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神聖の転生者  作者: 薄明
閑話3.イベント集
169/231

お正月 in 石井家実家

登場人物多めです。誰かわからない!という方は下のURLに登場人物一覧があります。その一覧の下の方に今回の登場人物があると思います。



https://ncode.syosetu.com/n1629eb/1/

実家が自分の生家だった正弘にとって、休みごとに実家に帰るというのは新鮮だった。



「お正月は大阪の実家で過ごすからそれまでに宿題を終わらせるように」



父親から終業式に告げられた言葉に正弘は少し焦る。



夏休みのときは『夏休みの最初の週は宿題を終わらせることに努力し、その週が終わればヒャッハー状態に突入、が理想的な夏休みの過ごし方である。』などと言ってみたものの、結局今までにきちんとこういう生活を送れたことは数えるほどしかない。


大体は休みの最終週に全力を注いで終わらせるのである。
















「さすがに一週間で全部の宿題終わらせるのは無理だって。」

「私終わったし、まさくんも頑張れば終わったんじゃない?」



大阪に向かう新幹線の中。正弘は海里の隣で数学の宿題に追われていた。

だが、なにせ乗っているのが新幹線であるため、彼の目線はちょくちょく窓の外へと逃げた。しばらくして海里につつかれてあわてて宿題に向かい直すことをひたすら繰り返している彼がそう簡単に終わらせられるはずもなく、新幹線が京都に着いても彼の宿題は半分も終わっていなかった。







「彩花ちゃん!」

「あ、海里ちゃんー!おひさー!」



人が多く行き交う京都駅の中央口。同じような格好をした観光客が多くいるなか、海里はいち早く従姉妹の彩花を探しだし、駆け出す。



「やっぱり家族の絆、なんだろうな。」

「あ、正弘さん!久しぶりです!」



海里の探知能力というべきなのかわからないものに感心していると、目の前に人が立ち、声をかけてきた。



「お、将吾じゃん。久しぶり!」


夏休みの帰省で少ない男子の間で意気投合した将吾。彼は夏よりも正弘の目線に近づいていた。



「こいつまたでかくなりやがった。」

「成長期なんで仕方ないですよ!」



夏以来の再開にあちこちで会話に花が咲く。どうやら大阪の石井家総出で出迎えに来たらしく、大人数で盛り上がり気味になっている彼らは喧騒の京都駅でも少し目立ち始めていた。













「卓人、おかえりなさい」

「母さん、ただいま。」



正弘たちが実家のドアを開けると、彼らの祖母が優しく出迎える。本当に一人で掃除をしたのかと疑いたくなるほどのきれいさに正弘はいつも感心する。



「京都で会えたみたいやね」

「あんなに大人数で出迎えに来たらそりゃ会えるやろ」

「そんなに大人数で行かなくてもいいって言うてんけど、みんなが出迎えに行きたい言うたからな。止めんかってん。」

「そりゃ行きたがるやろな。久しぶりに親戚が一同に会するねんから。」



夏休みには聞けなかった義父の関西弁。その姿に彼は新鮮味を覚えた。



「疲れてるやろうし今日は軽く休んでな。」



空き部屋に通され、義祖母はそう言い残して去った。海里は早速押し入れから布団を引っ張りだし、敷いてその上に寝転んだ。



「やれやれ」


一方の正弘は近くにあった机に宿題を置き、ラノベを読み始める。












「今回は正月ってことでどこにもいかずに家で過ごすそうだ。」



しばらく部屋を出ていた義父が帰ってくるなりそう宣告する。基本インドア派の正弘からすれば嬉しい限りだ。



だが、同時に不安が生まれる。


女子組のテンションだ。すでに夏でわかったように大阪の女子組のテンションはおかしいほどに高い。東京では少し控えめな海里もここではなにかが外れたようにはしゃぐ。




「じゃあ、乾杯!」

「乾杯!」

「いぇーい!」



義父の兄である和彦の音頭で一斉にグラスがあたる音がする。


夏のとき恐ろしいほどの確率で向い側がおじさんだったことを思いだし少し身構えていた正弘を裏切るように、彼の向かい側に座ったのは従姉妹の亜理沙だった。



「やっほー。話すの初めて、かなー。よろしくねー。」

「あ、はい。よろしくです。」



騒がしい回りの空気から切り離されたようにそこだけゆっくりとした時間が流れる。



「亜理沙さん、そこの醤油取ってもらっていいですか?」

「これ?はーい」

「ありがとうございます」

「将くんさ、そろそろその敬語どうにかならないのー?」

「一応年上ですし元々の癖ですししょうがないですよ」

「確かにまさくんにも敬語だしねー」

「え、あ、はい。」



突然亜理沙に名前を呼び驚いて思わず箸で挟んでいた豆腐が二つに別れて味噌汁の中に落ち、跳ねた味噌汁の熱さに軽く悲鳴を上げる。



亜理沙はそんな正弘を笑いながら近くにあった紙を渡す。



「あ、ありがとうございます。」

「同い年だからタメでいいよー。将くんじゃないんやからさー」

「亜理沙さん、さりげなく僕をバカにするのやめてくれません?」

「別にバカにしてないじゃーん」


(なんか落ち着くなぁ)


