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神聖の転生者  作者: 薄明
第3躍 ~中学生時代~
133/231

第48話 石井家~3日日&最終日~

大分長くなってしまいました。この章、60話ぐらい行きそうです・・・。



ここで言うのもおかしいと思うんですが「”神になる”を選んだらノルマを課されました。」の投稿は今構成を練っている途中なので少し遅れます(次は閑話にしようと思っています)

翌日。



目が覚めて部屋を出、階段を下りると、テレビが点いている。ソファに座ってそれをぼんやり見ていると、ニュースの時間になったらしく、新しい情報が流れてきた。




『昨日16:00に長野県へ修学旅行の名目で向かっていた○○高校3年B組のバスが道路のレールを飛び越えて転落しました。転落した原因は未だ解明されておらず、運転手は今日4:00に死亡が確認されました。バスに乗っていたB組の生徒は何故かバス内に遺体がなく、警察は周りの森の中を捜索していましたが、まだ見つかっていません。』



画面に事故現場が写された。



(怖いなあ。遺体がないとか、犯人はどんなトリックを使ったんだろうか。)



『それでは次のニュースです。』

ゴソッという音が自分の下から聞こえた。



何か、と思い、自分が座っているソファを見るとお父さんが寝ていた。どうやら俺はお父さんの上に座ってくつろいでいたらしい。それは苦しいだろうな。


「お、重い。」

俺はソファから下り、違う椅子へ座った。



「あ~、うっ、トイレ行こぅ。」

今日も昨日の朝みたいな吐くのだろう。案の定、トイレの方からうめき声がした。



そのまま数分その状態が続いた。そして海里、母さんが起きてきた。


「ちょっとお父さん、そのうめき声がうるさいよ~~。トイレのドア閉めてやってよ。」

「海里、母さん、おはよう。」

「あ、まさくん、おはよう。」

「まさ、おはよう。」

朝の挨拶はところどころ父のうめき声にかき消された。そこまでうるさいと流石にお祖母ちゃんが起きてくる。



「あら、おはよう。ごめんね、うるさくて。」

「いえ、いつものことなので。」



だから、いいわけじゃないけどな。



ドアが閉まる音がする。お父さんがすっきりしたような顔で帰ってきた。

母さんが祖母ちゃんに喋りかけた。



「この子たちもクラブがあるので私達は明日の朝に帰ることにします。」

「わかったわ。じゃあ、今日は大阪各所を案内してあげる。じゃあ、ご飯食べたら色々行く用意して。」

今日は大阪観光らしい。家中が朝からバタバタして近所の人はうるさくないのか、と思ったが、大阪はどこの家もそうらしい。



そんなことを思っているうちに準備を終えた俺たちは祖母の車に乗り込み、最初の目的地を決めていた。

ここから大阪市内に出るためにはもう一度高速に乗らなければいけない。海里はいつの間にか寝てしまっていた。そしてなぜか助手席には母親の圭織ではなく瑞希が乗っていた。圭織はというと和彦たちの車に乗っている。




「そういえばなんで瑞希さん、俺らの車に乗っているんですか?」

「う〜んなんとなく、かな〜。なんか他の家の車って乗ったことあまりないしね〜。」

「でもこれ俺達のおばあちゃんの車ですから乗ったことあるんじゃないですか?」

「それがないんだよね〜。基本来るときは自分の家の車だし。」

「そうなんですか。」



「それよりもさ、そんなに固くならずにさ、もっと気軽に話してよ。一応は親戚なんだからさ。」

「・・・・だね、ってこんな感じですか?」

「ほら、聞かないの!」

「あ、ごめん!」



瑞希の言葉にはあまり関西弁は含まれていないように思えた。旅行会社に勤めている父の修希の影響かもしれない。



そんなことを話しているうちにも車は進み、やがて道路の周りのにも高いビルが増えてきた。車はインターに入ると、高速を降りた。するといつの間にか前に修希たちの車がいた。和彦たちの車はその前にいるのだろう。


信号が赤になり、周りの車が一斉に動き出す。彼らがいる真ん中の車線だけ動くのが遅く、左右の車が少しずつ彼らを追い抜いていく。


車はどこかの駐車場へ入る。車から各々出て全員集合すると、大人と子供、男子と女子で意見が食い違ったので、通天閣に着いたらそこから自由行動、ということになった。通天閣だけは意見がそろったからだ。


