第47話 石井家~2日目~
長いの行きます!!人物が大量に登場するのでまだ話の途中ですが、人物設定も投稿しておくつもりです。
うっすらと開けた視界に、薄い茶髪が飛び込んできた。
横向きの体の下に腕を置いて力を込めると起き上がる。窓の外はすでに日が昇り、うざいほどのセミの鳴き声が響き渡っていた。
隣のベッドとの隙間に足を下ろすと足に柔らかい布があたった覗き込むとスリッパが置いてあった。海里と二人で寝ていた部屋を出ると階段を下り、リビングに入った。朝食の匂いと少し賑やかな声がしていた。
リビングに入った正弘にいち早く気がついたのは新聞を呼んでいた父親だった。彼は食卓ではなく、少し広めの机の前に座っていた。
「お〜正弘。おはよう。」
「あ、お父さん。おはよう。」
「まさくん、おはよう。」
「ああ、おはようございます。」
義祖父に対し、少し硬い言葉遣いになった正弘の背中を父親はそっと叩くと、笑った。
「戸籍上は家族なんだ。そんなに固くならなくてもいいだろう?」
「ああ、そうだな。」
「おはよ〜ってもしかして私最後?!みんな起きるの早くない?」
「お前が遅いんだろ。もう8時だぞ。」
「まだ8時じゃない。私休日基本9時とかに起きるもん。」
「それがだめだろ。」
「そう?」
そういうと彼女は正弘の隣に座った。
小さなあくびをすると、彼女は首に止めていたゴムで髪をくくった。いつものハーフアップとは違い、軽くひとつにくくっただけだった。
「いただきます。」
「いただきまーす。」
全員分の朝食が並べられるとすでに8時半になっていた。母親は東京の話を義祖父にしていたし、父親は父親で祖母に積もる話を消化している。
つまり、
「私たち、邪魔者?」
「というより参加しようがないよな。」
「だよね・・。」
二人はさっさと食事を切り上げると、部屋に戻った。
部屋に戻ったものの、やることもなく正弘はベッドに座っていた。そのまま背中を倒し、ベッドに寝転がった。しばらくして朝食を終えた親が戻ってきた。
「まさ、海里。今日はいとこが来るそうだ。」
「ふ〜ん。」
「で、一緒にご飯を食べるらしい。海里は何回もあっているが、まさは始めてだから、ちゃんとあいさつして仲良くなれよ。」
「言われなくてもわかってるよ。」
と、そこでガチャッという音が玄関の方から聞こえた。
おはようございまーす、という元気な声が聞こえる。部屋から顔をだした父親が3人を手招きする。
「来たみたいだぞ。」
ちょっと速すぎるんじゃないか、とか思ったがそこは関西人はせっかちだ、という父の言葉に納得しておいた。縦1列で階段を降りると玄関に大きなカバンを持った家族連れが立っていた。
「あ、彩花ちゃん久しぶりー!」
「海里ちゃん!おっきくなったね〜!」
女子二人が感動の再開を果たしている横では父親が兄である和彦と握手を交わし、母親は彩花たちの母親の由希乃と話している。彼は一人取り残されている将吾と目を合わせた。
「石井正弘です。よろしくな。」
「石井将吾です。よろしくお願いします。」
「しかしお前の家族よくしゃべるなぁ。」
「彩花姉さんは海里さんと仲いいですからね。母さんは同じ境遇の圭織さんと話合うかも〜ってずっと言ってましたから。」
「なるほどな・・・。で、お前年いくつだ?」
「えらい直球ですね。13ですよ。」
「お、同じだ。」
「中1ですか?」
「おう。」
「わ〜!同じです!なおさらよろしくですね!」
「おお!」
玄関は暫くの間話し声に包まれた。
その日の夕食は近くの料理店で食べることになっていたらしい。他に兄の和彦以外に弟の修希も来るらしい。一族そろうまでしばらく話しておいてと言われ、彼らはリビングの隣にあった和室に入った。冷房がかかって少し広いその部屋には小さな机がおかれ、お茶や菓子が置いてあった。海里と彩花は真っ先にそれに飛びつき、食べていた。
「そういえば父さんの弟の修希さんの家族っていつ来るんだ?」
