第66話 その夜
「劇おつかれー!」
異世界部の部室を抜け出し、自分の教室に戻った正弘を高い声が迎えた。顔を上げると、有沙と海里だった。横には声は出さなかったものの、笑顔の神村もいた。
「はい、ジュース。正弘、劇良かったね。途中しか見れなかったけど、正弘の熱演すごかったよ。」
「そうよ。なんかどんよりしたオーラ、纏ってるけどさっさとそれ飲んで文化祭満喫しましょっ!」
「そう・・・だな!じゃあ、最初はどこ行きたい?」
「そうそう、そのテンションよ!」
「俺はこの北パーっていうの、行きたいな。どうだ?」
「あんたは黙っといて!そうね、私はこの・・・北パーっていうのいいと思うんだけど、みんなどう思う?」
「そうね!北パーに行ってみよう!確か、中3の階だったよね。」
「さすが海里だな。ん?どうした、神村。さっきからずっと無言で。」
「北パーの発案、俺なんだけど・・・。」
どんよりしたオーラが神村に移ったところでネタを止めた。
「ごめんごめん。おかげで気が楽になった。北パー終わったら昼飯行こうぜ。」
「そうだね」
4人は教室から出て階段へ向かった。廊下をも明るく照らす昼の太陽は階段を登る4人の背中を照らし、熱くさせた。
その夜、夕食をとり、部屋に戻って1時間もしないうちにコンコン、と部屋をノックする音が聞こえた。
この時間なら母は食器を洗い、父は風呂に入っているので海里しかいないだろう。
「入っていいよー。」
扉を開けて入ってきたのは推理どおり海里だった。
「どうした?」
「色々、ね。」
「?」
「まず、今日の劇見たけど良かったよ。たぶんかっこよかったよ。」
「たぶん?」
その問いには答えず、海里は続きを言う。
「次に。正弘、有沙とそろそろくっついちゃえば?神村も気づいてると思うけど、見てるこっちがそわそわしてくるのよ。まさか、正弘、神村が好きなの?」
「んなわけねぇだろっ!俺に男好きとかいう設定ないから。普通に女性が好きだから。有沙は俺も好きだよ。だから・・・ああ、なんでこんなこと海里に言わなきゃならねぇんだ。恥ずいだろ。それとも海里は俺のこと今も好きなのか?」
(あ、これ聞いちゃだめなやつかも・・・。)
「ふーん、正弘の気持ちを確認したかっただけだから。じゃねっ。」
そう言って海里は正弘の部屋の扉を開け、半身を外に出した。
扉を閉めながら、海里は今日最後の言葉を吐いた。
「あ、それと私が正弘のこと今も好きなのかって言う問い、答えはご想像にお任せします。ふふふ。」
海里は少し微笑みながら部屋の扉を閉め自室に戻った。
その微笑みに不覚にも少しドキッときていた正弘はその感情を振り切り、近々有沙にこの思いをぶつけることを決心するのだった。
(明日の文化祭も、がんばろう!)
そう思いながら、床についた正弘はすぐにぐっすり寝付き、
翌朝母が朝食を作る匂いで起床した。
「いつまで寝てるのよ、ねぼすけ。」
「うるせーよ。」
いつもどおりの軽口、だが、お互いに目は合わせない。照れくさすぎて合わせることができないのだ。
「お母さん、今日は行くわよー!だから頑張ってねー。」
「うっわ、母さん来るのか。」
「ええ、行くわよ!だって今日なにもないから!」
「わぁ!楽しみー!絶対私のとこ来てね!」
「ええ、行くわ。正弘のとこにも行くわよー!」
「なんでこんなに張り切ってんだよ。」
朝からハイテンションの母親と海里を見ながら正弘はそっとため息をついた。