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神聖の転生者  作者: 薄明
第4躍 異世界転移
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第37話 作戦会議

「以上だ。何か質問は?」

一通り説明を終えたアストリアが周りを見渡す。全員が首を振ったのを確認すると、彼は力強い声で会議の解散を伝えた。

その途端、会議に出席していた面々は無造作に立ち上がり、各々の部下に指示を出すべく慌ただしく部屋から出ていった。


後に残された俺たちはどうすればいいか分からずにクローカーの様子をうかがうも、彼はまっすぐにアストリアを見つめたまま動かなかった。

そうこうしているうちに他の人々は全員出ていき、部屋に静寂が訪れた。


「訓練中のところ急に呼ぶことになってすまない。事情はクローカーから聞いていると思うが。」

残った面々の顔を確認し、アストリアが話し始める。誰もいないせいか、先ほどより声がよく響く。


「君たちには狂神と対峙してもらうことになる。それについてもう少し詳しい説明をしようと思う。」

そう告げると彼は地図の上に数枚の紙のような物を広げた。


羊皮紙に似た色のそれには狂神と思しき者の顔をはじめ、丸を幾重にも重ねた図形など、様々なものが描かれていた。


「まずこれが狂神だ。身長はおよそ2メートル。黒い服に赤い角を生やしているらしいと報告が入った。大きいからすぐわかるだろう。」

兵士の誰かが描いたのだろうスケッチが前に出される。急いで描いたのかラフなスケッチではあるものの、そのおどろおどろしさは伝わってきた。


「そしてこいつの周囲には謎の気体が漂っている。我々は『瘴気』と呼称しているが、特有の魔法かスキルだろうと思う。狂神に近ければ影響は大きく、離れるほど小さくなる。」

そういいながら彼は図形が描かれた紙を指して説明する。


「この瘴気の影響下では魔物は意識を奪われ、無条件で人を襲うようになる。瘴気にやられた魔物は体色が黒くなり、瞳が白濁する。もしそういう魔物を見つけたら直ちに退避しろ。いいな?」

「は、はい...。」

反射で返事をしたものの、声がかすれて出てこなかった。


「あの...。」

横から小さな声がした。見ると海里が不安そうに手を挙げていた。


「その瘴気って私たちに影響はないんですか?」

「影響はない。あるのは魔物のみだ。」

「よかった...。」

一瞬ほっとした空気が流れたような気がした。


「アリサ、お前は治癒魔法使いだったな?」

「は、はい!」

突然名前を呼ばれた有沙が声を上ずらせて答える。


「『凪』は使えるか?」

「え、ええ、使えると、思います...。」

「わかった。その能力は瘴気にやられた魔物に有効との報告があがっている。いざというときはその能力を使え。」

「わかりました...。」

そういって彼女は頷いたものの、明らかに表情は不安そうだった。



その後、アストリアやカイザックから激励の言葉に見送られ、俺たちはその部屋を出た。


何か用事があるらしいクローカーに代わり、リクトが前に立って歩き出す。

「じゃあ着いてきて。案内するから。」

そういって彼は建物を出ると基地内を足早に歩き始めた。鎧の音や人々の怒声が流れ込んでくる。


やがて俺たちは小さな広場に出た。

「わぁ!馬だ!」

海里が指を差す方向には馬に似た魔物や台車らしきものが止まっていて、その奥には申し訳程度の柵が張り巡らされていた。

「ああ、ノークベルトだね。君たちの世界ではウマという生き物に似ているらしい。」

身体の表面がうろこであったり、しっぽが龍のような形であること以外は確かに馬に似ている。


「あれって乗れるの?」

「ノークベルトに荷台をつけて『龍車』として使うことの方が多いかな。そのまま乗ることも多いけど、大きいから扱うのは難しいと思うよ。」

「そっかぁ」

有沙と海里が少し残念そうに呟く。


「乗るのは無理でも触ることくらいならできるから近寄ってみよっか。」

リクトの言葉に嬉しそうに駆け出す二人。近寄るとその大きさに少し圧倒された。肩の高さは180cmほどあろうか。頭の上まで含めれば2mはあるだろう。その巨体に金色の目は、まるで伝説に出てくる麒麟を彷彿とさせる風貌だった。


「あの柵の先、大体地平線かその向こうぐらいに狂神がいる。もうあの柵を越えたら、戦場だよ。」

ノークベルトの奥、リクトが指した先には荒れ果てた土地が広がっていた。ところどころに盛り上がった部分や小さな草が生えている以外は本当に何もない荒野だった。


「あそこに狂神が...。」

海里の呟きによって、それまでどこか違う世界の話のように思っていた俺たちは現実を突き付けられた。

「私、ちゃんと戦えるかな...。」


海里や有沙の不安そうな声を聞いたリクトがいつもと違う表情で話し始める。

「君たちはずっと英雄の森で訓練してきたから知らないかもしれないけど、勇者の成長速度は一般の人に比べて早いんだ。多分勇者の特権だと思う。それに、何かあっても僕たちが守るしね。」

その明るい言葉とは裏腹にリクトの目は真剣だった。4人を順番に見ていったリクトの目が俺と合う。彼は小さくうなずき、そしていつものように笑って見せた。


「ちょっと真面目になりすぎたかな。ね、レイウス。」

聞き覚えのない名前に俺たちはあたりを見回した。


俺たちの後ろ、いつの間にか合流していたクローカーの横に赤髪の騎士が立っていた。

「彼は君たちの護衛をしてくれる、宮廷騎士団でも腕利きの騎士だよ。」

「やめてくれ、恥ずかしい。」

リクトのいじわるな言葉をレイウスは肩をすくめて流すと、改めて「ヴァルハード・レイウス」と名乗った。


細身の身体に漂う雰囲気が、彼がただの騎士ではないことを表していた。気づけば俺はそんな彼に頭を下げていた。

「レイウスさん、よろしくお願いします!!」

「任せろ。お前たちは俺が絶対に無傷で届けてやる。」

レイウスは俺の頭を上げさせるとそう告げた。


「俺は準備があるから一度戻る。また後で会おう。」

そう言い残し、彼は行き交う人々の流れに消えていった。去り際に俺の肩をぽんと叩いて。


「レイウスさん、強そうだね...。」

耳元で呟いた有沙の言葉に俺は深く頷いてみせた。レイウスに叩かれた肩の痛みが彼の思いを告げているような気がした。


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