第54話 3勇者VS金色の骸
クライマックスはもう目の前…….!
時はさかのぼり、正弘が狂神の第1の心臓を貫いたころ。3人の勇者は絶え間ないスケルトン軍勢を相手に苦戦を強いられていた。
スケルトンを1体倒したら1体湧き出てくる。自分たちのやっていることは意味があるのかと心身ともに疲れていた。海里は魔力が尽きかけ、神村も疲労困憊だ。
「やっぱり、あそこでくつろいでいるガイコツを倒さないとダメのようねっ!」
有沙に関しては戦っている2人の傷を回復させながら自分もスケルトンを昇天させているので、さらに魔力の損耗が激しい。
「あの男、先に行かせるべきではなかったかもしれませんね。このままだともう終わってしまいます、面白みがない。」
リッチは狂神のいる方を向いた。
「いや、早く終わらせて主人のお手伝いに行った方がいいんじゃないでしょうか?ふむ、戦闘の音は聞こえませんね。主人がそういう魔法を使ったんでしょうか。あの方は後片付けを嫌に思われるお方だから、私がお手伝いに行かねばっ!」
「はぁ、おい!何ぶつぶつ言ってんだよ!」
襲い掛かってくるガイコツを慣れてきたように貫き、もはやこちらに興味を失っているように見える節穴の目に神村は呼びかけた。
「早くおまえを倒して正弘のもとに俺たちは行くんだよ!」
「そうよ。『治癒・光矢』!」
太陽の光がそのまま矢になったかのようにまぶしいそれは、一直線にケタケタと笑っているリッチのもとへ飛んでいく。スケルトンの攻撃はいつの間にか止んでいた。
矢を放った途端、有沙はその場で膝をつき、そばにいた海里もともに地面にへたりこんだ。
「ふむ、すいません、どうやらあなたたちのお相手をする時間がもうないようです。どうせもう魔力は必要ありませんし、せっかくなのでここで全部使って私のとっておきを冥土の土産に見せてさしあげましょう。」
リッチはそう言いながら、向かってきた1つの矢を手で振り払った。
「えっ?なんで?」
ジュッと何かが焼ける音がした。見ると、リッチの腕の骨が少し溶けている。スケルトン1体をたやすく葬り去る一撃がかすり傷にしかならない。その事実に、3人の勇者は呆然としていた。
「あら、そんなに驚くことでしょうかねぇ。まあいいでしょう。」
その声に、止まっていたスケルトンの姿が急に跡形もなく消え去る。
「矢には矢を、ってよく聞くじゃないですか。まあ槍ですけど。『黄金・ゴールドバールレイ』」
そう言ってリッチは片手を頭上に挙げ、目に見えるほどの魔力をそこに集中し始めた。地面が盛り上がり、表面の土が剥がれ巨大な槍を形成していく。
「なに、これ。」
神村でさえ、揺れる地面の上に立っていられない。日の光が出ていない今、黄金色をしたその槍が死者の魔力でできているものの一番輝いていた。
まぶしくて瞑った目を恐る恐る開くと、リッチがその手を振り下ろしていた。
「さよなら。あっけないですね。」
金色の粉塵を纏わせたそれは辺りに砂金をまき散らしながら、一目散に3人の勇者を襲い火花が散り砂煙が舞う。
しばらくして煙が晴れると、そこには巨大な陥没ができていた。3人の魔力はもう、ない。
「跡形もなく消えてしまいました。ふぅ、さて、向かいましょうか。」
残りの砂煙を払うように、ぴゅうと風が鳴った。
『待て!おまえは誰だ!』
リッチの耳元に風に運ばれた誰かの声が聞こえてきた。
「おや、誰ですか?」
慌ててスケルトンを呼ぼうとするも、魔力を使い果たしていたことに気づいた。リッチの視線の先にいたのはすでに満身創痍の騎士レイウスである。
「勇者たちのもとへは行かせない。俺が相手だ!」
また、風が吹き始めた。レイウスの後ろにはまさしく満身創痍の少数の精鋭たちがいる。
ここに、竜人を倒して満身創痍のレイウスと、3人の勇者を倒した慢心創痍のリッチの長い戦いの火蓋が切って落とされた。