第1話 石碑
「驚かせてしまい、申し訳ありません。」
4人の前に唐突に姿を表した男。彼は濃い紫のローブに身を包み、腰に剣を刺した男を数人護衛に連れていた。
「私は宮廷魔法師のクローカー。あなた達をこの世界に召喚した人間です。」
明らかに異世界風な人を見たせいか、海里たちは異世界をはっきりと認識する。
「なんで私達なんですか?!私達を元の世界に帰してください!」
海里がその男に尋ねる。
「まず、元の世界に帰すことは、あの石碑に書いているミッションをクリアしてからじゃないと無理です。なぜあなたたちなのかは恐らくこの世界”タグリア”の創造神である産神様がお選びになったからだと思います。」
クローカーは一旦話を区切り、石碑の側に歩いて行った。数歩進んでからこちらを振り向いてまた話し始める。
「この石碑は約2000年前、この国がまだカルーセル王国と呼ばれていた時に人々を助けた、”復活の英雄”ソヴァール様が後世の勇者の為と言ってお書きになった伝書です。まずは勇者様方にこれを読んでいただき、追加説明を私が行おうと思っています。」
さっきまでよく目にしていた日本語の文を、興味津々といった表情で読みに行く神村。
彼に手を引かれている海里は状況を認識しているものの理解ができない様子だった。
正弘は立ち上がる有沙に手を貸し、ゆっくりと神村達の後を追う。
石碑は間近で見ると結構大きく、上の方は見上げなければ見えなかった。
神村が黙読し始めるのを無視して、正弘は石碑の文章を少し恥ずかし気に朗読し始める。
「新暦1200年(郭歴4400年)
この場にいる地球人は勇者としてこの世界を救うために召喚されたものであり、『ステータス』を念じて自分の能力を駆使し、仲間たちと切磋琢磨して壁を超えろ。
今回の取り除くべき脅威は『狂神ディスペル』だ。
勇者は固有スキルと言語変換という能力をもらうことができる。それを使って仲間を信じ、悪を倒せ。
『石田正弘 勇者 風魔法
石田海里 勇者 火魔法
神村大志 勇者 聖剣術
荒山有沙 勇者 治癒魔法』
なお、詳細は個人のステータスに記載している。」
俺が昔書いたものよりは大分短くなっていた。
今思い起こせば恥ずかしい自分の実体験がばっさり削られていた。脅威の対象の説明も石碑には載っていなかった。ある意味ありがたい気がする。
もう一度、固有スキルを見て俺はあっと思った。ステータスの魔法の欄の???は風魔法だったのか、と気づいた。
「うおっ!これがステータスか!」
前の方で神村が急に大声を出していた。驚きすぎたようで、心臓を抑えて息を吐いていた海里が神村の頭を叩く様子が見える。
「わあっ!すごい。」
隣で有沙が控えめにつぶやいている。
俺たちがステータスを見る素振りをするのを確認してから、宮廷魔法師は口を開いた。