ゆったりとした彼らをおいて、時間はどんどん流れていった。



「あけましておめでとうございます!本年もよろしくお願いしまーす!」



大晦日の深夜、再び宴会場に集まった彼らはお祭り騒ぎのまま年を越した。


酔ってしまった和彦や卓人の代わりにお酒に強い修希が声を上げる。


正弘は亜理沙、将吾たちと共に広間を出ると、外に涼みに出ていた。とはいえ、京都寄りのこの地の夜は凍えるほど寒い。



もう一枚上に羽織り、暗い廊下で飲み物を片手に話す。



「相変わらず賑やかだな。この家は。」

「親戚一同集まると大体こうなんですよ。」

「将くんいっつも途中で耐えれんくなって廊下に逃げてくるもんね。」

「あれは僕には無理です・・・」

「私はなんとかいけるけどねー」


(そりゃ亜理沙、君の周りだけ流れてる空気の速度も静けさも違うんだから)


心の中でツッコミを入れると窓の外を見やる。



「あ、雪だ」



彼の言葉に、窓に背を向けて話していた二人も振り返って窓の外を見る。



真っ暗な世界に、小さなかけらがいくつも舞い落ちる。小さなそのかけらは地面にぶつかっては消えてしまう。だがそのかけらは少しずつ大きくなり、地面に白い斑点を作り始めた。




「明日の朝には積もってるかな」

「積もってるといいですね。」

「まさくん、雪見たことある?」

「ないな。多分初めてだ。東京はほとんど積もらないから」

「そっかそっか」



そこで一度会話が途切れ、静寂が三人を包む。広間の騒ぎも扉で遮られ聞こえない。


一言も話さない空気は、瑞希が呼びにくるまで続いた。



「雪だー!久しぶりに見たー!」

「海里ー?」

「んー?」

「ていっ!」

「ひゃぁ!」



まだ真っ暗な中、初詣に向かう道すがら、海里と彩花は雪のせいでテンションがあがり、手がつけられない状態にまでなりかけた。幸いにも由希乃の柔らかな制止が入り、大事には至らなかった。



「由希乃さん、親戚一同の子ども全員まとめてね?」

「お母さん、優しくてみんなちゃんと話聞くので他の大人たちみんなお母さんに任せてるんです。」

「由希乃さん過労で倒れそう」

「お母さん子ども好きなので余計に喜んでます」

「すっご」

「しかも由希乃さん美人さんだしねー。いいなぁ」

「亜理沙さんも十分かわいいですよ」

「お、いいこと言うじゃん!帰り道にお菓子買ってあげようか」


カップルのコントのような会話に正弘は笑いを覚える。




住宅地にある神社がゆえか、深夜にも関わらず長蛇の列ができていた。

30分ほどかけて賽銭箱の前にたどり着く。


5円玉を投げ入れて、心のなかで願い事を唱えた。





「じゃあおやすみー。」



親たちは家に帰ってくるなり疲れたのか寝てしまった。正弘も寝ようと布団を敷き、眠りの世界に入ろうとした時、誰かに揺り起こされた。



「雪、積もってるよ。」



うっすら開けた目に亜里沙の顔が飛び込んでくる。。廊下に出ると一足先に将吾も出ていた。

廊下の寒さに一瞬で目が覚める。慌てて部屋に戻ると、上着を取り、もう一度廊下に出た。



「ちょっと歩かへん?」

「亜里沙さん、捕まりますよ?」

「大丈夫だよ。ほんの少しなら。」

「いいね。」



亜里沙の提案に正弘のノリが加わり、3人はつっかけを履いて外に出た。サンダルに接した裸足が瞬く間に

冷たくなっていった。



参拝客も一段落ついたのか周りは静かで雪を踏むサンダルの音だけがその場に響いていた。さきほどと変わらずに無言のままあたりを歩く。



「雪積もってるの初めて見た。」

「案外この辺積もらないし私も積もっているのを見たのは数えるほどだなー。」

「僕もです。」



一通り歩いたあと、3人は家の近くの公園いたどり着いた。階段を上り、公園内に入ると、見覚えのある姿を見つけた。



「あれ、お姉ちゃん?」

「あ、亜里沙。どうしたん?」

「雪が積もってたから散歩してた。」

「そっか。亜里沙もか。」

「お姉ちゃんも?」



亜里沙の問いかけに亜里沙の姉、瑞希が軽く頷く。近くによると、彼女につられて上を見た。



真っ暗な世界から点々と白い雪が降り落ちる。静寂に包まれたモノトーンの世界に遠くに響く車の音が割り込んでくる。


半時ほど経つまで彼らは一言も話さずに立っていた。



「そろそろ帰ろっか。体冷えるし。」


瑞希の言葉に誰からともなく頷く。行きに出来た、ほぼ埋まりかけている足跡をたどる。家に帰る頃、手は完全に凍りかけていた。

















次の日、当然のことながら全員が起ききったのは午後3時を回った頃だった。結局その日から何もせずに三が日は終わった。












「あれ、まさくんそれ。」

「ああ、これね。亜里沙にもらった。」

「ふーん、いつの間にそんなに仲良くなったの?」

「まぁ深夜の公園に一緒にいたら仲良くなるわな。」


「深夜の公園?!なにしてたの?!」

「いや、将吾とか瑞希さんとかと雪見てた。」

「あ、なぁんだ。将ちゃんと瑞希さんいたんだ。びっくりしたぁ。二人きりかと思ったからさー。」

「さすがに二人きりで公園に行くほど仲はよくなってないぞ。」

「すごく仲良くなったように見えたけどねー。」

「そうか。」



正弘の返答と同時に新幹線が軽く揺れ、彼の筆箱についていた真新しい雪型のキーホルダーが机に当たって小さな硬い音を立てた。


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