第10話 復讐という名の悪だくみ
「遊びに来たよーーー!」
明るい声とともに海里とまどかが遊びに来た。この前の一件があってから海里はできるだけまどかと共に行動するようにしていた。まどかもあのことがあってから父親に合気道を習っているらしい。一回正弘も投げ飛ばされたことがあった。風で舞い上がったスカートの中を覗いてしまったからだ。
体が浮いたと思ったらアスファルトの歩道に叩きつけられた。とっさに受け身の体勢になったため頭はぶつけなかったが次の日から体が痛くてしかたがなかった。
「ひとまずこの合宿中があやしい。気をつけてくれ。」
「わかってる。」
頷いた海里をみやり、紘毅を見た。知らないふりをしていたが何かを企んでいるのは明らかだった。
「今から夕ご飯にします。全員大広間に集まってください。」
新井の一声で旅館中が動き始めた。
大広間は真ん中の仕切りを取り払えば有に100人は入ろうかという大きいものだった。内装もきれいだったしごはんも美味しそうだった。ただ正座で座らざるを得ないことを除けば。
「いただきます!」
食事係の合図で食べ始めると颯太が耳元に話しかけてきた。
「これからどうします?」
「流石に1日目から問題をおこしはしないだろう。ひとまず今日はおとなしく寝よう。昨日じいさんにも魔法の乱用はやめろと言われたし。」
「わかりました。まどかにも伝えてきますね。」
「悪いね。」
二人の会話をききつつ密かにほくそ笑む紘毅に彼らは果たして気づいたのだろうか。
食事後、女子風呂を覗く相談をしているバカな男子を尻目に茉莉と紘毅は物陰まで行き、二人の水着を隠す相談を始めていた。
「これは復讐だからな。」
「言われなくてもわかってるわよ。」
「あいつらが風呂に行くとき、忘れ物をしたと言って密かに戻れ。そしてあいつの水着を押し入れの中にでも入れておけ。」
「はいはい。あんたも失敗しないでよ。失敗したら私達がやったってばれるから。」
「気にするな。」
二人は何事もなかったように両側からでると目配せして離れていった。
部屋に戻った正弘は部屋の中心に敷布団をしくと寝転んだ。木でできた天井が見えた。
こうやって目を覚ましたときに天井が見えるのは何回目かな・・。
思っているうち寝てしまったらしい。揺り起こされて目を開いた正弘は覗き込んでいる颯太を見た。
「行きますよ。」
「ああ。」
「昨日何時間寝たんですか?1時間半も寝てましたよ。」
「ご飯食べすぎたかな。」
「明日溺れないでくださいね。」
笑い合いながら浴場に向かう途中、紘毅が
「あ、悪い。俺忘れ物してた。ちょっと取ってくる。」
と部屋に戻ったのを見送るとまどかと会った。
海里も一緒に笑いながら通り過ぎていった。
いっそこの合宿中何も起きなければいいのに。人が悲しむのをもう見たくない。
たとえ異世界で英雄と呼ばれるものであったとしても、いくら魔法がつかえるものであったとしても、心は大学生並であったとしても、人が悲しむのを見るのは辛い。
首尾よく隠した紘毅は急いで浴場に向かっていた。
「うまくやれた?」
曲がり角でいきなり声が飛んできた。前を見たまま答える。
「ああ。余裕だ。」
「明日が楽しみだね。」
「どうなるかな。さすがに正弘たちも事前に止められはしないだろうし面白くなるな。」
「そうだね。じゃあまたあとで。」
「またな。」
またやっちゃいました。飽きないものですねぇ。