第57話 終結
クライマックスです!色んな意味で終わりが近づいてきました。
目を開けると、目の前が水色に染まっていた。
「『神聖・解呪』」
意識が晴れ渡る。憎き狂神が再び姿を現した。
「おお?覚めたのか。一生覚めないはずだったんだがな。まあ、今更起きてももう遅い。俺の魔法の餌食になるがいい!」
「誰がなるか!」
迫りくる水色を防ぐ結界。それでも限りはあるもので、何個かは避け続ける正弘に当たる。隙を見て暗黒魔法と風魔法で反撃し、魔法の続かない間は剣で攻撃していく。
空中を数多の魔法が飛び交っている。その様は戦闘という血みどろのものながら、色とりどりに輝いていて、見る者すべてを感動させるほど綺麗な光景であった。
「おりゃあっ!」
叫び声と武器がぶつかる音だけが響き渡る。
ぶつかって飛び散った火花は、氷の棘を簡単に壊す。周りではひっきりなしに雷鳴が轟き、閃光が狂神を襲う。だが、彼は当たり前のようにそれを防ぐ。
休む間もなく詠唱する。魔力がごっそり抜けていくのがわかる。気にすることなく、正弘は剣を振り続けていく。鎌の柄が剣戟を弾き、刃が魔法を切り裂く。
魔法が飛び交う中も剣戟はもちろん止めない。狂神はあらゆる手を使ってそれを防ぎ、その勢いを殺し避ける。
どれだけの時が経ったのだろうか。両者いつのまにか息も絶え絶え、満身創痍であった。
「はぁ。『ダークミネスフル・・・くそっ!」
「はぁはぁはははっ!」
「何がおかしい!」
「魔力がもうないようだな。俺はとどめを刺すだけの魔力はある。勝負ありだな。」
「くそっ!何か、何かないのか!」
「考えても無駄だ。いい戦いだった。はは、残念だったな。俺には勝てないんだ!」
(何か、何かないか?本当にあいつの言う通り、もう終わりなのか?)
「さらばだ英雄!俺には及ばぬ力だったな!」
詠唱はおそらく氷の棘。さっきの水魔法の集中攻撃で辺りには多くの水しぶきが舞っていた。棘は簡単に、どこからでも出るだろう。
狂神がゆっくりと口を開く。
正弘は最後の魔力を振り絞り、考える時間を増やすことにした。
「『空間・遷延』くはっ!」
口から大量の血が出る。もう魔力は限界だった。
(何か、何かないのか!ステータス!)
青い画面が正弘の目の前に現れる。
名前:平野陸、リク・ソヴァール、石井(坂田)正弘
年齢:15歳
性別:男
称号:勇者、神聖の転生者、元”復活の英雄”
レベル201
体力:20
魔力:1
神気:450
魔法:神聖魔法、暗黒魔法、空間魔法、風魔法
能力:千里眼 Lv.9、探知 Lv.9、鑑定Lv.9、武道の心得 Lv.3、言語変換、自動回復、隠蔽、復活、コピー
装備:両手剣
(魔力はやっぱりもうない。はぁはぁはぁ。魔法も能力も使えるものはなさそうだ・・・。ん?神気?今まで無視してきたが、相手は狂神。何かに使えないか?)
視界の端に、狂神が満面の笑みで手を振り下ろすのが見える。
「迷ってる暇はない!」
正弘はとっさにアイテムボックスから『不壊』『絶貫』の効果を持つ槍を取り出した。
(これに、神気を付与して、付与・・・。ああっダメだ!やり方がわかんねぇ!)
身体の中を探す。魔力ではないもの。目を閉じ集中する。
「神気、神気・・・。これか!これを魔力のように循環させ、手から解き放つ!」
刹那。神々しい光が手から放たれ、そのまま槍の切っ先にそれがまとわりついた。
槍の向こうの地面を見ると、数個の水たまりがまとまっていくのが見える。
「時間がない!」
(どうなるかは神のみぞ知るってやつだ。もう、なるようになれ!)
正弘はその槍をすぐさま構え、「行け!」の声で狂神に向かって放り投げた。時間は遅くなっているが、使用者側には何の影響もない。つまり、狂神からは槍が神速で向かってくるように見えるはずだ。
「えっ?」
間抜けな一言が宙を舞う。目の前に見える槍にとっさに大鎌を構えるも、大鎌は容易く壊れ、槍は狂神に肉薄する。
正弘の周りの時が戻り、氷の棘が姿を現す。正弘の真下からもそれは現れ、正弘に突き刺さり貫通するその直前、槍が狂神の心臓を貫いた。
「ぐぁぁぁっ!」
氷の棘が弾け壊れる。間一髪正弘は背中から一筋の血を流すだけで済んだ。
「ああっ熱い!この気はあいつらの、憎きあいつら神の気か!くそ!こんなとこで終わってたまる・・・・」
後半は聞き取れなかった。狂神の身体が心臓の周りから徐々に、槍から漏れる神々しい光に包まれていく。光が天に昇る。と同時に、正弘の目の前も白く染まっていき、気が付けば、冷たくて固い荒野で一人で倒れていた。
「戻ってきた。倒した!倒したぞぉぉ!」
身体を起こし、だが座ったまま笑い悦に浸る。しばらくして我に返った。
「魔物の洗脳は解けたもののまだ存在する。有沙たちの元へ行かないと・・・」
周りからは魔物の声が聞こえなくなっていた。いつしか空は晴れ、心なしか干からびた地面も喜んでいるように見えた。
ずっと持っていた剣を支えにして立ち上がり、ふらつく足に鞭打って、来た道を引き返そうとした瞬間、また正弘は白い光に包まれた。
目の前が白く染まり、そのまま彼は意識を失った。