第41話 作戦開始③
夜明け前。
魔物も寝静まった平原の北方をダレス率いる王立軍が進んでいく。これからの戦いに興奮状態にある彼らは、闇夜の中で異様な空気を醸し出していた。
「よかったんですか?ダレス様。」
「ん?なにがだい?」
隣を歩く宮廷魔術師のカイルが不満そうにダレスに話しかける。
「ダレス様は宮廷最高魔術師ですよ?そんな方が勇者部隊や突入部隊じゃなくてこんな陽動部隊に配属されるなんて。」
「いいんだよ。強い人が一人くらいいないと向こうもこっちに向いてくれないさ。それに後方支援じゃないだけマシだよ。」
ダレスは笑って言った。カイルはまだ何か言いたげだったが、ダレスの笑顔にもう何も言わなくなった。
二人の間に沈黙が降りて、彼らの足音が大きく響く。
すると、突然前を歩いていた騎士が立ち止まった。手元の地図と周りの風景を見比べると、ダレスに向き直る。
「ここかい?」
「はい。こちらです。」
「わかった。ありがとう。本部に連絡してください。」
「了解しました!」
念話機を背負った騎士が少し離れた場所で報告を始める。ダレスはそれを見ると、部隊に戦いの準備を始めるよう、指示を出した。
「ダレス隊からです。予定地点に到着、準備に入るそうです。」
「そうか、わかった。」
後方の本部の一室。アストリアはカイザックと、一人の狼人と共にダレスからの連絡を受けていた。
「では、我々もそろそろ行きます。」
「わざわざありがとうございます。ヴォルフガングさん。」
「セルシア様の命とあらば。では。」
そう言ってヴォルフガングと呼ばれた狼人は部屋を出て行った。
彼が率いるのは突入部隊。王国の軍と、魔国にいるカイザックの妹、セルシアによって派遣された獣人部隊による混合部隊だ。
「ヴォルフガング・ヒルデ、魔国の獣人部隊の『鬼隊長』。獣人の中でも抜きん出て接近戦が得意、か。心強いですね。」
アストリアの言葉にカイザックは宙を見つめながら曖昧に頷く。
「不安ですか。」
「不安ではない。ただ、軍の皆の安全が心配でな。」
「そうですね。」
窓の下ではヴォルフガングが部隊をまとめていた。彼らももうすぐここの陣を出発する。
作戦開始の時刻が刻一刻と迫っていくと同時に、東に広がる黒い靄が少しずつ大きくなっていっていた。