第19話 一家分裂の大事件 第2夜
夜、石井家の食卓はものすごく静かだった。
「卓人さん、海里。」
「なんだ?」
「なに?」
「正弘から話があるそうよ。」
「何の話?まさくん」
「話してくれるのか!!正弘たちの秘密を!」
「秘密?お父さん、何それ?」
「海里、俺が異世界部に入った理由を聞いてくれ。」
「・・・わかった。」
そして正弘は話しだした。前世の前世で死ぬ少し前から。
「少し長くなる。
実は、俺は前世の記憶を2つ持っているんだ、この世界と異世界と。
最初から説明する。
今から約15年前、俺 平野陸は深夜にゲーセンに行こうとして段差につまずいて転び、頭が尖った石に当たって死んだ。ちなみに平野陸の姉は俺の、正弘の母さんだ。」
ここまで話してお父さんと海里を見ると、口を半開きにして驚いていた。
「死んでから目が覚めると、俺は丘の上におり、そこからは中世のヨーロッパを想像させるような街並みが広がっていた。言わば転生したんだ。・・・」
そこからは俺の、リク・ソヴァールとしての人生を長々と語った。語り終えて時計を見てみると、11時を過ぎていた。
(と言っても話し始めたのが10時だから妥当な時間だな。まあ、話した内容はカナティアの結婚からは入ってないから、年齢的にはお父さんよりも上、だとかは誰も考えないだろう。)
そして改めて二人を見ると海里は寝てしまっていた。父親は真剣な顔をしてこちらを見ていたが。
「そうか。話してくれてありがとう。色々突っ込みたいことがあるが、今日はもう遅い。明日は日曜日だから、昼ぐらいから家族会議をしよう。海里にも言っておいてくれ。解散!」
「おやすみ〜〜。あ、正弘、海里ちゃんを部屋まで運んであげて。」
「わかった。おやすみ。」
こうして懸念していた今日は見事に終わった。
※海里はきちんと部屋に戻しました※
翌日、時計を見ると9時だった。
(昨日は遅かったのに結構早く起きてしまった。)
リビングに行くと、家族が勢ぞろいしてた。昨日言っていた会議とやらをやるらしい。
お父さんが有言実行とは、珍しい。別にそこまで多く会議とかやらなくてもいいのにな。
なんで会議にこだわってるんだろうか、お父さんは。
海里は俺が朝食を食い終えたのを見届けると、口を開けた。
「で、昨日入っていた話が本当だったとして、母さんは姉ちゃん?なの?」
「まあ、そうだな。でも今は息子だぞ。前世が姉だっただけで。」
「あ、そう、そうなの。」
納得したように父親が頷く。
海里は少しわけのわからない顔をしていた。それは当然だろう。いきなり母親と姉弟だったと言われても大体の人は首をかしげる。そこに前世とかいう話が入り込めば理解しろという方が難しい。
「だからお前は異世界部に入ったのか。」
「ああ。」
すべてのピースがはまり、納得した父親は首をかしげる娘をみた。
「別に正弘くんはキモいわけではないとわかったか。」
「もうどうでもいい。正弘くんがキモかろうとキモくなかろうと。お父さんも同じ。もう、これ以上、この話に私を巻き込まないで。」
そう言うと海里は部屋を出ていった。
父親は止めることもせず、ただ、見つめていた。正弘は彼女のあとを追おうとした。だが後ろから伸びてきた細い手に止められた。手の主は見なくてもわかる。
「私が行くわ。あなた達がいっても無駄よ。」
そして海里を追って部屋から出ていった。
正弘は家族が二分割しかけていることに気がついた。と同時に、今気づいたところではもう手遅れだということも気づいていた。
しかし、正弘は困難をどうにかするつもりだった。家族の幸せな笑顔を取り戻すために。
原因が自分だったということは隅におきながら・・・。