クリスマスデート ~正弘&有沙 side~
めちゃめちゃ遅れててすいません・・・。この話から閑話集を始めるつもりです。今回のように投稿が遅れる時もあります。ご了承ください。
※中2の、付き合いたての頃のデートです。
有沙からクリスマスデートに誘われたのは二学期の終業式の直前だった。
朝、ぼんやりしていた正弘に後ろから来た有沙に驚かされて告げられた。特に考えずにOKを出してから告げられた言葉の意味を理解し、戸惑う。
未だに有沙と付き合っている感覚がない正弘は、誘われるたびにドギマギしてしまうのだ。
「おはよー!」
イヤホンをいきなり取られて耳元で声をあげられた。
思わず驚き、数十センチ横に飛び跳ねる。声がした方を見ると、有沙がしてやったりと言うような顔で立っていた。
「朝から驚かすなよ。」
「いやぁ、楽しいからねー。まさくん驚かすの。」
「楽しくないでしょ。というか驚かされる方のことも考えてくれ。」
「はぁい。」
おそらく反省していないのだろう言葉を聞き、彼は向きを変えた。横に有沙がついてきてるのを見ると、彼は歩き出す。
有沙から提示されたデートの場所は駅の近くのショッピングモールだった。定番とは言え、無難ではあった。
「なんであそこにしたんだ?」
「なんとなく、かなー。あんまりいい場所思いつかなかったし。」
「そうか。」
朝に弱い正弘に配慮してか、集合は昼食時。モール内で食事をしてから買い物を始める予定だった。
「海里たちどこに行ったんだろうな。」
「わかんないけど遭遇する可能性は高そう」
「この辺の人間は大体ここに来るからな。」
「結構おっきいしねー。」
人の流れに乗って大きなモールの中に入る。
入り口に作られた大きなツリーに人々は足を止めて写真を撮っていた。そんな人々を横目に見ながらモールの奥のフードコートに向かう。暖かく感じるよう設定された室温は人々が集まることで上がり、少し暑くなっていた。
「どっか空いてるといいけど。」
「あ、あそこ!」
目ざとく空いている席を見つけ出して荷物を置いた。
一瞬の差で席取りに負けた人がこちらを見ながら横を通過していく。
「有沙先買ってきていいよ。俺待っとくから。」
「ありがとう。じゃ先行ってくる!」
「おうよー。」
有沙を見送ると、ポケットからスマホを取り出し、言うほど溜まっていない通知を消化する。いつの間にかオンになっていたどうでもいいSNSの通知を特に見ることもなく消す。
しばらくして湯気をたてた料理をお盆に乗せた有沙が帰ってきた。入れ替わりで席をたち、店を物色し始める。ポケットに突っ込んだ財布を取り出すと、適当に店に並んで注文すると、受取口でぼんやりと周りを眺めた。
冬休みということもあって、かなりの人だった。席を探す人、出ていく人、食べ物を取りに行く人、取って帰ってくる人。そのすべてが小さな空間に凝縮されて騒がしさを生み出していた。
店員に呼ばれ、食べ物を受け取ると、人とぶつからないように足早に有沙のいる席に戻った。有沙は目の前に食事には手を付けずに暇そうにスマホをいじっていた。
「先に食べてればよかったのに。」
「なんか申し訳ないし。どうせすぐ戻ってくると思って食べてなかったの。」
正弘の席の真ん中には席取りのように水の入ったコップが置かれていた。コップを横に動かしてトレイを置き、席に座る。
有沙はそれを見ると手を合わせて小さく「いただきます」というと食べ始める。料理に先に手を付けていた正弘もそれを見て箸を置いてやり直した。
「わざわざやり直さなくてもいいじゃん。強制じゃないんだし。」
「なんとなく有沙がやっていたからやらなきゃいけないかなって。」
「そっか。」
教室での昼食なら会話が続くのに今日は沈黙のほうが多い。
(海里とかいたらここで多分会話続くんだろうな。)
そんなことを思いながら料理から顔を上げると有沙と目が合う。
正弘は思わず視線を逸らしてしまった。
「このあとどうする?」
「とりあえず映画見たい!」
「結構適当だな。」
「えー?ここ来たら映画でしょー!」
「ここは何回も来たことあるけど映画見たことあるの数えるほどしかないぞ?」
「それはまさくんが特別だからじゃん。」
「そうか。」
「うん。」
再び沈黙に突入する。周りの喧騒に押されて語彙力が低下しているのだろうかとか正弘は考えた。
「うわ、やば。先輩来た。バレませんように・・・。」