正弘は将吾、亜里沙、彩花、そして卓人と動くことになった。ちなみに海里は瑞希、由希乃、和彦と、圭織は真奈美、修希と一緒に行動することになった。



方針が決まり、一行は通天閣に向かう。

両端に家が立ち並ぶ道を歩いていくと、向かう先にタワーが見えてきた。エッフェル塔のように思わせるそれは道の上に堂々とそびえ立っていた。



「あれが通天閣か〜。」

見覚えのある建物に正弘は呟いた。感嘆の意をこめたその声は隣の将吾にも伝わったのか、彼が一言のコメントを返す。だが将吾の反対側の彩花は少し興奮しているようだった。



「お姉ちゃん、来たことないので。」

「あ、そうなのか。」

「はい。だから、ほら。」

将吾の声で彩花の方を見ると先程よりもさらに興奮度が上がり、かなり盛り上がっていた。それに付き合わされている海里も同じように盛り上がっていたが。



「おお〜!」

他の客のあとからエレベーターから降りると、目の前に展望台が広がった。夏の昼の日光が差し込む展望台は明るくて、涼しかった。


彩花と海里はエレベーターから降りると同時に走っていってしまった。



「お前の姉ちゃん、いつもあんな感じなのか?」

「ええ、まあ。テンションが上がるとあんな感じになりますね。」

「ほら、行かへんと見る時間なくなるで。」

彼らの後ろで立っていた義祖母に言われ、そばにいた亜里沙とともに彼らは歩き出した。


ひとつ後ろの組であがってきた圭織たちもいつの間にか合流していた。隣の将吾とともに展望台のガラスに張り付くと、目の前に大きなビルがそびえ立っていた。そこから横を見ると、広大な大阪平野がひろがっていた。



通天閣を降りると一度車に戻り、また別の場所へ向かうことになった。通天閣を大きく迂回しながら高速道路の下の一般道を通る。両端の町並みは新世界とは違い、少し静かだった。



やがて車は大きな通りへと進み、先程みた大きなビルへと近づいていった。

「あれが有名な・・なんて言うんやったっけ・・・?あ・あべのなんちゃらっちゅうやつやで。」

「あ、そ、そうなん。」

言葉が移ってしまった。



義祖母の説明(?)の間にも車はどんどん近づいていき、とうとうビルの頂上が車の窓から覗けないほど近くなった。だがそのビルの前を通過し、少し離れた駐車場に車を止め、そこから歩くことになった。東京と違い、蒸し暑く太陽はギラギラと照りつけてくる。ほんの少し歩いただけで我慢できずに日陰に逃げ込むほどだった。一方大阪在住組は馴れてるのか眩しさに目を細めるくらいでなにも気にせずに歩いていた。



「なんでこんな暑さの中普通に歩けるのかしら・・。」

「まあ、向こうはほとんど毎日こんな暑さだからね〜。」

「東京に住んでてよかった・・。」

日陰から日陰へと移動するだけで少しは暑さが軽減されたような気がしていた4人組だった。






「ふ〜助かった〜!」

ようやっとのことでそのビルに入ると正弘は一息ついた。彼は冷房の効いた館内で生きた心地がしていた。彼らはエレベーターに乗ると飲食店街に上がっていった。


終始海里は窓ガラスに張り付いたままだったが、階数が上がるごとに彼女の驚きの声は高くなっていった。だが他の客も同じように歓声を上げていたため、彼女の声はそれほど目立ちはしなかった。



食事を取ると、出発前に決めた組分けで大阪観光に出かけることになった。




そのビルを出てタクシーに乗り、運転手さんに勧められたところで降りると、喧騒な通りが見えた。少し歩いていると、横から「兄ちゃん、たこ焼き食わねぇか」という声がかけられた。


その方を見ると1人のおっちゃんが屋台でさみしくたこ焼きを焼いている。客は・・・いない。正弘は大阪に来たのだから、という理由でそのたこ焼きを一箱もらっておく。



出てきたのはつまようじが刺された煙が立ち上がるたこ焼き。器を手に取り、彩花や将吾、亜里沙、卓人にもそのたこ焼きを分けた。おっちゃんに足りなかったつまようじの分をもらって一斉にアツアツのたこ焼きを食べる。・・・食べる。・・・食べる。・・・食べる。



