第36話 試験開始!!そして瞬く間に全試験終了。
明日からはまた更新が遅くなると思います。
「おーい。試験開始五分前だぞー。準備しろよー。」
試験監督の声に一斉に教室が動き始める。
最後まで必死に頭に押し込もうとする人や、自身があるのか机に伏している人。正弘もぼんやりと前を向いていた。騒がしかった教室もだんだんと静寂の波が広がる。
試験監督の教師はそれを見て、あらかじめ分けていた試験問題を列の先頭に置いていった。回ってきた解答用紙を穴が空くほど見つめる。やることのない彼にとってはそれが一番の暇つぶしだった。
時計が時を刻む音と人の呼吸の音だけが空間を満たしていく。静かに時は流れ、開けたままの窓から風がひっそりと吹き込んできた。その風は前の席の有沙の髪を揺らし、壁に当たって砕け散った。
「はじめ!」
その光景に見とれていた彼の耳に飛び込んできた、聞き慣れたチャイムの音と試験監督の声。その声に一瞬反応し遅れ、刹那の後に彼は問題用紙を開き、意識を有沙の髪からテストに移した。
「終わったーー!」
最後の科目、理科の試験監督が教室を出たとともに彼は今まで溜まっていたものを一斉に吐き出すかのように大声を上げた。その様子を前の席の有沙はにこやかに笑いながら見ていた。
一方、その隣の列の一番前では神村が頭を抱えながら沈んでいた。海里は至って冷静に身支度をし、帰る一歩手前まで達していた。気が早いものだと少し感心し、少し呆れつつ彼も荷物を引きずってきた。床に少し落ちていたホコリがカバンの底につき、白味を帯びている。
担任による軽い注意事項のみで終礼は終了、40数人の生徒が一斉に教室の入り口に群がった。正弘は壁にもたれながらそれを見、横にいた有沙に話しかける。神村が少し嫉妬をこめた目をよこしてきたが完全にスルーした。
「帰ろうぜ。」
「ええ。」
「まさくん、私忘れないでよ?」
「あーごめんー。」
「俺は?」
「うーん。お前はだめ。」
「なんでだ?」
「何しでかすかわからないから。」
「おとなしくしとくからさ。」
「それでもだめ。」
「なんだ?女子二人を独り占めして愉悦に浸りたいのか?」
「こいつっ。わかった。わかった。ついてきていい。」
「勝った!」
「何してるのよ。早く行くわよ。」
帰宅ラッシュを終え、人が減った教室のドアから外に出ると、ドアで遮断されていた熱気が彼らを襲った。
その暑さに少し顔をしかめながら彼は階段を降りていった。上の階で騒いでいる声が聞こえる。おそらく中3だろう。
「疲れたな〜。」
ふと呟いた彼の本音は階段に響いた。急な思いつきで飛び降りた2段分の位置エネルギーは静かな階段に大きな物音を響かせるのに十分だった。虚無に響いた物音はすぐに消え去り、3人分の足音に変わっていった。
「ねーねー。このあとどうする?」
「どうしよっかー。」
「どっか行こーぜー!」
「だからその話をしてるんだよ。なにかないか?」
「カラオケとか?」
「カラオケで発散しちゃいますか?!」
「しちゃいますか!」
「おーー!」
昇降口で周りを歩いていた他学年の生徒が何事かと眺めてくる。だが特に何の変哲もないただの中1が騒いでるだけ、と彼らの目には写ったのだろう。すぐに彼らは目をそらし、自分たちの世界に戻っていった。