第35話 告白と許可と意外な人
「私も!私もリクが好きなの!
最初に噂を聞いたときはただ面白そうなやつだなって思ったんだけど、旅をしてみると本当に面白かったし、楽しかった。
リクが意識を失ったときもとても心配で泣きそうだった。だから早く目をさましてほしいという想いを込めてキスをしたのよ。つまり、私と結婚してください!」
「もちろん、俺からもよろしくな、カナティア。
もう、大丈夫か?泣き止んだか?みんなにこのことを伝えておかないとな。君の父にも。いやお義父さん、かな?」
「へへへ。うん、行こっか。」
そのとき、どこかから渋い声が聞こえてきた。
「話は聞かせてもらった。だがそれを認めるわけにはいかない。」
物陰からでてきたカエシリウスは開口一番そう言い放った。
「転移者と魔界のものを結婚させる訳にはいかない。ましてやカナティは魔物の中でも強い力を持つ魔王だ。君を危険な目には合わせられない。魔界には私から戻ると伝えておく。明日には出るぞ。」
「いい加減にして!あなたに私の人生なんて決められたくない。あなたは神と結婚してそこそこいい生活を送っていたかもしれない。でも私は嫌だった。魔力を持つものがなんで神なんかと一緒に生活できるの?どうして何も感じないの?私は自分で決めたことは自分でやりたいの。貴方達のせいで私がどんなに苦労をしてきたかわかるの?」
へぇ~、カナティアの父さんって神様と結婚してたのかあ。だから、あのジジイがカナティアについて結構知っていたのかも。
カナティアは泣きながら続けた。
「貴方達が離婚してお母さんは神の国に戻り、あなたは人間界に降りた。魔界に一人で残された私はどうやって生きたらよかったの?ヤケクソだったのよ。でもねリクといた時間は最高に楽しかった。捨てられた孤児の気持ちを分かってあげられない親になんか決められたくない!」
そういうとカナティアは酒場に戻っていった。
あとには静寂と彼女の涙が作った染みが残った。
「・・・・っ。俺からも言わせてもらうぞ、お義父さん!あんたは今頃になって娘の自由をなくそうとしてたんだ。あんたの自分の娘のことをなんでもっと真剣に考えてやれないんだ?俺からも頼むぞ。俺とかナティアの結婚認めてください。お願いします。お義父さん?」
「いい加減にしろ。私はまだお前たちの結婚を認めてはいない。気安くお義父さんなど呼ぶな。」
「『まだ』ということは近いうちに認めるんだな?俺達の結婚を。ありがとうございます。」
「お前が納得行く説明をするならな。私は分かっていた。昔から過保護だった。何故カナティアがこの世界に来たか知っているか?」
「カナティアからは、魔王学院とかいうやつに入れなくて追放されたと聞いていますが、何か間違いでも・・・・。」
「カナティアは追放されたんじゃない。私が呼んだんだ。カナティアをすぐそばで見守れるように。だが別れてから5年経ったときに見た彼女は変わっていた。魔力を持つ幼い子供ではなく、魔王の一員として名を残している少女へとな。」
「・・・。ではあなたがここに呼んだから来たんですか。でもそれがなんで当時、『貧民街のボス』と呼ばれていた俺と会う羽目になったんですか?彼女は噂を聞いたとかなんとか言ってましたけど・・・。あと、そのとき彼女がパンツを履いていなかった理由って何ですか?・・・まさか、自分の娘を襲っていたとか?」
「あいにく私は、そんな性癖は持ち合わせていない。当時彼女は名のある能力者に喧嘩を売っては勝つということをしていた。自分の力を見せつけたかったんだろう。彼女は戦う前に必ず相手の情報を収集していた。おそらく彼女がパンツを履いていなかったのもそのせいだろう。
それから君にあった理由だが、当時、宮廷街のボスはことごとく打ちのめされていた。宮廷騎士団も警備の仕事がなくて暇だと言っていた。宮廷街に骨のある敵がいなくなったから貧民街まで足を伸ばしたんだろう。敵がいなくなればまた新たな敵を探す。
それが彼女の生き方だったんだろう。私が悪いんだ。もう少し彼女を気遣えば良かったのだ。」
そのときどこか後ろの方で物音がした。そこにいたのは息を潜めながら会話を聞いているカナティアの姿だった。
「「・・・っっ。カナティア!」」
「もう昔のことはいい!だから今のこのお願いを、頼みを考えて!私はリクを愛してるの!その一つの想いなのよ。なのになぜあなたは拒否するの?私の人生は全部あなたに拒否されるためにあるの?」
カナティアが父に向って叫んだ時、カエシリウスの後ろから聞いたことがあるようなないような声が聞こえた。
「カエシリウス、愛娘のことも分かってあげられないようでは宮廷最高魔術師の名が泣くぞ?」