部屋の扉が開けられた。誰かと思い、そこを見ると、衣良喜先生がいた。
「うおっ、先生!!どうしたんですか、こんな時間に。」
「お前は気楽でいいよな。」
「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて。」
「わかってるよ。ところで、明日一緒に行かないか?」
「先生と、ですか?」
「ああ。俺のスキルは剣術<闇>だ。ということはお前の魔術・闇と相性が合うんじゃないかと思ってな。」
「そういう考えでしたか。でも・・・。」
「まあ、そうだろうな。先生と無双とかクソゲーだよな。」
「いや、そんなことはないんですけど。他の友達も誘っていいですか?」
「別にいいよ。二人だけは気まずいし。」
烏山と丹藤は道連れにしようかな。
「じゃあ、わかりました。明日の朝、ここに来てください。メンバーを集めましょう。」
「わかった。ありがとう。」
「いえいえ。先生の授業、寝ていましたから。」
「お返しというわけか。」
「そんなところですね。」
本当は違った。
今のうちに貸しを作っておこうと思ったのだ。葉鳥は誘わない。絶対に足手まといになるから。でもかといってここに残したら女子の混乱が一気に増加するけどな。
どうするんだろな、あいつ。
「おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
先生が部屋から去っていった。
やっと寝れる。
俺はベッドに寝ころび、布団をかぶろうとしたところで、また誰かが来た。
「誰だ?」
「安藤です。ここは斉田君の部屋で合っているでしょうか?」
少し緊張した幼馴染の声が聞こえた。
「入ってきていいぞ、どうしたんだ、七花?」
「この先どうなるかが怖いの。お母さんともお父さんとも離れちゃったし。」
「必ず帰れるさ。いや、生きて帰ろう。」
「わかってるけど・・。でも、誰かに襲われたらと思うと。」
「その時は俺が守るから。じゃあ、明日は一緒に行動するか?先生もいるけど。」
「うん・・・。」
「まだ何かあるのか。今日はこの部屋で一緒に寝よう。昔よくやってたじゃないか。」
「ありがとう。」
「いやいや。じゃあ、俺は床で寝るから、七花はこっちのベッドで寝て。」
「えっ?」
「えってえっ?」
「一緒に寝るんじゃないの?」
「寝るの?俺たち、もう高校生だぜ。一緒に寝てたら他のやつに何か言われるだろ?」
「ごほん。私は斉田弘樹が好きです。付き合ってください。」
「普通、今言うか!?シチュエーション的に最悪だろ!?」
「今言っとかないと、一緒に寝れないじゃん。」
「いや、俺も好きだけどさ。もうちょっと理由、考えなかったのかな。はあ、もういいや。一緒に寝よう。俺もう眠たいから。」
そうだった。七花はこういうやつだった。
異世界で過ごす最初の夜、彼は寝付けなかった。天井をぼんやり眺めていると首筋に静かな吐息がかかった。
横を見ると穏やかな寝顔を見せる七花がいた。かわいいと思うとともに、意識は何故か夢の世界に、飛んでいった。
目を覚ますと、部屋の中が陽の光で照らされていた。
朝だ。
見慣れぬ天井に現状を理解するのに少し時間がかかった後、何気なく横を見た。
昨日の寝顔のままの七花がいた。出なければならないという現実と、七花の寝顔を見ていたいという欲望が心のなかで火花を散らす。
だが自分一人の欲望にクラスを巻き込んではならないということにして彼は七花を揺り起こした。寝ぼけ眼の彼女も、また、状況を理解するのに時間がかかっているようだった。
数秒の後、彼女は昨日の自分の発言を思い出したのか少し顔を赤らめる。彼はそれを目の端で捉えつつ、七花を急かす。
「ほら、早く行くぞ。」
「あ、うん。ちょっと待って。」
そう言うと彼女は部屋を飛び出した。一人になった明るい部屋で彼は支度を整えた。
ふと心に、帰れないかもしれないという気持ちが沸き起こった。全く知らないこの地で、果たして何人が生き残れるのか。
部屋を出ると、建物の外には数人が集まっていた。
「すごい物騒なこと書いてたな、あの石。」
「そうだね。それより、これから私達どうすればいいんだろう。」
「戦うしかないだろ!そうじゃなきゃ帰れないんだから。その前に七花、一緒のチームで戦おうぜ。」
「怖いから、それでいい。他のメンバーは?友達もいい?」
「いいぞ。一人だけなら、ピッタシだと思う。」
「ピッタシ?」
「ぴったりという意味だ。」
「それはわかる。じゃなくて、なんで、一人?」
「先生が昨日、俺と一緒に行動してくれないかと言ってきたから、これで3人は確定。で、俺の友達も一人は入れたいから、これで4人確定。後の二人は強そうなやつと七花の友達で6人になる。」
「じゃ、仁美と一緒に行動する。あと、香菜も。」
「まあ、いいか。3人でいつも一緒だしな。女子も男子も3人ずつのほうがいろいろといいだろう。」
「弘樹の友達って誰?」
「烏山だ。」
「ああ〜〜。じゃあ、衣良喜先生と会おうかな。」
「おはよう、斉田君。僕を呼んだか?」