有沙の目線の先を見やれば、男女の二人連れが席を探していた。
「あの先輩彼女いたんだ・・・。」
「陸上部の?」
「うん。」
スマホを顔の前で触り、先輩という男から顔を隠す有沙。正弘は顔バレしてないからと少し余裕の表情でその二人組の動向を眺めていた。
「あの先輩行ったら教えて。わたしそれまでこれ続けとく。」
「了解。」
自然な形でその二人組を動きを観察する。
その二人組は真ん中の方でしばらくあちこちを見ていたが、やがて空いてないと知ったのかそのままフードコートから離れていった。
顔を正面に戻し、スマホに向かって話しかける。
「行った。大丈夫。」
スマホが下がって代わりに有沙の顔が出て来る。
「行った?ほんとに?」
「うん。ほら。」
不安そうに一回り見渡したあと、噂の人がいないことを確認し、彼女の顔は安堵に変わる。
「そんなに会いたくない?」
「うん。」
断言しきった有沙。見た目ではわからないなにかがあるのかはたまた休日に学校の関係者と会いたくないだけなのか、正弘にはわからなかった。
「あれ多分先輩の彼女じゃないと思うよ。」
「え、でも一緒にいたじゃん。」
「確かに一緒にいたけど、話してる風だとただの友人とかなにかの帰りって感じが。女の人の方制服着てたし。」
「それは確かに着てたけど関係なくない?」
「そうかなぁ。」
しばらくしてから正弘は、先程からずっと抱えていた言葉を発した。
確たる証拠はないものの、おそらくそんな感じはしていた。
あくまで感じ、だが。
午後、有沙は先輩のことなど忘れたかのようにはしゃいでいた。モール内をあっちからこっち、こっちからあっちへと歩き回り、有沙が気が済む頃には日は傾き、西の空に隠れ始めていた。
「いやぁ、楽しかったねー!」
モールから出て、駅に向かう人の流れに乗りながら、未だにテンションの高い有沙は喋り倒していた。
「あ、有沙!」
反対側から部活帰りであろう1団が向かってくる。その中の一人が有沙の名前を呼びながら大きく手を振ってきた。
「あ、絢香ー!」
相手を見ると有沙が正弘から距離を取る。その行動にすこし虚しさを感じつつ、目線の先の見覚えのある少女を見る。
「えっと・・・誰だっけ?」
隣の有沙にささやき声で質問をぶつける。
有沙は少し離れた距離から聞こえる声で
「同じクラスの絢香ちゃんじゃん。まさくんが私の頭にカバンぶつけたときに一緒にいた子。」
「ああ、あの子か。」
そんな会話をしている間にも絢香との距離は少しずつ近づいていった。
「有沙、買い物?」
「あ、うん。ちょっとね。」
「あ、もしかしてデート?」
「違うから。ただ相談に乗ってもらってただけだし!」
「そっかそっかー。」
絢香は信じてないような顔で正弘と有沙の顔を交互に眺める。
「遠藤、先言っとくぞ。」
「あ、了解です!あとで追いつきます!」
3人の横をこちらを見ながら1団が通過していく。
「絢香、バスケ部だっけ。試合の帰り?」
「うん。負けちゃったけどねー。」
「そっか、おつかれー。」
「有沙は今日陸部ないの?」
「あるんだけど買い物行かなきゃ行けなかったから休んだの。」
「わぁ、サボりだ。」
「別にサボってないもん!」
女子二人の会話の外で、正弘は暇そうに周りを見渡した。
人の流れの真ん中で立ち話をする自分たちを何人かが見ながら通過していく。
「あ、じゃあ、私たちそろそろ帰るから。じゃねー。」
「うん!またねー。」
ある程度話が終わったあと、手を振って別れる。正弘は一瞬たりとも会話に参加してはいないものの、一応形式的に絢香に手を振った。
「危なかったー。」
「別に付き合ってること否定しなくてもよかったのに。」
「えー、なんか恥ずかしいじゃん。」
「いつかはどうぜバレるんだからよくね?」
「そういうものかなぁ。」
「多分。」
駅についた頃、空気が寒くなり始めた。外気に触れる手が少しずつ冷たくなっていく。
そのせいか、すれ違う男女の二人組はたいてい手を繋いでいた。
その場の空気に押されてか、たまたま当たった有沙の手を握る。有沙は驚いたように体をこわばらせたが、すぐに握り返してきた。有沙の手を通じて凍りかけた正弘の手が少しずつ暖かくなっていく。
駅に着き、別れるまで、二人の手はつながれたままだった。
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