第29話 体育祭当日
「今日は待ちに待った体育祭の日です。赤も白も青も頑張りましょう。」
この学校の体育祭は赤・白・青に分けられている。俺のクラスは赤組だ。颯太のクラスは青組。颯太とは今回は敵である。
クラブ対抗リレーとかもあるらしいが、中1は出なくても良いようになっていたので、俺はカミとの戦いに専念することができた。
1ヶ月という期間は短かったものの前よりは少しぐらい速くなっていると思う。
「1種目目 スウェーデンリレーに出る人は入場門の方に集まってください。」
アナウンスが入った。
150m走は2種目だ。ウォーミングアップは軽くしていたほうが良い、と昨日お父さんに言われた。その言葉に俺は従い、少し足を動かしておく。
と、そこへカミが走ってきた。
「マサ、お互い頑張ろうぜ。それと、お前だけには勝つぞ。」
「俺もお前には負けねぇぞ。この1ヶ月間、ガチで特訓したからな。」
「そうか。約束はわかってるよな?」
「もちろんだ。」
そこまで話したところで、アナウンスが入り、2種目目に出場する生徒は入場門に集まるよう指示された。
「勝負の時間が来たようだ。いい勝負をしよう。」
「楽しもうぜ、マサ。」
カミへの言い方がどっかのマンガに出てきそうな台詞になってしまったが、カミは特に気にしなかったらしい。俺達は入場門に向かった。
「それでは第一走者の方、前へ。」
実況者は少し呼吸を置いてこの競技を開始させた。
「よーい、ドン!」
と同時にピストルが鳴り、150m走は始まった。
グラウンドの都合上、最初はカーブから入る。地面が砂であることをある程度留意しつつ、体を傾ける。
カーブをすぎると、一ヶ月、ひたすらにフレキトレーニングを積んできた彼は足の回転速度を上げた。それと同時に彼は横に人影がないことをみた。
ゴールまでの直線、彼は体力が落ちてきていることを理解しながらも極力、ペースを落とさないようにする。意外に早い体力の低下に少し驚いたが、それを考えずに走る。だが、いままで走ってきたのは家の前のアスファルト、今は砂。地面からの反発が少ないことが体力低下の原因だろう。
彼はふと横に人影をみた。息を荒くしながら横目で確認する。神村だった。少し焦り、前をむいた。ゴールラインは、目の前にあった。だが、届かない。
(くっそ。あと少し!)
心が、体に追いついていかなかった。足に疲労がたまる。ふくらはぎのつりを引きずったまま、倒れ込むこむようにゴールテープに走り込む。
神村と同時に飛び込んだため、自分ではどちらが勝ったのかわからなかった。無理やり歩かせようとする体育祭委員を振り切ると、その場に座りこんだ。だが、彼はその後の悲劇を考えていなかった。砂という低反発の場所でなれない足を酷使すればどうなるか。
「あっ!っっっっっっ!」
ろくにストレッチをしなかったため、
「足つった!」
横にいた、神村が息を吐きながら爆笑した。
「結局どっちが勝ったんだか。」
「楽しめたからいいんじゃね?」
「俺は痛いけど、足が。」
「先ほどの接戦の結果、勝者は僅かな差で神村くんでした!お疲れさまでした。」
負けたか。でも、朝のランニングは続けて行こうと思う。もうすっかり日課になっているから。
「負けたけど、いい勝負ができて良かった。午後は団体戦だが二人で頑張ろうな。」
「ああ。約束は覚えているよな?これで貸し1だ。」
「・・・ああ。でもその前に、一回保健室に行かせてくれ。湿布、もらいたい。」
そう言ったら、神村はもう一度爆笑した。痛みの残る右足を引きずりながらグラウンドを回ると校舎内の保健室に逃げ込んだ。