「そうですね。遅れるとは言ってたそうですし午後になれば来ると思います。」
「どこに住んでるんだ?」
「確か岡山だったはずですが・・。高速が混んでるんでしょうね。あ、これ、食べますか?」
「岡山なのに車で来るのか?」
将吾が差し出したせんべいの袋を開けると、疑問を投げかけながらそれを噛んだ。
「ええ、大体車で来ますよ。よっぽど遠くない限り、ですが。」
対する将吾も同じように食べながら答えた。お互いの間に少し静寂が訪れた。
正弘は少し気になり、海里の方を見返った。だが彼女は彩花と顔いっぱいの笑顔で談笑していたため、それは杞憂に終わった。
「そういえば、僕の、海里とは違う方のいとこも来ますよ。まあ、いつものことですが、あなたは知らなかったでしょう?」
「それはずいぶんと多くなるな。」
「多い方が楽しいじゃないですか。」
「その通りだな。」
そんな他愛のない話をしているうちに窓の外は少しずつ黄色がかってきた。正弘はそれに気がついて時計を見ると、4時を指していた。
「遅くなりましたー!」
ふと、壁をひとつ隔てた廊下にまだ別の男の声が響いた。
将吾の方を見やると彼はそっと笑って頷いた。
「ようやく来ましたか。」
立ち上がった将吾について立ち上がるとその後ろを彩花と海里がすごい勢いで通過した。
「おっと。どうしたんだ?」
「ん〜、すぐわかりますよ。」
「そうか?」
ぼやかした将吾の言葉になにか嫌な予感をいだきつつも彼らは扉をくぐり、廊下に出た。そして彼は悟った。人数多くてもこの組み合わせは嫌だと。
なにせ、
「海里ちゃん久しぶりーー!」
「あ!瑞希ちゃんまたおっきくなったーー!」
「さすがにもう伸びないよ。ね、亜里沙。」
「でもまだ私には抜かすのは先だけどね〜。」
同意を求める姉に少しおっとりとした表情で答える妹。
「なんでこんなに女が多いんだ?」
「さあ?知りません。まあ今回は正弘さんがいるのでぼっちにはならないのでうれしいですね。」
「あー、今まで女しかいなかったのか・・。」
すると玄関で海里たちと騒いでいた少女が一人、こっちに向かってきた。正弘にとっては家族ではあるものの、いままであったこともない少女と話すのはなぜか緊張した。
「亜里沙さん、お久しぶりです。元気でしたか?」
「う〜ん、元気だったよ。ちょっと風邪引いたりもしたけどね〜。」
そう言うと彼女は笑った。
「で、君が例の正弘くんか〜。」
「え、あ、はい。よろしくお願いします。」
突然名前を言われ、驚いた彼は緊張しながらようやく言葉を絞り出した。
「固くなりすぎだよ〜ほらリラックス〜。」
そう言いながら彼女は正弘の頬を引っ張った。
「い、いひゃいでひゅ。やめてくだひゃい〜!」
「お〜言い方かわいい〜。」
「亜里沙さん、遊ぶのもそれくらいにしておいて上げてください。昨日から知らない環境に置かれっぱなしなんですから。」
「それもそっか〜ごめんね〜。」
「い、いえ、大丈夫です。亜里沙さん、でしたっけ。これからよろしくお願いします!」
「普通に亜里沙〜でいいよ〜あ、亜里沙姉でもいいけどね〜。」
彼女は右目をつぶり、少し首を傾けた。
彼女の黒に茶色を混ぜたような色の髪の毛が肩からこぼれた。
集まった石井一家はそれぞれの家族の車に乗り、家を離れていった。すでに夕日が山にかかり始めており、夜になるのはすぐだった。だが時計はもうすぐ六時であり、夏の日の長さを感じさせた。
「そういえばまさくんはさ。」
「ん?どうした?」
行きの車中、突然隣の海里から話しかけられ、意識を窓の外から内に戻した。
「まさくんって亜里沙ちゃんとか将吾くんとなんの話ししてたの?」
「あ〜まあ色々?」
「なにそれ。」
「日常生活に関して。」
「おばさんみたい!」
「なんで日常生活に関して話したらおばさんになるんだよ。お前だってそんな感じのこと喋ってたんだろ?」
「私はいっつもメールしてるからわざわざ言う必要ないもん。」
「じゃあお前こそなんの話ししてたんだよ。」
