第72話 神村と海里①
すいません、遅れ過ぎました!うちの学校でも文化祭がありましてね――。
「じゃあ、異世界部の劇の成功を祝って乾杯!」
「いえーい!」
文化祭の熱がまだ残る校舎のなかの一教室。
そこでは異世界部の打ち上げが行われていた。なぜか有沙や海里、神村もいたが、帰ろうとした彼らを呼び止めたのは長屋だった。
「いいじゃない。正弘くんの友達なら残っていけば。」
半ば強引に引き止められ、教室のなかに連れ込まれてから30分。
場の中心にはなぜかテンションの上がってしまった正弘がいた。その隣には有沙が当然のように座っており、長屋と何か喋り笑っている。
少し涼みたくて教室の外へ出てきた神村は、誰も通らなくなって静かな廊下を進み、窓から漏れるオレンジ色の光のその奥を見つめていた。
ふと、その後ろに人が立っているような気がして後ろを見渡すが、誰もいない。もう一度窓の外を見ようと前に顔を向けたら、超近距離に海里の顔があった。
「うわっ!びびったー!もう、驚かせんなよー。」
「ははっびっくりしてる顔、面白っ!」
「まだバクバクしてんじゃねぇか。で、何か用か?」
「いや、なんにも。ちょっと教室の中が熱くて。」
「そうか。」
海里は窓の外に、神村がさっき見ていた方に、目を向ける。神村も何も喋らずに顔を前に戻した。
そこ一帯には静寂が広がっていた。しかし、気まずくはなく、どちらかと言えば心地良い雰囲気だった。いつまでも一緒にいられるような空気だった。
窓の外を眺めている海里の横顔を見つめながら神村は自分の気持ちを固めていた。心臓のバクバクは違う意味のせいで延長していた。
「なあ、海里。」
「ん?なあに?」
「正弘のこと、どう思ってんだ?」
「何よ、急に。でもそうね。前は好きだったし、今も好きだけど家族になったからか好きの感情が薄くなったような気がしなくもないかな。でも、それがどうしたの?」
「いや、まあ、うん、その、な。」
「何よ?」
「つまり、俺は海里が正弘をどう思ってて、えーと・・・」
「まとめてから言ってよ。」
神村の口から出る次の言葉が何か気になった海里は神村の方を振り向く。視界の真ん中に入ってきたのは夕焼けのせいか顔が火照って見える神村だった。
「つまり、俺は海里が・・・海里が好きですっ!お、俺と付き合ってください!」
神村は右手を前に出して頭を下げた。反対に海里は一瞬何を言われたかわからなかった。その言葉の意味を完璧に理解した後、少し返答を考えてから海里はその言葉を口にした。
「はい。あなたといたら楽しいし、今日文化祭を回ってみて優しかったから、OKです。」