第65話 文化祭本番
一番この章が長くなってますねぇ。最初は異世界を舞台にするつもりだったのがこんなにも発展して・・・。
さて、更新遅くなってすいません。劇の本番です。
そんな開演前のドタバタも5分前には静かになり、全員でステージの端の袖へと移動する。
「時間通りです。」
「うん、ありがとう。」
台本を持った応援の中3が長屋にそっと伝える。彼女は頷いて返すと、舞台を見つめた。
今はまだ、赤い幕が降りているものの、すぐにその幕も開ける。開けるタイミングにすでに大道具が並んでいなければならない。
大方は並んでいるものの、細かい位置は最後まで調整が必要になる。だが、客が幕を隔ててすぐそばにいる以上、大声も出せない。大きな物音もだ。
「照明班、音響班準備完了です。」
そこで長屋が考えたのは学校の備品であるトランシーバーを使うというものだった。イヤホンをつければそんなに大きな音も出ない。
「大道具班は?」
「大方準備完了。いつでもいけます。」
「了解。いくわよ、名端くん、お願い。」
「おう。」
部長のお願いを聞いて、マイクを持って幕の外に応援の中3が出ていった。
『では、異世界部による劇、『魔王と夫婦』、開演します!』
幕の内にはその声が全体を渡り、全員の心が一丸となっていた。
幕は上がった。観客は大勢いる。明るい光が舞台を照らしていた。
「俺がこの異世界に来てから5年がたった!」
名端が舞台袖から出ていくとともに、声を張り上げる。向こう側から出てきた木がこちらに吸い込まれる。歩いている表現だ。
「その間になぜか知らんが結婚して子どももできた!」
「しかし!私は、いつの間にか野望を抱くようになっていた!それは魔王討伐だ!」
観客に正対すると、彼はかっこよく決めた。
「私は、いつかこの世界を侵略する魔王を討伐する!そのためにもパーティーメンバーを集めることが必要だ!」
その言葉を皮切りに、隼人や架澄、中1たちが入っていく。一方の正弘はというと・・・
「やっぱりおかしいですよ。なんで僕が後に重要な立場になる鍛冶職人なんですか?」
ぽつりと隣の長屋につぶやく。彼女は正弘の目を数秒見つめると、口を開いた。
「だって正弘くんらしいじゃない。」
「そうですか?」
「ええ、初めは脇役なのにいつの間にか中心に一番近いところにいる。正弘くんってそんな感じがするのよね。」
「それは喜べばいいのか悲しめばいいのか。」
「そんなことより、劇に集中してね。」
「わかってますよ」
ステージの裏でそのような会話がなされていることはいざ知らず、劇は止まることなくスムーズに行われている。
「次の幕間で矢場くん、これ、舞台の中央置いてきて。」
「わかりました!」
名端が作ったというきれいなドレスを着ながら長屋は方々に指示を飛ばす。裾が長いため転びそうなものだが、長屋はきれいに立ち回り、危ういところを全く見せない。
(長屋先輩、ドレスを着馴れてる・・・?)
なんてことも考えていた正弘だが、出番が近づくにつれ、心臓の鼓動は早まった。
「大丈夫よ、私も一緒に出るから。」
「先輩のほうが若干後ですけどね。」
「細かいとこは気にしないの、ほら、いってらっしゃい。」
「ええ」
劇の間に幕が降りることはない。舞台を整えることもすべて客の前でやることになる。もたつけばそれだけ客の飽きも早くなる。
(よし、大丈夫!)
堂々と前に出る。スポットライトが当たるせいで少し体がほてる。客席には見知った顔も幾つかある。出た時は震えていた膝も、だいぶ落ち着きを取り戻してくる。勢いに乗った正弘は、演じる手や声に力を込めた。
「さすがにあれはやりすぎたかなー、正弘くん。」
「ええ、あそこまではやらなくても良かったと思うわ。でもそんなに気にする必要はないと思うわ。」
「はい・・・すみません・・・。」
力を込めすぎた正弘はその後、セリフが飛んで、アドリブで進めざるを得なくなった。舞台全体としては傍から見れば成功ではあるものの、正弘の心境は複雑だった。
「ま、でも長屋の言うとおりお客さん喜んでくれたし、大丈夫大丈夫。」
長屋と名端、二人の慰めによって正弘の気持ちはある程度軽くなったものの、それでも胸の中には重いものが残っていた。
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