第11話 事件勃発
翌日、正弘の部屋では小さな事件が勃発していた。
そこから5部屋隣にいったまどかの部屋でも海里が泣きそうな顔をしていた。
「どうしよう。水着がないよ。」
「行く前に確認したんだよね。」
「うん。5回も確認して行きの道でも確認して学校でも確認したのに。」
「まさの部屋に行こう。どうにかしてくれるかもしれない。」
慌ただしく出ていった二人を見ながら茉莉はもう一人のルームメイトであり隠れ部下に笑ってみせた。
「鞄の中は全部見た?」
「うん。ひっくり返してみたし。」
となると海里も同じ状況になってそうだな。
思った瞬間、部屋のドアを開けてまどかと海里が飛び込んできた。
「海里ちゃんの水着がないって!」
「やはりおまえもか。」
さっさと着替えた紘毅は焦っている6人を尻目に部屋を出ていった。
「あいつらがやったのはわかった。おそらく復讐だろう。だがどこに隠したかだ。くっそ。油断していた!」
「まずこの部屋にあるかどうかもわからないのに。」
とうとう海里は泣き出してしまった。卓真も困った顔をしている。
「早くしないと集合時間になっちゃうよ。」
「いや。それを使うっていう手もありますよ。」
くそっ。どこだ。あいつらめ、とことん汚い手を使ってきやがる。
「あと10分しかない!」
「そうだ!」
正弘の記憶に閃光が走った。ステータスを表示し、目当てのものを探した。それは一番下の欄に書いてあった。
「これだ!」
「探知能力、そう言えばつかえるって言ってましたね。」
さあどこだ。
部屋を見渡した正弘は呟いた。
「ない・・。」
「え?」
「部屋を見渡してみたけど引っかかるものはない。この能力に引っかからないものはないはずなのに。」
部屋を沈黙が支配するなか空気を読まない時計の針だけが虚しくすぎる時間を刻む。
「あ、まどかさんの部屋は?茉莉と紘毅がやったのならそちらにあるかもしれません。」
「颯太賢い!あれ川口くん、まだ行ってなかったの?」
「同じ部屋で困っている人がいるのに行けるわけないよ。」
紘毅や茉莉は永遠にこいつと仲良くはできないだろうな。
旅館の廊下を全力で駆け抜けると角で新井に会った。
「どうしたんだ。もう集合時間は過ぎているぞ。」
「紘毅と茉莉が海里ちゃんと卓真の水着を隠しました。おそらく復讐だと思います。」
「またあいつらか。で、見つかったのか。」
「俺の部屋になかったのでいまからまどかの部屋に探しに行くところです。」
「そうか。で、なんで川口も何だ?」
「卓真くんが困って坂田くんと足立くんが一生懸命探しているのに一人で脳天気に集合なんてしていられません。」
「流石だ。よし。僕も手伝う。絶対見つけるぞ。」
新井の一言で宝探しのようになってしまった。
引き続き旅館の廊下を疾風のごとく駆け抜ける7人。
集合場所では不満を言うものも出てきた。当然だ。暑いところで待たされているんだから。
とくに紘毅や茉莉陣営は大騒ぎをしていた。先に泳がせろとか裸で泳がせろとか。周りに騒がせ、二人は見事に成功したことをほくそ笑んでいた。
これで当分は見つからないだろう。ざまあ見やがれ。お前があのとき断っていなかったらこんなことにはなってないんだよ。しかし奴らも間抜けだ。どうせ坂田の部屋に集まって話しているか新井先生に怒られているかだ。ダサいよな。水着は茉莉の部屋にあるっていうのによ。
「どうだ。反応はあったか!」
「今のところないです!」
「ここです!」
まどかが飛び込むように部屋に入った。正弘は念入りに探した。椅子の下、机の下、テレビの裏、掛け軸の上、戸棚のなか、押し入れの中・・。
「ん?」
押し入れを見たとき、視界に反応があった。
「まさか・・。」
押し入れをあけ、布団を外に出すと、棚の奥に紺色の布がおいてあった。
「あった!」
正弘が叫んだ瞬間、海里も卓真も顔の色が変わった。
「早くしろよ。待っておいてやるから。男子はもちろん自分の部屋でな。」
「先生も出ていってくださいね。」
「もちろんだ。」
一瞬で空気が軽くなり、少し冗談を言える雰囲気にもなった。
部屋に駆け戻った正弘は二度と油断しないことに決めた。