第55話 始業式
すいません、遅くなりました。1話だけ投稿します。
(そういえば、前世のときの中2ってなにもなかったな。)
始業式の日、彼は制服に身を包みながら、ふと思った。
「はあああ、今日から”先輩”かよ。異世界部、誰か入ってくれるかな〜。」
「まさくん!起きてるー?」
「起きてるよー!」
階下からの海里の声に大声で返事を返すと、彼はカバンを持ち、部屋を出る。
明るい窓から入ってきた日光に目を細めながら、階段を降りるといい匂いのするリビングに入っていった。
「またまさくんと同じクラスだよー!あ、でも去年は2組だったけど今年は1組だ。」
「あ、本当だ。というか荒山と神山も同じクラスかよ。」
「やったー!また同じだね!」
「あれ?そういえばなんで海里のほうが後ろなの・・?」
「わかってると思うけど私の名前は『かいり』0じゃなくて『みさと』ね?」
「あ、間違えた。ほんと、海里って一瞬見ただけだと「かいり」って呼んじゃうんだもん。」
「うん、みんなそれ言ってる。で、みんな間違える。」
そう言うと、海里は少し落ち込んだような顔をした。
登校してきた同じ学年の生徒たちが何事か、とこちらを盗み見しながら通り過ぎてゆく。
「とりあえず教室行こうぜ。ここじゃ目立つ。」
そうなだめると、彼らは海里を教室に連れて行った。神山が間違えて中1のフロアに行こうとしてたのには笑ったが。
「またここか〜。景色変わらねえな〜。」
「私もまた2番だよ。今年は一番になるかなって身構えていたのに。」
「私なんかまたまさくんの後ろだよ?多分絶対授業中に話して怒られるやつだよ。」
「確かに去年なんども怒られてたよな〜。」
「何よ、他人事みたいに!」
「おいおい、俺のことを忘れないでくれよ。」
「ああ、神村。忘れてた。」
「俺そんなに気配薄いか?」
「なんか最近おとなしいから。前と変わったよな。前なんか自分のことをか・・・」
「やめてくれーー!その話は掘り返さないでくれ!思い出したくない!」
「あ、戻った。やっぱりこの話の効果は絶大だな。」
「まさくんの目、怖いよ〜?なにか企んでるでしょ?」
「いや、こんなもの目の前にして企まないやついるか?」
「怖い〜!」
「ねえ、石井くん、春休みの間に何が起きたの?」
「特になにもなかったよ。多分。」
正弘の、ほんの一ヶ月前と違う振る舞いに、海里と有沙はつい耳元でそっと会話した。
「みなさん、こんにちは、去年持ってた人もいるから知ってる人もいるかな。数学担当の綾瀬です。よろしくな。」
今年担任の彼は、物腰の柔らかい、平和そうな人だった。残念ながら去年は彼の担当ではなかったため、関わることはなかったが学年団の行事などで度々出てくるうちに、いつしか中年の背の高い男の名前を正弘は覚えていた。つまり、正弘は彼を知っていた。
「とりあえず10時から始業式を始めます。それまではHRということで、いろいろと渡さなきゃいけないのがあるので・・・あ、自己紹介・・・さすがにいらない?」
そう言うと彼は教壇の近くにいた女子生徒に尋ねた。彼女は少し首をひねると、隣の友人らしき人に助言を求めていた。
「いらないんじゃないですか?去年と同じ人もいますし。」
「そうですね・・・まあ各個人で自己紹介はしあってください。あー。えっと、これが一番最初かな。」
彼は机の中からプリントの束を出すと配り始めた。
30分後、彼らは体育館で始業式に臨んでいた。
クラスごとに席の塊がつくられ、それが横に6列並ぶ構図。隣のブロックには新しい制服に身を包んだ1年生が緊張の、しかし少し期待の混じった視線で壇上の校長を見ていた。壇上の校長は去年に比べてさらに髪の毛が後退したように見えた。ついでにうっすら後光が見えたような気がした。
「23分。」
「そうか、普通だな。」
「それにしても長いよ。ほんと。中1がかわいそう。」
「どうせ入学式でも同じくらい喋ったんだろ。」
「じゃあ昨日と今日で約50分もあの話聞かされてるってことか。」
「まさくん、海里ちゃん、そろそろだまりなよ。」
「ああ、ありがとう、有沙。」
去年の2学期の始業式。
あまりに話が長いために海里が行ったのは、校長が話している時間を計る、というものだった。
それ以来、彼女は毎回時間を計測し、正弘にそっと伝えていた。やっていることに特に意味はない。だが、それくらいしかやることがなかった。歴史観がどうとか喋る彼の話にはとんと興味がないのだから。
「明日は宿題考査です。わかってると思いますが。今日はこれで終了ですのでまた明日。さようなら!」
去年の担任と違い、彼は全員が帰るまで教室に居続けた。正弘は、有沙と海里、神村とともに、帰路についた。
その日は異世界部や武道部どころか、陸上部の練習もなかったからだ。
「なぁ、今年の担任、えっと、綾瀬、だっけ?あの人すごい丁寧語じゃなかった?」
「たしかにな。去年の担任とは全然違うな。」
「去年の先生、なんか一人で空回りしてたもんね。」
「若いからだろうな。綾瀬先生は結構年いってるしあんなに元気出ないのかも。」
「それにしても丁寧すぎない?」
「それほどでもないでしょ。中学の教頭だって結構丁寧じゃん?」
「まあ、あの年の人は大体そんな感じなのかもね〜。」
「あ、俺今日こっちから帰るから!じゃあな!」
「おー。じゃあまた明日な!勉強してこいよー!」
「わかってるよ!今度こそお前に勝つからな!」
「俺だって負けねえよ!頑張れよーー!」
「あいつ、塾だっけ?」
「うん。確か今日からこの曜日に塾だったような?あいつ。」
塾に行くという神村と別れると、3人はまた歩き出した。桜で敷き詰められた道を。