第44話 平野家
まだまだ!!と言いたいところですが、今日はこれで終わりにしておきます。
翌日、目を覚まして一階に降りると母さんが全員に「今日は私のお母さんの家に行くから行く用意しといて」と言ってきた。流石にお父さんはお盆休みには帰ってきている。
それから1時間もしないうちに俺たちは海里と初めて家族になった場所であり、前世の俺が生まれ育った場所へとやってきた。
家に入ると、ばあちゃんとじいちゃんが正弘たちを迎えた。
「久しぶりね~~。元気してた?今日はゆっくりしてってね。」
「は~い。」
海里が元気よく挨拶する。お父さんは少し頭を下げながら靴を脱いでリビングに入っていく。
「母さん、とりあえず皆で陸と芳和さんの供養をしたいんだけどいいかな?」
母さんが聞く。
正直父さんの供養をするのはとてもいいが、陸の供養をするのは何かまちがってるのじゃないか、と思う。
俺(魂は陸)が陸のことを悼むのは矛盾が生じる気がする。まあ、面倒だからやるけど。
無事に父さんと陸の供養を終わらせると、俺たちはそれぞれ部屋を割り当てられ、そこに荷物を置いて昼食の時間まで自由にしておくことになった。俺は今亡き叔父さん(陸)の部屋で海里は元母さんの部屋だ。
俺は部屋に入ると早速自分のパソコンをつけた。もちろん周りを確認して。パスワードを打ち、久しぶりの自分の壁紙を見て懐かしさがこみあげてきた。
あの時、死んだせいで途中で終わってしまった小説が今ここに生まれ変わったことで読めるようになったのだ!!
無料で小説を読めるサイトを開き、昔読んでいた小説を検索すると、もう完結していて、そのサイトの中でも8位になっているらしい。
小説を読んでいるうちに正弘はストーリーの中に入ってしまい、昼食の時間になって、海里が呼びにくるまでパソコンの前に座り食い入るように画面を見ながらずっと座っていた。
久しぶりに座る居間の食卓、懐かしい気持ちで目の前に置かれた昼食を口に運んだ。さっきから父親がそわそわしているのは居心地の悪さなのだろうか。
「海里ちゃんだっけ?」
陸にとっては母親、正弘にとっては祖母が話しかけてきた。
話しかけられた海里は少し驚きながらも冷静そうに答えた。
「はい。」
「なんか変な感覚だねえ。孫はまさちゃんだけかと思ってたのに。」
「ええ、私もです。おばあちゃんが二人なんて・・。」
「なあ、海里。」
「ん?」
「おばあちゃんが二人いるのは普通だぞ?」
「あ、そっか。」
「お前の場合、3人いるんじゃないのか?」
「あ〜。そうだね〜。」
今更のように納得した顔をしている海里につい笑いがこみ上げ、吹き出してしまう。
「あーまさくん私の顔見て笑ったー!」
「い、いや、だって今更納得したような顔してるから・・。」
「むう・・・。」
そう言って膨れた彼女のほおを押すと素知らぬ顔で昼食を再開する。
机の反対側ではおばあちゃんとおじいちゃんが顔一杯の笑顔で笑っていた。
(こんな家族だったら死ななくてもよかったのかな・・・。いやまあ死んだのは偶然だけど。)
そう思った正弘はその思いを首を振って打ち消した。
「ねえ、このあとどうする?」
「あーどうする?」
「墓参りは?」
父親の提案に午後の行動を考える家族。
「そうだね、墓参りに行こうか。私もお祖母ちゃんにもヨシにも色々言いたいし、もちろん陸にもね。」
そう言いながら母さんは俺の方を見てきた。
俺に言いたいことがあるなら直接俺に言えよ。墓越しに言われたら何か気色悪いじゃねぇか。
その後、家族の意見もまとまり、墓参りに行くことになった。家の外に止めていた車に分乗して平野・坂田家のお墓がある寺を目指す。
先行するおじいちゃんの車の後ろからついていくとそんなに大きくない寺が見えてきた。坂の途中に位置する門から入っていくと本堂の前に小さな広場があり、そこに車を止められるようになっていた。
車を降り、白い砂利の上を歩き、本堂の横を通過すると地面がタイルに変わっていった。しばらく行ったところにあるドアを祖父がノックすると中から優しそうなおじいさんが出てきた。
「あーこんにちはー。」
「お久しぶりですね〜。あら、お孫さんですか!大きいですねぇ。」
「ええ、この子達を連れてきたのは幼稚園以来?ですからね〜。」
仲良く談笑する二人を見ながら母親が手桶に水を汲み、柄杓を中にいれて持ってきていた。
「お父さん、さきに行ってるね。」
「おう。」
母親が先に歩いて墓に向かう。途中、大きな桜の木の下を通過した時に海里がつまづき、正弘は慌てて支えた。
「ありがとう。」
「墓で転ぶとか縁起悪いなあ。」
「だね。」
そう言うと二人はそっと笑った。
「平野家之墓」と書かれたお墓の前に立つと、正弘は不思議な感覚に襲われた。
「ねえ、母さん。」
「なに?」
海里たちに気づかれないように小声で母親に問いかける。
「俺の骨もここに入ってるんだよな。何か複雑だな・・・。」
「うん、正確に言うと陸のお骨だけどね・・。」
「まさくん、どうしたの?」
「いや、身内の話だ。」
「ふーん。」
気のなさそうな返事をすると海里は柄杓とブラシを手に取った。
正弘も手桶を近くに置くと柄杓で水をかけ、ブラシでこすり始める。しばらく洗っていないのだろうか、文字のところは少々黒ずんでいた。
数分後、大分きれいになったころ、祖父が煙をあげている線香を持ってきた。祖父が線香を線香皿に乗せ、離れると全員が手を合わせた。近くの木から聞こえてくるセミの大合唱が彼らを包む。
「じゃあ帰ろっか。」
「そうだね。」
「またね、陸、ヨシ・・。」
(じゃあな、前世の俺の骨・・。)
そう、心で思うと彼はそこをあとにした。車に乗る時、もう一度振り返った。こうして前世ではあるが自分の骨のお参りに行くという不思議なイベントは終わりを告げた。
車が坂を下り、近くの国道へと移動する。大きな車の流れに乗って彼らは次の場所へと向かう。
「ねえ。」
正弘は運転席の父親と助手席の母親に問いかけた。そのどちらかが答えてくれると信じて。
「どうしたの?」
母親が振り返る。
「どこいくの?」
正弘の問いに車内は沈黙に包まれる。もともと静かだったが。
「とりあえずおばあちゃんたちについていくか。」
「そうだね〜。」
父親の言葉から1時間後、彼らは見覚えのある家の前についた。
「ここって・・。」
「私達の実家じゃん!」
結局ぐるぐるとまわってついたところはおばあちゃんちだった。だがアチラコチラを走り回ったことで日が沈みかけていた。
その日は実家で飯を食ってから家へ帰った。明日は海里たちの実家へ行くらしい。お父さんは家に帰ったころには既に大分酔っぱらっており、上機嫌なままそのまま寝た。
正弘たちも風呂に入った後、睡魔が攻めてきて各々の部屋ですぐに眠った。
こうやって盆休みの一日目は終わったのだ。