「まさくんの話!」
「うっわ。嫌な予感しかしねえ。」
「いい話しかしてないから大丈夫だよ!」
そう言って親指を上げた海里に大丈夫じゃないだろ、と言い返し、窓の外を眺める。いつの間にか車は国道に入っていた。そんなに遠くまで行くのかと思いつつ、外の風景を眺めていた。
ガソリンスタンドの向かい側にある、寿司屋に車が入っていく。先についた車からは彩花や将吾、瑞希たちが下りてきてこちらに手を振っていた。隣に車を止めると、ドアを開けると夕方というのに全く消えない熱気と、国道の騒がしさが入ってきた。暑いと思わず口に出しながら降りると扉を閉める。駐車場の上に店があるその寿司屋に入ると、奥から義祖父が手招きをした。そっちに向かって歩いていくと将吾が隣に並んできた。
「ここの店、よく来るのか?」
「親戚一同集まったときはここで食事しますよ。宴会場ありますから。」
「そうなのか。」
確かに奥に座敷らしきものが見えた。一番手前の座敷に案内されると、正弘は端に陣取った。隣には海里と、将吾。
(できれば反対側はおじいさん以外が座ってくれ。)
そう心に念じていると反対側には彩花や亜里沙たちが座った。2つの席に分かれて座り、こっちは子供が、反対側には大人が座った。
(飲み物関係かな?大人はビール、子供はジュース。あとは話があうか合わないかも関係しているだろう。
隣に海里と将吾がいるのはいいとして、反対側の女性陣が揃いも揃って美人ぞろいなのはいただけない・・。)
注文はほぼすべて大人サイドが受け持ち、こちらは希望をだすだけでよかった。瑞希が最初にお酒を頼んだときは少し驚いたが。
座席配置=============
彩花 亜里沙 瑞希 義祖母 義祖母 和彦 真奈美
海里 正弘 将吾 圭織 卓人 修希 由希乃
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「で、正弘くん、軽く自己紹介お願いできるかしら?」
注文も一段落したところで瑞希からの突然のリクエストに正弘は再び驚いた。
「亜里沙たちは知ってるらしいけれど私や彩花は知らないからね。」
「あ、そうですね。石井正弘です。海里と同じクラスです。よろしくお願いします。」
「じゃあ私達お一応名乗っとく?」
「そうですね。私は将吾の姉、石井彩花と申します。よろしくお願いします。」
「石井亜里沙の姉の石井瑞希です。よろしくね。」
「あ、はい。よろしくお願いします!」
こうして、石井家の子どもたちの顔合わせは終わりを告げた。
食事が始まると、瑞希はもっぱら親たちに方のテーブルでお酒を注いだりしていた。するとあとには大体同じような年の子たちが残るため、話は盛り上がった。
やがて食事の場の盛り上がりは少しずつ収まり始めた。
「そろそろお開きにしますか。」
「ええ、そうですね。」
和彦の言葉で座敷はもう一度動き始めた。各々が身支度を整え、帰る用意を終えていく。
「お父さん大丈夫?」
「お、おう。大丈夫だ。」
男性陣はかなり飲んで酔っていた。幸い、石井家の女性陣は全員運転免許を持っているため、帰りの心配はしなくてもよかったが。帰り道、車内が異様に静かなことに気が付き、横をいると海里は窓の枠に頭を載せて寝てしまっていた。
国道のオレンジの明かりが彼女の顔の上を通っていく。どうやら父親も寝てしまったようだった。斜め前の運転席に座る母親の顔が前の車のテールランプに照らされて赤く光った。行きとは違う夜の街を眺めながら彼はなにを考えるでもなく車の揺れに身を任せていた。
お祖母ちゃんの家に着くと、熟睡して起きない海里を抱いて寝室まで上がる羽目になった。父親はもちろん重いので、リビングで寝てもらうことになった。夜の家は人がいてもひっそりと静まり返っていた。
夕食時に食べすぎたせいかなかなか寝付けず、彼は天井を見つめ続けていた。そっと寝返りをうち、とりあえず目を閉じる。気がつけば朝になっていることを願いながら。