正弘の口の中には見た目通りアツアツジューシーな汁があふれ、口の中全体が火傷したような感覚に襲われる。

「あっふぁ。ふぁめふぁめ。あふすふぃる!!」

「ふぉんふぉうにあふいふぇ。」

「ふぁんふぉふぁべてもふぁれふぁいふぇす。」

「ふぁふふぁしいふぁじふぁ!!」

「ふぁふいふぁ!!!」

みんながみんな、何を言いたいのか、何を言っているのかわからない。



お互いにも認識できず、しかしそれはスルーし、口の中にある熱すぎるたこ焼きと闘っている。

「ぷはぁっっ!!」

最初に勝ったもとい飲み込めたのは正弘だった。



「熱すぎて全然味、わかんねぇわ。2個目、いこ。流石にもうちょっとは冷えてるだろ。」

敵に無事勝った正弘は次の敵に挑んだ。



続いて卓人、彩花、亜里沙、将吾の順に正弘と同じような声を上げて闘いを終わらせる。

「冷えたたこ焼きは味が分かって・・・美味いなあ。なんで見た目アツアツなのに俺たち食ったんだろ。」

「でも、たこ焼きってそういうもんじゃない?アツアツで食べるから美味くなるんだよ。」



一行はたこ焼きの熱さを改めて実感しながら進んで行く。前を見ると、もう少し行ったところに大阪城があることがわかる。


「大阪城、案内してあげるわ。」

「大阪城は錦城とも言われてて豊臣秀吉が天下統一後に建てた城で徳川家康によって一度落城し、その後の落雷で一度焼けて江戸時代末期に徳川慶喜の反乱の混乱で出火したのですが、全て建て直されて今の状態に至るらしいですよ。」

「へ~~。前半は知ってたけど、後半は知らなかった。」

「まあ、大阪以外の出身の人は知らなくてもおかしくはないね。」

そうやって喋っている間にも意外と長い距離を歩いていて、ふと見上げるとそこには天に聳え立つ大阪城があった。




屋根は緑青に覆われて緑色に輝き、彼らの目に飛び込んできた。入場口で先程買ったチケットを渡すと、階段を登り始める。途端にあべのハルカスでも彼らを苦しめた灼熱地獄が襲ってくる。


正弘は階段を駆け上がるとくらい館内に飛び込んだ。ゆっくりと歩いていたツアー客らしきおばちゃんたちが何事かとこちらを見てくる。外よりも遥かにくらい城内から見た外は憎らしいほどに美しい景色だった。



「これが涼しかったらきれいなんだけどな。」

「そうですね。東京は涼しいからいいですよね。」

「う〜ん、そうでもないかな。やっぱりさ、車の多いところ、だから首都高とかの周りは暑かったりするかな。」

「たとえがよくわからないんですがとりあえず暑いところは暑くて涼しいところは涼しいということですね。」

「まあそういうことになるな。」

正弘の次に上がってきた将吾と話している内に全員が揃った。



卓人は東京に住んでいる期間のほうが長かったせいで暑さにあまり免疫がないのか、汗を拭きっぱなしだった。入って最初に驚いたのはエレベーターがあることだった。正弘の認識は『城=古風な感じ』であり、最新技術との融合など考えられなかった。



その驚きをそのまま隣の将吾に伝えると、あっさりと、「名古屋城にもありますよ?」と流され、少し恥ずかしい思いをしたのは知る人ぞ知る。


1階ごとにぐるっと見て回っては感嘆の声を漏らし、階段を駆け上がり、また感嘆の声をこぼす。そんなこんなで最上階、展望台についたときには彼はすでにヘトヘトだった。金網で遮られたその先の大阪の街に見惚れていると、将吾がお土産を持ってきた。


大阪城の形をした置物やら武将のマークが入った定規やらなんやらをビニール袋に入れ、そのまま彼は突き出した。大阪特有のジメジメとした空気を一掃するように涼しい風が吹き、ビニール袋を揺らした。





大阪を一通りめぐり終わった彼らは再び集合すると高速に乗り、帰路についた。隣の海里は再び睡魔に襲われて寝てしまっていた。



(そりゃまああんなにはしゃいだら疲れるよ・・)