「当人にはまだですが、俺と七花は一緒のチームです。」
先生と話していると、七花はいつもの2人に一緒のチームになるかを話していた。
後は烏山だけだ。七花が親指とひとさし指で◯を作り、俺にチラッと見せていた。話がまとまったらしい。
ホールに行くと、既に先行隊は出発しており、烏山はホールの端っこの方にいた。烏山曰く、朝食は自分たちで調達しろ。拠点組は先行隊が何かを取ってくるからそれを待て、とのことだった。
俺は烏山をチームに誘い、俺達は早々に小屋を出て近くの林に入った。
「うさぎでも狩れたら良いな。」
「私達の能力、確認し合っておこうよ。」
「いいね。」
曽我仁美と恋橋香菜は俺も知っている。小学校も同じだったし。
先生がどこかから紙を取り出して言った。
「じゃ、この紙に自分のステータスを写して書いて。必要な情報・・・能力とスキルとレベルだけでいいかな?ペンはここにあるから。斉田君から、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
能力とスキルは別物らしい。
全員書き終えた後の紙を見てみると、そこには合計6人のステータスがあった。
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烏山 裕太
Lv.1 勇者
能力:瞬間移動 Lv.1・・・自分の目で見えるところなら魔力が持つ限り一瞬で転移できる。
スキル:「他人の目」・・・自分の目に他の人から見えた視界を写すことができる。なお、他の人とは2度以上話したことのある人という定義で成り立っている。
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衣良喜 増人
Lv.1 勇者
能力:剣術・闇 Lv.1・・・暗黒流の技を身につけることができる。ただし、この流派を知る者はこの世界には1人もいない。
スキル:「気配遮断」・・・気配感知をも遮断し、使用者がいる事を感知させない。
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曾我 仁美
Lv.1 勇者
能力:知能増幅 Lv.1・・・危機に陥ったときや危機に陥る未来が決まっているとき能力が発動され、その未来を回避または危機から逃れる。
スキル:「活性化」・・・能力が発動されたとき、全ての力が限界を突破するが、使用後は1日中起きなくなる。
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恋橋 香菜
Lv.1 勇者
能力:魔法・癒・・・人の傷・病・状態を回復することができる。やりすぎると悪影響を与え、数秒後には死に至ることもある。また、どれだけ大きな傷でも時間を書ければ治すことができる。
スキル:「魔力増幅」・・・能力を使う際、魔力が倍に増幅する。一定時間のみであるため、
身体に影響は与えない。
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安藤 七花
Lv.1 勇者
能力:魔法・水・・・水系統の魔法が使える。かすり傷程度なら水魔法でも治せる。
スキル:「清潔」・・・魔物を倒して返り血を浴びようとも、泥をかけられようとも使用者自身は一切対象物に当たらず、身体は清潔に保たれる。匂いも全くしない。また、相手の液に攻撃も当たらないので、状態異常にはならない。
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斉田 弘樹
Lv.1 勇者
能力:魔法・闇・・・先代の英雄である「復活のリク」が得意とした系統の魔法。究極は他の系統との合体技がだせる。過去でこれができた人族は「復活のリク」のみ。
スキル:夜目・・・暗い所でも昼間のように明るく周囲を見ることができる。
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「じゃあ、リーダーを決めましょう。」
先生がこう言ったが、正直先生がリーダーで良くね?と思う。
先生は俺の心の内を見透かしたように続けた。
「先生がリーダーではいけませんよ。私がいつまでもいるとは限らないのですから。」
「縁起の悪いこと、言わないでください。リーダーは多数決で決めましょう。先生は手を上げないでくださいね。」
結局多数決となり、リーダーは仁美になった。仁美以外の全員が仁美に手を挙げたからである。
「それでは私がリーダーをやらせていただきます。」
「がんばれー、仁美ちゃん。」
「柔らかく行こー、仁美。」
「うん。じゃっ、とりあえず、前衛は先生と烏山くん。中衛は私と香菜で、後衛は弘樹くんと七花ね。」
「了解!みんな、剣は持った?」
「持ちました!!」
「じゃー、しゅっぱーつ!」
女子は3人で盛り上がっていた。
この空気で親に会えない感情を消しているのかもしれないな。
俺たちも適当に拳を上げ、一行は森の中を進んで行った。