第53話 レイウスVSドラゴニュート
「強い。数は有利なのに・・・。」
レイウスは襲ってくる爪を剣でかわしながらぼやいていた。
「ふう、てめぇなかなかつえぇなぁ。オレに勝ったらオレの男になってもいいぜ?」
「ふっ、なるわけがないだろうっよ!」
剣から『風・風弾』を飛ばしながら剣で切りつける。だが、彼女はその爪で剣を受け止める。風弾を食らっても、その鱗に傷は一切ついていない。火花が散る。
その一瞬で彼は『風・風運』で仲間にあることを伝える。
『俺が合図をしたら、少ない魔力で威力の高い魔法を一斉に撃ってくれ。』
それを聞いているはずの彼らの顔を見ぬまま、レイウスは精一杯相手を押し、それに対抗して押し返してきたその力を受け流して前へつんのめっている彼女の膝裏を思いっきり蹴った。人肌の感触が足にあった。それによってバランスを崩した彼女は慌てて、腕の龍化を解く。それを好機と見たレイウスは一気に彼女を転倒させ、首めがけて剣を振り下ろした。
剣は彼女の首に当たる。が、皮膚が固すぎてかすり傷1つしかつかない。どうやら一時的に首を龍化したようだ。
レイウスはそうくることがわかっていたように、その場から飛びのくと、あらかじめ指示していた魔法を一斉に彼女に向かって撃たせた。
「はっ!魔法は効かないと言っているじゃねぇかっ!」
向かってくる色とりどりの魔法に対して、彼女は身体を起こしながら深く息を吸い込む。そして、白色の風が口から放たれる。彼女の『吐息』は範囲内にある何もかもを破壊する。
魔法は散り、魔法を打った彼らもその吐息の衝撃を食らう。一部の皮膚がただれるものもいた。レイウスがいる方から風が吹き、静かにその吐息はなくなっていく。
吐いた直後で硬直している彼女の開いた口に、レイウスは風を纏わせた剣を突き刺した。
「がっ」
理想はのどを突き刺し、串刺しにして倒すことだったが、やはりそううまくはいかない。剣は喉を突き破ったものの、そこで彼女の硬直がとけ、レイウスは体勢を整える暇もなくその腹に重い蹴りを食らい吹っ飛ばされた。
竜人は口から血を吐き出す。ポケットから不意に何かの石を取り出し、倒れている兵士らの方へ向ける。
『オレの喉を搔っ切るやつなんて初めてだよ。楽しいな。』
『空間・念話』が埋め込まれた石だった。
『どうやらもう出し惜しみはできぬようだ。ここからはオレの魔力が尽きるまで存分に蹴散らしてやろうじゃないか。』
一方的な彼女の喋りが終わると同時に、彼女を突如砂煙が覆った。
「何だ?」
起き上がりつつあった誰かがそうつぶやく。彼の疑問に答えるものはいない。
数秒で煙が晴れていく。中から姿を現したのは、龍のようだ。鱗は赤く照り、先ほど龍化で見たような鋭い爪のある手足によって地に君臨していた。
「ひ、火龍だ・・・。」
その存在は見る者を圧倒させ、絶望の淵に立たせるほどの恐怖を抱かせた。災厄や神とも呼ばれる龍は、先ほどまでの優勢を打ち消すほどの存在感を持っていた。
(だが、すでに喉はつぶれている。)
得意とするブレスや吐息は使えない彼女は、翼をはためかせ空を飛ぶ。
『オレはブレスだけじゃねぇんだよっ』
その言葉を宙に残し、姿がかき消えた。そう感じた時には、そばにいた騎士2人が文字通り吹っ飛んでいた。
言葉は出ない。それは騎士を赤黒い大量の血が覆っているのが見えたからだ。
龍は笑っているように見えた。
『どうだ?仲間が死んで。オレも時間がないから、直接対決といこうじゃねぇか!全力で来いよ!』
呆然とさせる隙も与えない。滑空してさらに速さを身に付けた彼女は一瞬でレイウスの目前に現れた。大きな爪と魔力を纏った剣がぶつかる。その衝撃に、誰も近寄ることすらできない。レイウスも耐え抜こうとするが、所詮は人の身体。押し殺すこともできず、後ろに吹っ飛ばされた。受け身はとったおかげで骨は折れていないが、擦り傷がところどころに見える。
土煙が舞う。剣を持つ手がしびれている。レイウスは再度目の前に大きな何かが向かってくる光景を見た。「見た」と認識した途端、腹に横殴りの衝撃をもろに受け、さらに後方へ吹っ飛んだ。
「カハッ」
吐血する。
「先へ行った勇者らのために、先に逝ったあいつらのためにも、ここで食い止めておかねば・・・!」
もう一度闘志をふり絞り、手をつきつつ目を開き剣を構えて彼は立つ。先ほど当たったのは龍の尻尾だったのか、後ろを向いた彼女が前に向きなおる様子を見た。
「ふぅ」
息を吐く。体内の魔力を改めて循環させ、練り直す。
「『纏・風』」
風属性に変換させた魔力を体中にまとわせ、加えて無詠唱で身体強化をもう一段階あげた。こうすることで、風魔法を出しやすくなり、さらには通常の身体強化や纏よりも一部のステータスが強力な効果を発揮するようになる。ただ、これを維持するため魔力はずっと減り続ける。
早く戦闘不能にさせなければ。
『ん?どこへ行った?まさか逃げたのか?』
風は空気中に存在する。風が吹いている限り、この『纏』は景色に溶け込み周りから見えなくなる。いわゆる透明化する。そして、風が吹く限り敵の傷は増えていく。
「俺は風。当たり前のようにそこにある。」
風と化したレイウスは、龍に風が吹く度に強化させたその剣で身体を切っていく。
『ちっ、こざかしい。』
そういうやいなや彼女はまた翼をはためかせ空へ舞っていく。
「それを待っていたっ!」
龍は翼をはためかせることで爆風を起こしながら空を舞う。はたまたレイウスは今風を自分の力としてふるっている。この状況はそんな彼にとって好機であり最後のチャンスでもあった。
「俺は風。」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
レイウスの姿は誰にも見えない。龍が起こした爆風は渦を巻き、そして鋭い剣となり龍に向かっていく。
『風がオレの方に!?ぐぅあっ!』
風は避けることもいなすこともできない。風が横殴りに龍に吹きかかっているのがわかったその瞬間、その胴体は真っ二つに切れていた。切断面まで鮮やかだ。そして、剣は龍の身体を切り落とさず途中で止まっていた。魔力が切れ意識を失っていながらも剣を手放さないレイウスとともに。
『やりやがったな・・・。強ぇヤツだったが、オレの・・・。』
風はいつの間にか止んでいた。この戦場で、この荒れ地で今、例外はなくみな倒れていた。