第17話 森の探索〜コボルト戦〜と帰還
先陣を切ったのは神村だった。
腰に刺した鞘から剣を抜き、両手に持って左側にいた1体目のコボルトを真正面から切った。右目を切られたコボルトは激昂して神村に勢い良く噛みつき、それを避けた神村は横から参戦した2体目のコボルトの噛みつきを剣で受け止めた。
つい最近まで初心者だったとは思えない体捌きで2体のコボルトと戦っている。それでもかすり傷はつくが、ある程度傷ついたところで有沙が治癒を施している。
一方、海里は神村が切りかかったすぐ後に右側のコボルト1体に『火・火柱』をお見舞いした。火力は充分にあったので、直撃した1体は黒焦げになり、周りにいた2,3体にも火の粉が降りかかり軽いやけどを負った。
地面から急に湧き上がった火が消えるまでの時間を無駄にせず、海里は火の粉を浴びた3体に『火・火球』をぶつけた。
「”我が命に応えて火の球を灯せ”」
その言霊は果たして人の顔ほどの火球を3つ作って正確に獲物に飛んでいき、見事にそれぞれに直撃した。2体は倒れ、1体はそれでもまだ耐えており、今にも海里に飛びかかろうとしていた。
海里は魔力切れで地面にうずくまっていた。海里の目の前に鋭い歯が見え、ギラついた目がしっかりと海里を見ていた。海里はすっかり怯えていた。少しも動けずにいた。が、突如としてコボルトの顔が、睨みつけていた目が消え去った。今も続いているキン、キンという音しか聞こえなかった。
「ありがと。助かったよ、まさくん。」
「いやいや、助けるのが当たり前だろ。神村に怒られるしな。」
正弘の『風・風弾』がコボルトに当たり、鋭い攻撃により顔が風でつぶされたのだった。ちなみに、『風・風弾』は球よりも威力が強く、中級魔術の範囲に入っている。
3体と戦っていた神村も正弘の援護を受けて、既に2体葬っていた。
「あの人型のやつがボスだろう。全力で行くぞ!」
その言葉どおり、正弘は『風・風刃』を無詠唱で放ち、魔物の片手を肩から切断させた。
突然のことで呆気にとられるコボルトリーダーは、痛みで我に返り、激昂した表情でこちらを睨んだ。
「”منهنجي زندگي جي جواب ۾ منهنجي فائر با”」
何語かは分からないが、何かをつぶやいた後それに呼応するように水球が2つ現れた。おそらく『水・水球』を詠唱したのだろう。
1つは少し魔力が回復し詠唱が完了した海里に向かっていった。ちょうど現れた火球は水球とぶつかり2つとも消えた。
もう1つは神村の方に向かっていったが、正弘は神村を守るように『風・障壁』を唱え、それにより神村はコボルトにトドメの一撃を与えた。
残りは片手を失い魔力も残り僅かな人型のコボルトだけだ。
「正弘、助かった。」
「おう。あとは俺がやる。海里!有沙の後ろに隠れて!神村も退がってくれ。」
「わかったわ。」
「任せたぞ。」
「おう」
仲間からの期待を胸に、正弘は『風・小竜巻』で向かってくるコボルトリーダーの足を絡め取り、続けて『風・風弾』でとどめをさした。ちなみに、小竜巻は正弘のオリジナルだ。名称はそのまま。
魔石を回収した途端、正弘たちの緊張の糸は途切れた。
「あ”あ”〜〜、疲れたーーー!」
神村は腰から崩れ落ち、海里はそばの木にもたれかかって座り込んだ。
正弘は『探知』を行い、周りに敵がいないことを確認していた。
「そろそろ精神的にも身体的にも限界だし、帰るか。」
「そうだな、それがいいぜ。でも帰りに魔物とあったらきついな〜」
「それは大丈夫だ。俺の魔法で回避していくからな。」
「お!頼むぞ〜!海里、立てるか?」
「うん。もう少し頑張る。」
「じゃあ、行くか。」
「で?最初の実践はどうでしたか?」
と、クローカーが聞く。
昨日は帰ってきて部屋に戻った途端、糸が切れたように皆眠ってしまい、夕食は正弘が一人で食べた。
初めてのことで色々疲れたのか今日も昼まで寝ていた。
それを想定していたクローカーは今日を元々休日としていた、と説明した。さらに、正弘がそんなに疲れてなさそうなのは驚いたとも言っていた。だが、彼はそのことを些細な事だろうと思い、昨日の成果と内容を聞くために食堂に一同を集めていた。