第19話 京都観光
「いいか。絶対逸れるなよ。それと周りの人を見て迷惑にならないようにしろ。前の人を見失った場合は近くに待機しておけ。」
新幹線の乗り換え口で大声で返事する小学生をみつつ、ビジネスマンが足早に通り過ぎていった。初めてみる京都の町並みに興奮している小学生を尻目に、正弘は呆れた。
(JR京都駅の近くなんて序の口だろ。というか東寺しかないし。〇〇中学しかないし。)
「ね、ね、行こうよ!」
「あ、ああ。」
ぼうっとしていた正弘を引きずるように二人の少女が連れていく。
「今日は金閣、銀閣からの清水寺ですね。」
「さすが颯太、仕事が速い。」
「栞を見ただけですが。」
「その栞を出すのが速い。」
「しかしあいつら顔が死んでますね。」
「紘毅たちな。これで平和になるといいな。」
「そうだと万々歳なんですよね。」
「本当にあいつら、手こずらせやがって。」
「それは、すべて終わってから言ってください。」
京都駅を出、ロータリーの前にはバスが3台止まっていた。1クラスずつ乗り込むと厚化粧したバスガイドがのりのりで解説を始めた。
「みなさんこんにちは。これから皆さんの案内をさせていただく渡部と申します。よろしくお願いしますね。」
「はーい!」
「京都の街は碁盤の目のように道路が張り巡らされています。京都生まれの人はこれらを語呂合わせで覚えています。わかる人いますか?」
「わかりません!」
「では言ってみます。まるたけえびすにおしおいけ あねさんろっかくたこにしき しあやぶったか まつまんごじょう せきだ ちゃらちゃら・・・。」
(バスガイドも大変だ。)
バスガイドがノリノリで歌っているのを尻目に正弘は外を眺めていた。
「この辺は塩小路通りというらしいですよ。で、堀川通に入り、五条通、からの西大路通りらしいです。」
颯太がプリントアウトしたマップを片手にナビしてくれる。
将来カーナビになったら?という冗談にじゃあ正弘くんのカーナビにしてくださいとさり気なく雇ってくれという。
バスガイドは気長に京都の解説を続けている。そろそろ皆も飽きてきたようだ。
窓の外を見る人の割合が増えてきた。いつの間にか西大路通りに入っていたようだ。窓の外を阪急の西院駅が通過していった。
「正弘くん?」
「ん、ああ。」
「つきましたよ。お疲れ様です。」
「早く行こうよ!」
「悪いな。待たせて。」
「気にしないでください。そんなに待ってませんから。」
いつの間にか寝てしまっていたらしく、颯太に起こされた。
秋の京都の空気は冷たく、でも涼しい。大文字焼きのあとをみつつ、人混みに飲み込まれて金閣に向かった。
「ねえねえまさくん、早く行こ!」
「おいおいちょっと待て。こけるから!」
「あ、まどかさんだけずるい!私も行く!」
「正弘は人気ですねぇ。」
二人の少女に手を両端を挟まれて金閣を回る小学生を大人たちが遠目に見つつ笑っていた。
「きれいだねー!」
「確かどこぞの誰かさんが燃やしたんだっけ?」
「勝手に燃えたんじゃなかったっけ?」
「勝手に燃えるというのはありえないけどね。」
「1950年2月に放火があって、強風も手伝って全焼したそうです。」
「ほらね。」
一周してお土産物屋をのぞいていると新井が見回りに来た。
もうそろそろ集合時間だと急かしに来たらしい。後ろには死んだ顔を覗かせる紘毅や茉莉たち。
バスに乗り遅れるのも面倒くさいから早めに行くと、ほとんどいなかった。
「早すぎたかな。」
「みたいね。」
とはいえそこは小学生、先生は怖いから早めに来る。
最近、ボカロが頭の中でぐるぐるしていますわ。