第71話 合流とその前に・・・
「ねえ、まさくん。」
「ん?」
突然、有沙が声をかけた。正弘は下を向いていた顔をあげた。
「あれ?この辺、人少なくね?」
「うん。この辺って展示が少ないから人、ほとんど来ないんだ。」
「そうか。で、なんのつもり?」
「なんのつもり、って言われると返答に困るんだけど・・・。用事があったから、かな。」
「用事?」
「そう。ほんとは同じクラスの他の子がやるはずだったんだけど、私がやることになっちゃってね。」
「そうか、大変だな。で、どんな用事なんだ?」
「えっとね。」
そこまで言うと有沙は一旦言葉を切った。手を握りしめ、地面に視線を落とす。その様子になにが起きているのかわからず、正弘は不思議がった。口を開く直前、有沙の方が一瞬早かった。
「あのね!」
「う、うん。」
「えっと、その・・・あの・・・。」
「どうした?早くしないと回れないぞ。」
「わかってるよ。だけど・・・。」
もじもじする有沙に正弘は少し歩き、有沙の横を通り過ぎて近くの窓から中庭を見下ろした。中庭を歩く人達の中に、見覚えのある二人組を見つけ、声をかけようとしたとき、再び有沙が近寄る足音が聞こえ、正弘の手に彼女の手が重なった。
「ずっと・・・好きだったの・・・。付き合ってくれませんか。」
いつもの有沙の声とは全く違った、小さな消えそうな声だった。
だが、正弘の耳には、文化祭の騒音よりも大きく響いた。
二人の間に再び静寂が訪れる。周りの音から取り残されたように。
正弘は、自分の心臓の鼓動が早まっていることに気がついた。重なっている手のせいかもしれないし、有沙の言葉のせいかもしれない。心のどこかで、そのままでいたい、と思っている自分がいた。
少し冷たい、けれど暖かい他人のぬくもりが手を伝って頭にまで届く。
「だめ・・・?」
少し経ってから、彼女が声をかける。正弘は、かわいた唇を舐めて濡らすと口を開いた。
「今じゃなきゃ、ダメ?」
「お願い。今の方がいい。」
「わかった。」
「あれ、劇終わってるじゃん!」
「あら、あなたは・・・海里さんよね?正弘くんの妹の。」
「私はあいつの妹じゃないですよ!同い年です!っていうかあいつ、まだそれ引きずってるの!?あとで殴る!」
「冗談よ、私がいじってるだけよ。」
「先輩ひど!」
「いいじゃない。それよりなんの用かしら?正弘くんならここにはいないわよ?」
「本当ですか?どこに行ったのかわかりませんか?」
「さぁ?知らないわ。ごめんなさいね。でも7時には戻ってくると思うわ。」
「さすがにそれまでには見つかるので大丈夫です。」
「そう、頑張ってね。」
「はい、ありがとうございます。えっと・・・・誰先輩でしたっけ?」
「失礼ね。長屋よ。」
口調は怒りながらも彼女の顔は笑っていた。海里は長屋に礼を言うと、少し離れたところに立っていた神村のもとに戻った。
長屋から聞いたことをそのまま言うと、二人はその場から離れ、正弘たちを探しに出た。
「あ、いた!」
中庭を歩いていた二人に声をかけたのは海里だった。
「あ、海里!」
「なにしてたのー?探したよー?」
「それはこっちのセリフだよ、まさくん、劇が終わる時間あえて遅らせて私に教えたでしょ?」
「いや、正しい時間教えたぞ?なあ?神村。」
「うん。正しかった。海里、お前聞き間違えただけだろ。」
「なんで私のせいなのよ!まあ、いいや、合流できたし、いろいろと回ろっか。」
「そうだなー。」
海里を先頭に4人は歩き出した。
有沙は正弘の手を手繰り寄せ、そっと掴んだ。
ということで、新たなカップル誕生です!おめでとう!