第29話 ギルド④ 〜海里VS〜
「はじめまして。今回の試験を担当するヘレナです。よろしくね!」
一方の海里もまた、試験の説明を受けていた。
「海里です。よろしくお願いします」
「そんなに固くならなくていいよ〜。軽く試験の説明だけしておくね〜」
ヘレナの口調の柔らかさに、はじめは緊張していた海里も少しずつほぐれてきたのか、笑顔が出てくるようになっていく。
「こんな感じかな。どう?質問とかある?」
「多分大丈夫です!あ、でも…」
「ん?なにか聞きたいこととかあった?」
「いや、一応実戦はやったことあるんですけど大体まさくんが相手してくれてて」
「ああ、ラッセルさんが相手してる人?」
「はい。なので実際に戦うの実質初めてみたいな感じで、ちょっと怖いっていうか…」
また笑顔が消えてしまった海里に、ヘレナは優しく語りかけた。
「大丈夫だよ。実際に体に傷を負うわけじゃなくて当たったかの判定だけだから。それに私からはあまり攻撃はしないから。」
「そうなんですか?」
「うん。模擬試験もレベルがいくつかあるんだ。さっき的に向かって魔法打ったでしょ?あれをもとにして、レベルを決めてるの。ミサトちゃんは私に攻撃をあてるだけの試験でいいんだ。マサヒロくんは本気で戦うけどね〜」
ヘレナの言葉に、少し安心感を覚える。
「ちょっと安心しました!」
「よかった〜。なら始めよっか!」
白いラインに立つ海里。視線の先のヘレナが『始め』というと同時に彼女はヘレナに向かって火球を撃ち放った。
「よく頑張ったと思うよ〜!」
「ありがとうございます…!」
結局、海里は魔力に限界が来て、8分位で試験は終了した。
「お疲れさま!しばらくは体が少し重いと思うけど、いずれは回復するから安心してね。あ、でも走ったりとかはダメだからね?」
「そもそも疲れて走れないです…」
海里の言葉に満面の笑顔を浮かべたヘレナ。彼女は海里を気遣うようにして、ゆっくりと部屋を出ていった。
「マサヒロくんの部屋、見てみる?」
「はい!」
部屋の横に設けられた観覧スペース。そこに入った海里は中の光景に圧倒された。
「相手してるの、うちの試験官の中でも5本指に入るくらい強い人で。確かマサヒロくんの属性が風だったじゃん?模擬戦では、試験官のほうが属性不利になるように組まれるんだよ。」
「ってことはヘレナさんは水属性なんですか?」
「そ。ちなみに、ラッセルさんは土属性なんだ」
「そうなんですね」
海里は二人の戦いに視線を戻した。
中での正弘の戦いは、英雄の森で見たようなものよりも遥かに高度だった。時々風に囲まれたり目で追えない程速かったりして正弘の姿を見失うこともあった。
数分後、戦いはあっけなく終った。時間切れだった。