第26話 クラブ挨拶
全授業が終わり、俺は武道部に行く準備を始めた。海里には部活に行く、とだけ伝えた。少し嫌な顔をしていたが、すぐに元の表情に戻り、手を振って別れた。
俺は1人武道場へ向かった。
武道場の前まで来ると、見学者と思われる2人がすのこの上に座っており、部員がその二人に説明をしていた。俺はその部員に話しかけた。
「武道部を紹介してもらったのですが、部長さんはいますか?」
「あ、私が部長ですが、少しお待ちください。」
(丁寧な喋り方の人だなあ。)
暢気にそう思いながら待つこと3分。部長がやってきた。
「誰に紹介されましたか?」
「異世界部の部長からです。」
「ということはあのクラブの部員か。君も大変だなあ。」
「それは?」
「いや、気にしなくていいよ。」
「私は武道部の部長をしている新道です。異世界部に入っているということはこの部活にも入るということだよね?」
「はい。」
「じゃあ、仮入部ということで。明日から体操服を持ってここに来てください。今日はご希望なら見学していただいてもいいですよ。」
「いえ、今日は異世界部の方に顔を出します。」
「わかりました。明日のこの時間に会いましょう。」
「はい。ありがとうございました。」
そう言って俺は武道場を去った。
(それにしても丁寧で優しそうな部長だったな。異世界部とは大違いだ。)
俺は校舎の端の方にある暗い教室の扉をあけた。少しいい香りが漂ってきた。子の香りは多分彼女だろう。
「あ、長屋先輩、お久しぶりです。」
「あら、坂田くん。随分久しぶりな感じがするのだけれど何をしていたのかしら?それに少し顔がすっきりした感じだし。」
「いや、家庭が崩壊しかけまして。」
「ふ~ん、そう。そういえば、あなたがいない間に新入部員が二人も来たわよ。」
「それ、来たんじゃなくて無理やり連れて来たんじゃないんですか。」
「そうとも言うわ。」
「そうとしか言いません。でも俺一人よりはましですね。あれ?そういえば他の先輩たちはどこにいるんですか?それに噂の新入部員も」
「少し外に出てるわ。もうすぐ戻ってくるはずよ。」
「そうですか。」
そういうと彼は教室のなかでカバンをおろし、適当な机と椅子をみつけて座った。
「はい。」
目の前に『坂田』と書かれたカップが置かれる。置かれた衝撃で琥珀色の液体が少し揺れた。
「一応あなたのカップよ。部室に置いていてもいいけど自分で洗いなさいね。私は洗わないわよ。」
「あ、ありがとうございます。」
カップに口をつけたとき、部室のドアがあいた。