第33話 緑翠亭
遅くなりました……
外に出ると、太陽は真上にあった。
「もう昼か。みんな、お腹空いたよね?今日は巡回というより観光みたいなモノだから、僕のオススメの店に連れてってあげるよ。それでいいかな?」
「いいわよ。というより、来たばっかで何も知らないからどこでもいいわ。」
そんな会話を海里たちがしている中で、正弘は少し考え事をしていた。
ラッセルは強かった。が、あくまで風魔法しか使えない俺にしては、だ。
ラッセルとパーティーを組んだことがあるみたいな話をしていたことから、リクトは彼と同じかそれ以上かだと思うんだが。
昔は人間でも強いやつはまあまあいたが、(といっても知り合ったのは少ないが。)今はどうなんだろうか。リクトは俺の子孫だけど、どれぐらい強いのか…?
「ついたよ。ここがオススメの店、緑翠亭だ。」
その言葉で俺は我に返った。とりあえず今は食事を楽しもう。
中に入って席につく。
「ここの店の料理は全部美味しいんだけど、僕のイチオシはこれだよ。」
「リクトがそう言うなら、俺もそうしようかな。」
「じゃあ、タイシ。ちょっと食べさせてね。」
「ああ。」
「私はこっちで」
という感じで注文を終えると、彼らの間に、少し安心したような空気が流れた。
「待っている間に今後の話をしておこうかな」
リクトが口を開く。
「とりあえず今日はさっきも言ったようにこの辺の散策をして終わり。明日から本格的に巡回が始まることになるけど、一つ気をつけておいてほしいことがある。巡回中は絶対に気を抜かないでほしい。」
「はい。」
彼の言葉が少し強くなり、思わず気が引き締まる。
「で、とりあえず巡回は3日に一回、この広い王都を何回かに分けて行うんだ。それ以外の日は冒険者として活動する日。他の街に移動したりするから、みんなには最低でもCランクまで上げてもらうつもりだよ。」
彼の言葉にうなずく。
「ま、そんな話はあとにして、ご飯だね!」
その後他愛もない話をして待っていると、美味しそうな香りが漂ってきた。
「おまたせしました。水鹿のワイン煮込みと、火鳥のエルガータとじご飯です。」
目の前に湯気を立てる料理が置かれる。
「いただきます!」
俺は目の前の水鹿にフォークを刺し、口に運んだ。やわらかい肉が口の中でほぐれ、赤ワインのような深い味が広がる。
「水鹿の肉は、なんでも君たちの世界の鹿の肉と味が似てるらしい。で、火鳥のエルガータとじはオヤコドン?みたいな感じらしいよ。」
リクトの説明が入る。
「確かに味が似てるわ!」
一人だけ火鳥のエルガータとじを食べている海里が言った。
「なぁ、海里。一口くれよ」
「はーい。ほらあ…」
あーん、と言いかけたところで、周りに人がいるのを思い出したのか、海里は顔を真っ赤に染めながらうつむいた。
「別に俺はいいと思うぞ。」
「うん、私も。」
「ん?何の話だ?」
「なんでもないっ!」
「え?ないの?」
「自分で食べて!ほら!」
少し残念そうな神村と真っ赤な海里。
正弘は二人のデートを一度見てみたいと思った。ちらりと横のリクトをうかがうと、彼は二人のやり取りをまるで近所の子どもでも見るような温かい目線で見ていた。