第34話 悪夢
お待たせしました!遅くなりました。
その日の午後は本当に観光だけで終わってしまった。リクトはこの世界ではかなり名が知られているのか、行く先々で引っ張りだこだった。そして、この世界の人たちは見ず知らずの俺たちにも優しかった。リクトに置いて行かれてぼんやりと立ち尽くしていた俺たちに気を遣ってか、料理を出してくれたり、お土産にお菓子をくれたりした。そして、彼らは決まってこう言った。「死なないでね」と。
宿舎に帰ってきた頃には日も沈みかけていた。いつもはときめくような宿舎のご飯の匂いも、疲れがたまり満腹だった俺たちにはきつかった。
「では、明日から巡回となります。今日はしっかり休んで明日に備えてください。」
クローカーはそう告げると食堂を出て行った。残された俺たちは誰からともなくため息をついた。
「俺もう動けねぇわ。」
「俺も。」
神村ともども机に突っ伏す。隣ではしゃぐ女子たちの声が耳を刺す。
「ね、ね、あそこのタルト?みたいなののお店すごいかわいくなかった?」
「うん!すっごくかわいかった!」
「また行きたいねー。」
「元気だなぁ...。」
神村の、声にならないような声が微かに聞こえた。寝落ちする前にと、俺は無理やり体を起こし、部屋に向かった。
部屋の明かりをつけ、近くにあった椅子に座り込んだ。
「いやーーCランクかぁ。やっとギルドに入れたんだなぁ。」
ポケットに入れていたギルドカードを取り出して、今日したことを独りごちる。
「ラッセルさん、結構強かったな。俺の風魔法もまだまだなようだし、自分で他の魔法を応用したものだけじゃなくて、特大魔法もそろそろ覚えていかないとなぁ。前はガルーダに教わったけど今は・・・」
魔法について考え事をしている内に危うく寝てしまいそうになった自分を奮い立たせ、俺は水だけでも浴びようと立ち上がった。
ここはどこかの村だろうか。燃え盛る火の海の真ん中に俺は立っていた。
周囲には悲鳴が飛び交い、着の身着のまま逃げ惑う人々がいた。よく見れば、元々店が立ち並んでいたであろう場所には醜悪な魔物がいて、逃げ遅れた人々を襲っていた。そこは阿鼻叫喚と化していた。
手を伸ばすものの手は届かず、魔法を出そうとするものの何も手からは出てこない。
俺の方に近寄ってくる何かに操られた男。彼は殺してくれ、と言わんばかりにその手に持つ剣を俺に向かって振り下ろした。
「うわぁぁぁぁぁっ!!はっ!はぁはぁはぁ・・・。夢か・・・。」
夢であったことに安堵するとともに、目覚めの悪さに胸がざわめく。
どうせ夢だと自分に言い聞かせて、食堂に向かおうと部屋の扉を開けた。
「あ、まさくんおはよー」
廊下に出ると、ちょうどその場を通りかかった有沙に出会った。朝日の差し込む廊下を並んで歩く。今日から巡回が始まることに胸を躍らせる有沙の様子を見ていると、朝の嫌な夢もどこかへ消えていくようだった。