第37話 1学期終了
久しぶりですいません!!次からは夏休みです。第3章が他の章より長くなる気がします。
「カラオケ行くのテスト返し最終日にすればよかったな〜。」
「そんなに悪かったの?」
「悪かったわけじゃないんだけど、なんか最終日のほうが発散できるかなって。」
いつの間にか学校では海里よりも有沙とよく話すようになっていった。一方の海里はというと敗れた神村とよくつるんでいた。結果として4人には代わりはないのだが。
成績表が返ってきたその日、教室は騒がしかった。主に勝った負けたの張り合いで。
「おい、正弘!成績表はどうだったんだ!」
「普通だよ。お前とは違ってな。」
「俺も普通だよ。と言うかお前の俺に対する低評価、どっから来てるんだ?」
「お前入学初日からろくでもないことしか言わなかっただろ?お前最初自分のことなんて呼べって言ったか覚えてるか?」
「え?なんだっけ?」
「お前、自分で言ったこと忘れるなよ。かみちゃん、だぞ?」
「あー。そんなこと言った覚えもあるな〜。」
「それ聞いて何人のやつが『こいつまともだ。』と思う?」
「くっ。自分で墓穴をほったのか!」
「掘るにとどまらず自分で入っていったんだろ。」
正弘と神村のコントまがいな会話に有沙と海里はつられて笑い出す。神村がその様子をみて文句をいうが、その格好がおかしかったのか、彼女たちの笑い声はさらに大きくなった。
「おーい。少し静かにしろー。」
教壇の上から教師が言葉を投げかける。
ほぼ力を持たないそれは彼らの耳に届きはしたもの、脳に訴えかけるほどの影響力を持たなかった。むしろ他の生徒たちによってかけられた声のほうが効果はあったようだった。彼らの大声により一旦は落ち着きをみせた教室を見渡すと担任は口を開いた。
「よーし。今日は掃除はなしだ。明日は終業式だが、制服の上着を忘れるなよ。日頃は来ていないやつもいるみたいだが式典はちゃんと着てこいよ。以上だ。また明日会おう。」
無駄にかっこいいセリフを言い残して教室から出ていった教師のあとを追いかけるように正弘たちはドアをくぐり抜けた。4人が4人ともドアに近かったためだ。
帰路につきながら彼らは夏休みのことを話していた。あと一日登校しなければならないのだが気持ちはすでに夏休みだった。ことに中1である。期待に胸が膨らむのも仕方ないだろう。一名を除いて。
(あ〜。夏休みか〜。宿題ぎりぎりまで引っ張って3日前ぐらいに慌ててやってたっけ?というか前世の中学校、宿題多すぎただろ。今の学校なんかこんな少ないぞ・・。)
だが彼の読みは甘かった。宿題というものはなにも終業式の前日までに渡さなければならないというものではない。案の定、次の日に嫌になるほど配られたのだが。
「よーし!夏休み、遊園地行くぞーー!」
「カラオケも行きたーい!」
「全部行っちゃえー!」
「おーー!」
学校の隣の少し、静かな住宅地に彼らの声が響いた。
「えー。今学期、苦情が5件入っています。いずれも学校の付近の住宅地で大声を上げていたというものだ。これはどういうことだ?いいか。これからはこんなしょうもない苦情を入れられるような生徒にはなるな。以上。」
校長の長ったらしい話の後、生活指導部長が前でマイクを握り、恒例の注意を始めた。昨日、住宅地で少し騒いでしまった正弘にとっては耳が痛い話だった。ちらりと左右の有沙、海里を見てみるとふたりとも同じような心境のようだった。
(結局苦情入ったのか〜。いや、俺らじゃないかもしれない・・。)
「この中には俺じゃない、私じゃないと思っている人もいると思うが、自分がどういう振る舞いをしているかは第三者が一番よく見ている。もう一度自分の行動を考え直してくれ。」
まるで正弘の心の中を読んだかのように絶妙なタイミングで話をした生活指導部長に一瞬恐れを抱いた正弘であった。
「よっしゃー!1学期終わったー!」
4人分の気持ちを代弁するような正弘の声は人混みとセミの声にかき消されてしまった。
体育館から出て来る生徒の波に飲まれて彼らは階段を登り、教室まで戻ってきた。だが案の定、教室の鍵はしまっていて、先についた何人かが暇を持て余すかのように歩き回っていた。ようやく担任が鍵をもって登場したときにはクラスの大半が教室の前で屯していた。
「先生遅いでーす!」
「はは、ごめんごめん。」
「あれ、先生、それって・・。」
「あ、うん。成績表。」
「わあああ!」
教室に入るとすぐに帰れと言われた。成績表だけ手短に渡すと、担任はさっさと教室を出ていってしまった。
「ね!ね!どうだった?成績表!」
「あー中の上ぐらいかなー。」
「えー?どうだった?」
「言わない!」
有沙と正弘が言い合っているその隣でいたって冷静に事実確認だけを済ませている神村と海里。
「どうだった。」
「普通。」
「そうか。俺も普通だった。」
「あの二人はなにをあんなにはしゃぐことがあるのかしら。」
「知らねえ。あいつらに聞いてこい。」
「嫌よ。」
「じゃあ俺に聞くな。」
この温度差はいつからできたのだろうか。
開けた扉から外の騒がしさが入ってくる。一学期が終わり、浮かれた空気の中で沈んでいるものもいれば一層浮足立っているものもいた。すべてはたった一枚の紙によるものだ。
「明日から夏休みだーー!」
教室の窓から叫んだ正弘の声はどこまで届いたのだろうか。真っ青な空には数羽の鳥が映えていた。
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