「で、こんどは亜里沙さんが乗ってるんですか?」

「まあね〜瑞希が和彦さんの車に乗って、圭織さんが私たちの家の車に乗ってるよ〜。」

「なんでそうなるんですか。」



「石井家の女性特有の習慣、みたいな?」

「なんですか、その習慣。」

「移動するときに他の家族の車に乗るってこと〜。スタートはお母さん、あ、真奈美って名前ね、なんだけど。」

「亜里沙さんのお母さんの名前が真奈美さんっていうのは知ってますが、なんでそんな習慣が・・・。」

「正直私もよくわからないんだけどね〜。でも私が中学生になったくらいからこの変な習慣が始まったのよね。あまり説明はしてくれなかったんだけど。」

「へ〜そうなんですか。」

正弘の声に亜里沙は前を見たまま頷く。



隣の運転席の父親はさっきからずっと黙っていた。正弘が目線を窓の外に向けたときに隣から物音がして、振り向くと海里が起きたところだった。だが彼女は一度目を開けると再び閉じた。



(かわいいなぁ、寝顔。)



そう思うと彼は再び目線を窓の外に向けた。空は夜の色になり、道路沿いの家や工場などから発せられた明かりはどこまでも続いているように見えた。



家につき、海里を揺らすと今度はちゃんと起きてくれた。寝ぼけ眼のまま車を降りた彼女が車にぶつかりそうになって肝を冷やす。


「さて、明日で私たちは帰ります。」

「そうですね、私達も明日帰りましょうか。」

「じゃあ今日はお別れ会だー!」

父親二人の話に瑞希が割り込み、盛り上がる。



ふと見ると寝ぼけていた海里も一緒になって手を上げていた。その回復の早さに少し驚きつつ、将吾の方を見やる。彼も一応乗ってはいるみたいだった。彼に近づくと気がついた彼と目が合った。



「将吾、こういうの好きなのか?」

「ええ、基本的にお祭りとかは大好きですよ。」

「そうなのか。いつも静かにしてるからこういうの苦手なのかと思った。」

「苦手じゃないんですけど、知らない人というか赤の他人の前だとあまりこういうことはしないんです。」

「赤の他人って例えば?」

「学校の友達とか。」

「それ赤の他人なのか?」

「将くんからすると家族以外みんな赤の他人だよね〜。」

「あ、亜里沙さん!」

「いつからいたんですか?」

「ん〜さっきからいたよ〜。」



(き、気づかなかった・・・)



「まあ私時々空気みたいに気配消せるからね〜。」

「だから亜里沙さん、怖いので気配殺して近付かないでくださいよ。殺しに来てるみたいじゃないですか。」

「まあいいじゃないですか〜殺しに行ってるわけじゃないんだからさ〜。」

「うう、嫌な予感しかしない・・」



(仲いいなぁ。)



少し熱気のこもっている和室を出て、リビングの窓から外に出てみる。すでにいた先客に驚きつつも隣に並んだ。



「海里、元気になるの早いな。」

「うわぁ!まさくんか。びっくりしたよ。いきなり声かけないでよ。」

「いや、足音してただろ。」

「和室の声がここまで届いてるからあまり聞こえなかった!」

そういうと彼女は笑った。月明かりに照らされる彼女の顔は少し疲れたように見えた。




「そういえばお前はなんでここにいるんだ?」

「う〜ん特に深い意味はないんだけどね。」

「そうか。しかしお前の親戚の人、個性的な人多いな。」

「そう?」



「だって亜里沙さんは気配消せるし将吾はこっそり行動するし瑞希さんは結構明るいし・・・・。あれ?」

「あんまり個性的な人はいない気がするけどね〜。」

「ほんとだ・・意外にいなかった・・・・。」

「それでも母さんには少し疲れるわ。」

そう言って隣に並んだ人の顔を見た。



すると圭織が水を手にしながら月を見上げていた。彼女は透明なグラスの中の水をそっと揺らした。浮かんでいる氷がコップに当たって音を立てる。その音を契機に彼は目線を再び月に向けた。それをみて海里も上を見た。



