第56話 ノリノリの母
少し短いかもです
「体育祭委員から連絡事項があるそうです。」
ある日、半袖になった彼がLHRの時間に言った言葉。それは一年に2回ある祭りのことだった。
「来月、体育祭があります。それに向けて、出場種目を決めたいと思います。」
二人いる委員のうち、片方が白板に種目と、人数を列挙していく。それが書き終わったところで、説明を続行する。明るく、けれど少し熱い教室に彼の言葉が響く。
その言葉は、やがて教室のざわめきへとつながっていき、さらに大きくなって、窓を超えて、鳥でさえも驚かせていく。担任の制止が入るまでその拡大は続き、そうして、すべての種目の決定は終わった。
もっとも、決定が終わる頃には授業はとっくに終わっていたのだが。
「なんで昼休み削るかな〜!あの先生!」
「まあ仕方ないじゃん。っていうか先生はあとにするって言ったのに渋ったのクラスメートじゃん。」
「まあ、そうだけどね。」
海里はお弁当箱の蓋を開けながら有沙の言葉に納得したように呟いた。中に入っていたおかずをひとつ、口に運ぶと、また文句を並べる。時計の針がそっと動いて、10に重なった。
「今年ももうすぐ体育祭よね。二人は何に出るの?」
その日の夕食時、母親は二人に問いかけた。
「ん、去年と同じ。」
「そう、海里は?」
「同じよ。去年と同じ種目だから。」
「そうか。そうだ!正弘、来年も異世界部は入り続けるんだろ?」
「ああ、来年も。いや、卒業までずっと、入るつもりだよ。」
「うん、ならよかった。」
そう言うと、父親は食べ終えた食器を片付け、そっと部屋を出ていった。安堵したような彼の背中は、ガラスのはめ込まれた扉の向こうに消えていった。
「母さん、今年見に来るの?」
「さあ、どうしようかしら。去年と同じ種目なら行くのやめようかしら。」
「クラス変わったからクラス対抗リレーは面白いと思うけど。」
「かと言ってそれだけ見に行くのもなんかおかしいわよね・・・。まさ、来てほしい?」
「は?体育祭に?どっちでもいい。来たところであまり変わらないだろうし。」
「走ってるときに応援してあげようか?」
「恥ずかしいからやめて。というかなんで俺なんだよ。海里はどうなんだよ。」
「私?私は・・・私もどっちでもいいかな。あ、走ってるときに応援するのはやめてね。恥ずかしいから。」
「そっかー。じゃあ当日の気分で決めるわ!」
「気分って・・・。」
「適当ね・・・。」
大体前日まで行きたくなくても当日になってやっぱり行こう、という気分になるのはよくあることである。
(こりゃ来るな。多分)
(うん。まさくんのお母さん大体行事ってノリノリだもんね・・。)
母親が食卓から離れ、食器を洗い始めたのを見計らって二人はぼそっと言葉を交わした。
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