第35話 期末考査初日
少し遅れてしまいました
二日間という間が一瞬であると感じるのは一人だけではないだろう。正弘も、だ。
「ついにきちゃったかー。期末考査初日ー。」
いつも通り朝早く登校すると彼はそうつぶやいた。
相方の少女はそれに静かに笑うと手を止め、天井を見上げる。後ろでくくったきれいな黒髪がひとつ後ろの机の上にこぼれた。
「そうだね〜。一年生最初のテストだからどうすれば良いのかよくわからないこともあったしね〜。」
(残念ながらそれには賛同しかねるけどな。)
一度前世で定期考査を何度も受けていた彼にとってはどこを勉強すれば良いの大体わかっていた。もちろんそれでいい成績が取れるのかと言われればいささか疑問は残るのだが。
「ねえ、石井くん。」
「正弘でいい。」
「そ?じゃあ正弘くん。海里ちゃんとはどういう関係?双子?でも前血がつながってないって言ってたけど・・・。」
自分で振った話題が予想以上に重かったと感じたのか、有沙は言いながらも少し申し訳無さそうな顔を浮かべた。
そんな顔に慣れている正弘は笑顔で彼女の問に答えた。いままで何度も繰り返してきた自称満点の解答は今回も落とすことはなかったようだ。
「そっか。だから血はつながってないけど家族ってことなのね。」
「うん。」
一通り話が終わった時、教室のドアが威勢よく開けられた。
驚き、二人はほぼ同じ問をドアを開けた人物に投げかけた。
「まさか、お前、話聞いてたのか?」
「海里ちゃん、聞いてた?」
「うん。バッチリね。まさくん、人のいないところで他人の名前を出さないこと!使用料取るよー!」
「なんだそれ。」
「ほら、生物の先生が言ってたじゃん。他人の名前を使う時はかならず使用料を払え~って。」
「それ、本気か?」
「嘘だよ。そんなに金欠じゃないし。」
笑って返す彼女に一瞬本気で財布の中を見ようとした彼は拍子抜けしてしまった。
「よーし!期末テスト、頑張るぞーー!」
「おーーー!」
たった三人、いや、教室の外にひっそりと佇む男も入れると四人しかいないその空間に、希望で溢れた声が響いた。
「今日から期末考査が始まる。中間考査で大体は分かったと思うがテスト開始5分前までに荷物は後ろにしまっておけよ。じゃあ、頑張ってくれ。」
そう言い残すと担任は教室を去った。
彼が扉を占めると同時に教室は約5分前の騒がしさを取り戻した。
「ねーねー。まさくん、一教科目ってなんだっけ?」
「えーっと、地理じゃね?」
「あ、そっか。有沙ちゃん、何か問題だして!」
「うん。じゃあ・・、インドでIT産業が発展した理由は?」
「え、あ、えっとー。」
「時差の影響でニューヨークと24時間体制でできるからだろ?」
「あ、もう!まさくん言っちゃった!」
一瞬つまった海里の横でさらっと正答を述べた正弘にすこし頬を膨らませた海里が文句を言った。
「なあ、俺も混ぜてくれ。」
そこに神村が割り込んできた。彼は地理のプリントを入れたファイルを抱え、こちらを見下ろす。
正弘が目を合わせると彼は自分なりの答えを出し、口を開いた。
「じゃあ、問題。石炭鉱業で栄えたものの、衰退し、今は果物に頼って・・。」
「あ、夕張!これはわかる!」
「ですが、そこの名産は?」
「いや、メロンだろ。かんたんすぎるぞ。」
「あはは。悪い。適当に開いたプリントの一番上にあったから。」
笑いながら理由を告げた彼の目は有沙に止められていた。
(そう簡単に諦めつくかっての。)
(なんだ?神村のこの視線、荒山さんのこと好きなのか?面白いことがわかった、二人をくっつけないと気が済まないぜ。)
神村の有紗に対する視線に気がついた正弘はそっと心のなかで小さな野望が煌めいていた。