「戻ろうか。」

「私は少しいるわ。」

「じゃあまさくん、戻ろっか。」

「ああ。母さん、調子悪いなら言ってくれよ。」

「ええ、ありがとう。少し熱気に当たっただけよ。」

そっと笑った彼女に背を向けると彼らは和室に戻る。



夏の夜の空気は開け放した窓からひんやりと流れ込んできてカーテンを揺らした。

和室に戻った彼らを迎え入れたのは熱い空気と騒ぎ声だった。



「お〜い、正弘ぉ。海里ぉ。こっちこ~い!」

すでに酔いが回ってる卓人が長机の反対側から手招きし、彼らを呼ぶ。正弘は肩をすくめて将吾と亜里沙の方に、海里はため息をつくと瑞希の方に向かった。


一方手招きを無視された父親は少しあっけに取られたような表情をしていたがすぐに気を取り直し、隣の和彦のコップにビールを注いだ。



「そろそろお父さん寝落ちしますね。」

「そうなのか?」

将吾のもとに戻った正弘に彼はそっと呟いた。その言葉に正弘は和彦の方を向いた。元気に話している彼をチラチラと見ながら将吾や亜里沙と話すこと10分、将吾の言葉通り和彦は後ろに倒れ込み、卓人は机の上に突っ伏した。一方の修希はしれっとした顔で机の片付けを始めていた。



「お前のお父さん、酒に強いんだな。」

「う〜ん、まあお母さんが飲まないからね。家に送られてくるお酒とかは大体一人で飲んじゃう感じかな〜。」

そう言いながら亜里沙は鼻をつまんでいた。気がつけば部屋の中は熱気と酒の匂いで充満していた。


彩花や海里たちを手伝って部屋の窓を開ける。夏とは言え夜の空気は冷たく、部屋の中の空気がどんどん入れ替わっていく。元気な女性陣&修希で後片付けを開始する。完全に爆睡している和彦と卓人は再びその部屋で雑魚寝をしてもらうことになった。



小さくいびきを書いている卓人にタオルケットをかけながら正弘は小さくため息を吐いた。大阪最後の夜、月は雲に隠れ、雲の切れ目からうっすらとしか見えなかった。












翌日、朝起きてリビングに入った正弘の目に映ったのは昨日と同じ場所で爆睡し続ける二人の父親とその隣で新聞を広げる修希の姿だった。


「じゃあ、お邪魔しましたー!」

照りつける太陽の下、正弘らは頭を下げた。その先には義祖父と義祖母が笑顔で立っていた。その後ろに将吾たちと亜里沙たち。東京に帰る正弘たちと違い、彼らはもう少し滞在するらしい。



将吾がすこし名残惜しそうにこちらをみつめているが連絡先を渡しておいたから大丈夫だろう、と彼は勝手に判断した。


「じゃあね〜。」

「うん。またお正月にね〜!」

義祖母の運転する車が走り去るまで彼らはずっと手を振っていた。



(こんな親戚でよかった。)



彼は心の中で呟いた。


「ほな、また今度やな。」

「ええ、ありがとうございました!」

新幹線の駅まで送ってくれた義祖父に礼を言うとスーツケースを引き、改札に向かって歩き出した。圭織と卓人はまだ話してるようだった。


正弘と海里は少しでも涼しい場所を求めて奥に行く。奥に通風口があり、そこの付近が涼しかった。少しうどんの匂いが混じってたが。



あとから来た卓人、圭織と合流すると彼らは昼ごはんとなる駅弁やらなにやらを買い、新幹線のホームに上がった。新幹線のホームといえど結局は大阪の空気をもろに受けるため、彼らは再び改札階へと戻ってきた。



「やっぱり大阪は暑いね・・」

「東京の涼しさが恋しい?」

「まあね、多分向こう戻ったら肌寒く感じるかも。」

「そうだなぁ。父さんがいた時はこんなに暑くなかったのになぁ。」

「まあここ最近暑くなってきてるから。」



「まもなく、16番線に・・・」

「そろそろ来るみたいよ〜」

「じゃあ行きますか。」

スーツケースを引きずり、エスカレーターに乗るとそのままホームへと上がっていった。ホームではちょうど電車が滑り込んでくるところだった。



(また観光したいな~~、大阪。)



彼と彼の思い出を乗せた新幹線は滑るように走り出し、鉄道の頭上を轟音を立てながら航空機が通過していった。


評価等、よろしければつけてみてください。

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