プロローグ
初投稿です!
面白いかどうかはわからないので、怖いですが、読んでいただけると幸いです。
これからもつづけていきたいと思います。
彼の名は平野陸
地球とは異なる世界、”タグリア”になぜか英雄として名を連ねる男。
その実は、今ただの引きこもり高校生であった。
ある日、というか気づけばもう月は紺色のキャンバスに浮かんでいたが、彼はちょっとした戦闘糧食を買いにコンビニへ向かった。高校生という年齢さえわかられれば、補導されそうな時間だ。
「はぁ、熱中しすぎて目が痛いや。全く、こういう時に限って目を温めるアレがないんだから」
すでに23時を回っている。彼は目元を指でつまみ、しきりに揉んでいた。治らないのに、治るかのように。
レジ袋をもらわなかったことに後悔しながら、彼はコンビニを出た。両手にポテチやら何やらを抱えて。これから始める夜という第二部に向けた準備だった。
反対車線ではまだ透けたガラスの自動ドアから、白い灯りが漏れ出ている。ここのゲームセンターは深夜こそ客足が増すようで、昼より一層濃い音と光に彼は圧倒された。
そして呑まれた。
「久しぶりに行ってみるか。」
部屋で一人でいる生活が長いと、何事も小さくつぶやいてしまう。独り言はとめどなく溢れる。
ただ、彼の対面に誰か立てば会話が成立するか、と言われるとそれはあり得ない。彼の言葉はココロの中で展開されるからだ。
ゲームセンターに入る。
彼の黒目に無数の人が映る。
UFOキャッチャーに群がるカップル。バスケットボールをゴールに入れる青年とその仲間。
プリクラ機の前で写真を加工する女性たち。遠くにあるのにパチンコ台を叩く音と舌打ちが聞こえてくるかのような男性の態度。
彼は闇へ翻った。
まだ目映かった。
到底相容れなかった。
勝負など参戦すらしていないのに、負けた気がした。
そんな重苦しい覇気を身に纏った彼は、横断歩道の白と黒をぼーっと見つめながら渡っていく。
視界の端に緑が点滅しているのが見える。
「あ、やばい、」
走ろうとして、彼は一歩も踏み出せなかった。
後ろ足が前足に引っかかって思い切りつんのめる。
近づいてくる白い道路。よく見ると、その真ん中が黒くなっていた。
いや、違う。
石だ。尖った、石。
立っていて見えなかったのは、黒と白の交互が錯覚を起こしたからか。
石の切っ先が近づく。
彼はとっさに手をつこうとする。が、両手はコンビニの商品を大事に抱えていた。
手が出ない。首を横に振ることしかできない。
そのまま彼は頭を強打した。
意識が遠のく。白い道路が彼を起点に赤く染まっていく。
(あ、これ、死ぬやつじゃ・・・。)
彼の意識は、途切れた・・・。
「はずだよな?」
視界に中世のヨーロッパのような町並みが広がる。
「どこだ、ここ。」
周囲を見渡す。2階から降ろされた旗が風になびく。
人びとが集う街の中央、噴水の側に見覚えのある文字があった。
『タグリア 市内地図』
歴史の授業でも聞いたことのない地名。
宙を闊歩するローブを着た男に、紛れもなく手から水や風を出す商人たち。
奇しくも天国は異世界にあったようだ。
ここは日本男児の憧れと妄想、希望を具現化した天国だった。
「ってことは俺も魔法を使えるかもしれない。あんなクソみたいな世界よりこっちの方が生きやすいし、むしろ俺でも自由に生きられるんじゃないか?よし、あのアニメみたく魔法使って英雄にでもなってやれ!」
と短絡的に考えていた日々もあった。そう簡単にはいかなかった。
どうやらこの世界へはいわゆる異世界転移者が一定数存在するらしい。そして、この世界での信用を得るため、そういった人たちは3年間街周辺での強制労働が課されるという規則があった。
俺は毎日木材運びに駆り出されていた。
引きこもりだった過去に肉体労働は無縁だった。つまり、俺にとって木材運びは鬼畜の所業だった。
「てか、異世界に飛ばされたのに女も魔法もバトルも学校も、何もねーのかよ」
毎日労働の繰り返し。朝起きる時間も自由時間さえも決められている。檻に入れられた獣の方が自由だろう。
「俺はもう死んでやる!」
なんて息巻いた同僚もいたが、翌日には少し青い顔をして元気に労働していた。
世界と身体の適合性が故か、俺たちにとっての死は、この世界では300年以上先に訪れるらしい。死にたくても死ねない。痛くても死なない。便利で不便な身体だ。
俺はどうにもならないことを悟り、抵抗を諦めて自由を手に入れられる3年先を待った。
苦行はいつしか習慣に変わった。