第70話 デート??
正弘&有沙ペアです。
「結局この世界に来た意味はあったのだろうか。いや、あったのかもしれない。
だが、魔王討伐にこだわる必要はなかったのだろう。パーティメンバーも多く失った。彼らに言われ、何回も討伐を繰り返した。だが、得たものはなにもなかった。魔王も討伐できることなく終わった。妻と、子どもとともに、余生をゆっくり過ごそう。」
名端はそう言い残すと後から出てきた長屋と手を取り合い、ゆっくりと舞台袖に戻ってきた。舞台袖に入ると同時に照明をしぼり、真っ暗になる。あとには観客の拍手が残った。
「終わったー!」
思わず、部員たちやサポーターの生徒たちの間でハイタッチや、ハグが自然と起こる。正弘も思わず長屋と手を合わせた。
4月から9月までひたすら部員立ちを引っ張ってきた長屋は涙と笑いが混じった顔をしていた。
「打ち上げ、夜の7時から部室でやるからねー。遅れないでよ~。」
「はーい。」
打ち上げの時間を確認すると、そのまま舞台袖を出て、観客席の出口にむかった。
本来ならそこから有沙が出てくるはずだ。
観客席から次々と客が出てくる。「ああ良かったなあ」などという言葉を口にしていた人もいた。そういう声を聴くとやはりどこか嬉しくなる。
一通り人は抜けたものの、有沙の姿はなかった。首をかしげながら踵を返すと、目の前に見慣れた顔があった。
「おっと!びっくりしたー。」
「今頃気がついたのー?」
彼女はおどけて笑いながら言った。ひとつため息をつくと言葉を返す。
その返答に有沙は再び笑うと、反対側を向いた。
「行こっか。」
「うん。」
特に行く宛もないものの、二人は歩いた。間に沈黙が降りる。
話すことがないわけではないが、お互いになぜか黙ったままだった。正弘からしてみれば気まずいのだが、彼から話しかけようにもそこまでの勇気はなかったため、ひたすら沈黙が続いてしまっているという状況だった。
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