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Two persons part2

「こんなところで何をしているんだい?」


「え、あ……」



 一流はトイレの窓から身を乗り出し自分の手を掴んでいる男を見上げる。

 その姿から教師であることは見て取れるが、その表情にどこか違和感を感じた。



「その機械は君のかい?」



 一流は慌ててまだバッグの中に入っているルシィルを見る。

 だがそこで一流は気づく。

 バッグの中に入っているルシィルを一目見ただけで機械と判断することなんて出来るはずが無い。

 何故なら嫌というほど機械を見てきた一流自身、バッグの中に入れられているルシィルを見たときはただの金属の塊にしか見えなかったからだ。

 ウル鋼の表面は金属光沢こそあるものの普通の金属より光り方は鈍い。ウル鋼の存在すら知らない一般人からすれば、怪しげな物には見えるかもしれないが機械に見える筈がない。



「機械じゃないですよ?」


「じゃあちょっと貸してくれないか?」

   


 教師らしき男は微笑みながら一流の右手を掴む手と反対の手を差し出す。

 普通じゃないと一流が確信を持ったときには既に遅かった。

 


「マーキナー確認……。ネウロパストゥムと判定、破壊する」


「ひっ!」



 一流を掴む右手の力が先程とは比べ物にならないくらい強くなり、一流の身体がふわりと宙へ持ち上げられる。

 教師の顔からは表情が消え、おかしな首の角度でルシィルを覗き込んでいる。

 手を掴まれている一流はなんとかユイの動きを思い出し、残る左手に指環をはめて交差させようと上げる。



「立て、ルシィル!」




 ◇


 


 その頃、ユイは校舎内の捜索から体育館へと目標を変えていた。

 一時限目の始業のベルは既に鳴り終わり、体育館を始めとする各教室では授業が始まっているためユイも走り回ることが出来なくなっていた。



「一流君、どこに……」



 ユイはネウロパストゥムから支給されたブレザーのネクタイを引きちぎり、シャツのボタンを胸元まで力任せに外す。

 露わになった胸元を隠そうともせず中履きを脱いで袖を捲くる。

 クラスメイトが見たら驚くだろうその格好でユイは体育館へ全速力で向かった。



「あれは……?」



 体育館と教室のある校舎は渡り廊下で繋がり、運動場と正門が一望できる。

 ユイは渡り廊下を移動中、正門から進入してくる黒いワゴン車を見つける。教師の車にしては運転が荒く、見ていると植木を薙ぎ倒しながら運動場へ入り、大きく旋回すると校舎の前に停まった。


 中から現れたのは、スーツケースを持った三人組の男。

 格好は着崩したスーツ姿で中には煙草を口にくわえている者もいる。

 生徒たちはまだ気づいていないらしく、男たちはスーツケースを持ったまま校舎の中へと入っていった。



「おい、そこの嬢ちゃん……。悪いことは言わねぇ、早く逃げな」



 ユイが声のする方を見ると、体育館の側面の壁、柱に隠れるように男が血を流してもたれかかっていた。

 ユイが駆け寄って声をかけると追い払うような仕草をする。

 男は脇腹に大きなケガをしているようで、溢れる血を止めようと右手で押さえている。



「何があったのですか?」


「詳しいことは聞くな、とりあえず逃げろ……」



 男は傍らにあったスーツケースを手繰り寄せるとそれを開け、中から指輪を取り出し、左手にはめる。

 


「ここで聞いたこと、見たことを他人に言うんじゃねぇぞ。友人にも教師にも……」


「その傷で動いてはいけません!」



 ユイの静止を振り切り、男は左手を強く握りしめる。



「最後の仕事だ……。出てこいスティール」



 スーツケースから召喚されるかのように現れたのは甲冑の姿をしたマーキナーだった。

 男が指先を動かすとスティールはまるで意思を持っているかのように男を抱きかかえる。

 そして体育館の壁を蹴って屋上へと出た。



「まだ死んでいなかったか。だが次はない」



 ユイも追いかけるように壁をよじ登り屋上を覗く。

 そこにはユイが転入したときに面接をした校長が、男とスティールの前に立ちはだかっていた。

 校長に表情はなく、口調は棒読み、動きはアライザそのもので、校長が人間ではなかったことがわかる。



「学校にまで……」



 気づくとあちこちから悲鳴が聞こえ、生徒たちが運動場へと逃げ出しているのが見えた。どうやら先程入っていった男たちが校内のアライザ達と戦闘を始めたことにより、潜んでいたアライザ達も正体を現したのだ。

