第35話 緊急事態①
少し時は戻り、正弘たちのいる英雄の森から少し離れたところにあるカルーセル王国の王都、マラーノ。
この街は白く美しい王城を中心に、木と石でできた建物が立ち並ぶ、この世界でも屈指の美しい街として知られている。と同時に、王国の情報がひっきりなしに入ってくる眠らない街でもあった。
「大変です!」
夜が明けようとする頃、1人の騎士が近衛兵の官舎に飛び込んできた。
「どうした?!」
「狂神に対する防衛ラインが、突破されました!」
息も絶え絶えの彼の口から飛び出した報告は、一瞬で王国を混乱に陥れた。
王城では王国の重臣による緊急会議が開かれ、対応が話し合われることになった。
「神からのお告げによれば狂神が本格的に動き始めるのは二ヶ月後ではなかったのか?」
「予想外の事態でした。」
「魔術師も騎士も足りていない現状でどうするのか!」
「勇者がいるだろう!」
「彼らはまだ訓練中だ!」
会議の場は怒声が飛び交い、まったく議論が進まない。
「国王陛下!いかがなさいますか!」
助けを求めるような重臣の言葉に、王がゆっくりと口を開いた。
「非常事態だ。近衛兵以外の全ての戦力をそこに注ぎ込むのだ。」
「しかし!」
「これは命令だ!」
王の有無を言わせぬ言葉に、王城中が慌ただしくなった。
王城の美しい庭は運び込まれた物資や人で埋まり、燃え上がる松明が物々しい雰囲気を醸し出す。
「クローカー!」
「はい!」
他の魔術師とともに準備に当たっていたクローカーは、突然上司にあたる魔術師から呼び止められた。
「お前はここの準備ができ次第、英雄の森に飛び、彼らを連れて前線にいけ。」
「しかし彼らはまだ訓練中では?」
「仕方がない。非常事態だ。」
「.....わかりました。」
クローカーはしぶしぶうなずき、物資を運ぶ人々のもとへと戻った。いつの間にか朝日が昇り始めていた。
「でさー、マジで最悪だったんだよー。」
宿舎の食堂。俺たちは先に起きていた海里たちとともに朝食を取っていた。
神村も同じく悪夢を見たようで、なぜか若干自慢げにその内容を語っていた。
頃合いを見計らって食器を片付けようと腰を上げた途端、慌ただしくクローカーが入ってきた。
「みなさん、緊急事態です。直ちに準備してください!」