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神聖の転生者  作者: 薄明
閑話3.イベント集
170/231

異世界部元部長 卒業式

閑話最終話です!

「私の考えでは次の部長は正弘くんがいいと思ったわ。どうかしら。」



文化祭後の打ち上げ、半ば予想していた長屋のによる指名。満場一致により、正弘が部長になってから約半年。ついに長屋たちが学校を離れる時が来た。




















「卒業生、入場します。」


司会の教頭の声と同時に体育館の扉が開けられ、拍手が始まる。



1組の委員を先頭にして急遽敷かれたレッドカーペットの上を3年生がどんどん歩いて行く。

正弘は見覚えのある先輩たちの姿を追いかけながら手を叩き続けていた。



「では、ただいまより第58回、卒業式を行います―――」





























「正弘くん、海里さん。」



卒業式も終わり、体育館から肌寒い外に出たところで、後ろから声をかけられた。

振り向くと、卒業証書を持ったままの長屋が立っていた。



「長屋先輩、卒業おめでとうございます。」

「ありがとう。休日なのに呼び出されるなんて酷ね。去年まではなかったのよ。」

「確かに去年は休みでしたね。」

「ええ。」



そこで長屋が若干置いてけぼりをくらっている海里に向き直った。



「海里さん。」

「あ、はい。ご卒業おめでとうございます。」

「ありがとう。若干今更ね。」

「すみません。」



二人は本来初対面ではないはずだが、海里はなぜか緊張していた。



「海里さんって確か正弘くんの妹さんだったはず・・。」

「だからあれは違いますって!」



長屋にからかわれた海里が正弘を睨む。数歩後ずさりして慌てて長屋に助けを求める正弘。見慣れた顔はそっと笑って彼の目線をごまかした。



「なんか寂しいわね。もう一回異世界部の部室に行こうかしら。」

「いいですね、行きましょうか。」

「でも長屋先輩、クラスの方はいいんですか?」

「そうね、一応覗いていくわ。正弘くんたちも終礼が終わったらうちのクラスに来てもらえるかしら。」

「わかりました。」

「また後で。」



そういうと長屋は手を振りながら校舎に消えていった。その場に取り残された二人はのんびりと話しながら教室へ向かった。


















「あー!まさくん!どこ行ってたのー?」



教室に入ると、暇していた有沙と神村が別々に近寄ってきた。


「先輩と話してた。異世界部の。」

「あーそっか、部長さんだっけ。」

「うん。」

「部長さんと元部長さんの話だからねー、重かったよー?」

「海里ついて行けた?」



神村の問いに海里は首を振る。神村はその答えを知っていたように頷いた。


海里が口を開こうとしたとき、教室に担任が入って来て、一時解散になった。



担任は軽く連絡を伝えるとさっさと教室を出ていってしまった。彼にとっても本来休日であったはずの卒業式に呼び出されるのは面倒だったのだろうか。



いざ帰らんとカバンを背負う有沙と神村に状況を説明し、二人は教室を出た。近くの階段から上にあがり、長屋の教室まで向かう。



どの教室も卒業式で浮き立っていて、外まで声が漏れていた。壁によりかかり、言葉少なに海里と会話を交わす。




「長屋先輩も卒業かー・・・」

「次はまさくんの番だね!」

「俺に部長なんかできるのかなぁ。羽山先輩や長屋先輩みたいになれる気がしない・・・。

「まぁ、八島くんいるし架澄ちゃんもいるから大丈夫だとおもうよー。かわいい後輩ちゃんもいるし。」

「後輩に名前覚えられてたっけ。俺。」

「んー、若干厨二入ってる先輩って言ったら多分わかってくれると思うよ。」

「それで覚えられるのだけはやめてほしいな。」


正弘の返しに海里は明るい声で笑った。





















「ごめんなさい、待たせたわね。」



待ち始めて気がつけば30分経った頃、人の波が引いた後にカバンを背負った長屋が出てきた。手に紙袋を持った彼女は、そのまま階段を降りて部室に向かい始めた。



多くの人が帰った校舎内は静かで、窓から差し込んだ日の光が階段の一部分だけ温める。

長屋は珍しく饒舌で、正弘や海里は相槌を打つことのほうが多かった。




「とうとう私も卒業かー・・・。」

「寂しいですか?」

「そりゃ寂しいわよ。暇なら遊びに来るわ。異世界部が潰れてたら怒るからね?」

「長屋先輩、異世界部のこと大好きなんですね。」

「大好きってわけじゃないけどでも自分が3年間在籍したクラブの行く末は気になるじゃない?ねぇ、海里さん。」

「え、あ、はい。そうですね。」



うつむいて歩いていた海里は突然話題を振られ、慌てて顔を上げた。


校舎の角を曲がり、長屋の秘密の小部屋の前を通り、見慣れた校舎の隅に向かう。異世界部の部室はいつも通り、薄暗かった。



「さすがに空いてないわよね。」

「鍵持ってきましょうか。」

「お願い。」

「あれ、空いてますよ?」

「え?」



鍵を取りに行こうと走り出しかけた正弘の足を海里の言葉が引き止める。確かに海里の手で扉はあっさり開けられていた。



部室は何者かによってカーテンと窓が開け放たれていつも以上に明るかった。




「あの、長屋先輩。」

「ん?」

「これ、どうするんですか?」



窓際においてあったダンボールに入った紅茶セットを持ち上げた。中に入っていたコップの数は文化祭後から数を減らしていた。



「そうね、あげるわ。次の紅茶係は正弘くんね。」

「紅茶係?」

「異世界部で紅茶を入れてそれを配る係。私の代からちゃんとした係になったの。2年連続で私がやってたけど。」

「あ、そうなんですか。が、頑張ります。」


「私、紅茶の味にはうるさいから、たまに遊びに来て味が落ちてたら特訓よ。」

「いきなりなにも言われてないのに味に文句言われても困りますって。」

「だからそこはあなたの技量次第ね。」

「どういうことですかー!」



まるで茶番のような会話に傍から見ていた海里が吹いた。


長屋と正弘は目を合わせるとお互いに軽く肩をすくめた。



開け放した窓から桜の花びらが一枚迷い込み、「石井」と書かれたコップの上に落ちた。







「じゃあ、そろそろ行こうかしら。」


1時間ほど喋り倒したあと、長屋の言葉で3人は腰を上げた。長屋は窓から一瞬校舎を見下ろすと踵を返し、教室の出口に向かった。体から遅れて黒色の髪が舞った。



「ありがとう。さようなら。」



若干立て付けの悪い扉を長屋が閉める。閉まる直前、カーテンが翻って一瞬部室が光で包まれた。


「あとは任せたわよ。」




振り向かずに言葉を置く。窓の光に照らされながら靴箱に向かい廊下を歩く彼女の後ろ姿。



どこからか吹き込んだ春の風が彼女の黒い髪で遊び、消えていった。


次話から第4章を始めるつもりですが、少し投稿が遅れます。


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