 既に学校内はパニックに陥っている。



「やれやれ、貴様たちさえ来なければ皆平和な生活を送れていたというのに。どちらが悪なのか、よぉく考えてみるといい」


「うるせぇ。テメェらが人を支配しようとしなければこんなことにはならなかったんだ」


「いぃや。普通の人間はそれにさえ気付かない。気付かれなければ罪ではない。そもそも何故貴様らは我々を破壊する?」


「じゃあ何故テメェらは俺の家族を殺したァァ!」


「ふむ、例えるなら人がゴキブリを嫌悪する感覚だろうか?」



 男は歯を食いしばり、スティールから降りると、左手を巧みに操り、校長へスティールを突進させる。

 しかし左手だけではマーキナーの本来の性能を発揮することはできず、一度体勢を崩されると復帰に時間がかかる。

 足払いで簡単に転んだスティールは容赦なく攻撃を受け続け、スティールより先に操作する男の体力が尽きた。



「片手でここまでやる技術は褒めてあげましょう。流石は日本のネウロパストゥム。小手先だけは上手い」


「畜…生……」



 ユイは携帯電話を閉じると、屋上へと躍り出る。

 男はユイの姿を視界に捉えると顔を歪める。その一方で、校長はぐにゃりと変形したかのように口の端を上げて微笑んでいる。



「貴方は転入生の霙さんじゃありませんか。残念ですねぇ。ここに転入してきたばかりに、死ぬことになるなんて……」



 ユイは校長を睨みつけると、全力で走り、男に駆け寄ると倒れている男の指輪を引き剥がすように奪った。 

 そして両手に指輪をはめると、怒りの混ざる声を発する。



「立て! スティールッ!!」



 騎士の装いをするスティールはユイの呼応に反応し、立ち上がり腰に差した剣を抜く。細身ながらもしなやかな剣が鞘から現れる。

 その光景に、男は苦笑いした。



「あんた、こっち側だったのか……。そういや聞いたことあるな……<本物>が来てるって……」


「助けを呼びました。直にネウロパストゥムの後方支援団がやってきますのでそれまで安静にしておいてください」



 ユイは右手を引き、捻りながら前に突き出す。

 そして右手を突き出したまま、左手を顔を覆うように持ってくる。



「そのマーキナーは……」


「大丈夫です。旧式マーキナー、スティール。日本の自動車メーカー木田が二十年程前に開発した騎士型ナイトモデル。武器である高周波両刃剣(エクスカリバー)、甲冑を模した外殻はアライザの攻撃を受けてもものともしない……名作ですね」 


「おうよ……」



 スティールはユイの構えに応じるように剣を構えると、校長へと斬り掛かる。

 スティールの剣は、目で捉えられない速さで振動しそれにより起きる熱と摩擦によりどんなに硬い物質でも紙のように切り裂くことができる。



「その剣は危険ですねぇ。でも、当たらなければ一緒ですよ」



 校長は紙一重で躱すと、スティールの腹部を強く蹴り飛ばす。

 ウル鋼の装甲が音をたてて凹み、スティールの身体はくの字に曲がって吹き飛んだ。

 アライザの身体を構成する金属はウル鋼には刃がたたない筈でありしかもスティールはその甲冑を模した分厚い装甲が特徴でもあった。



「ウル鋼……我々からすればそれさえも古い」


「くっ! やはり……」



 人工知能は様々なものに触れることにより記憶し、進化するという特徴がある。

 身体的劣化は防げないもののそれは新しく補強すればどうにでもなるものであり、アライザ達にとって恐れるに足らない。

 アライザ達が最も重要とするものは<経験>であり、長く生きれば生きるほど蓄え、戦えば戦うほど学習する。

 その学習能力と人間では太刀打ちできない正確な演算と記憶能力でパターンを分析し、何億通りもの予測を打ち出す。

 それが機械である。



「人間は歳を重ねるほど弱くなる。我々は年を経るごとに強くなる」


「どうでしょうか?」



 だがしかし、アライザ達はその経験を共有することができない。

 何故ならそれらの情報を仲介する者がいないことと、共有することが出来ないからこそ貪欲になれるからである。

 

 校長はスティールの半分ほどの体躯にも関わらず、スティールの懐に潜り込み、腰を両手で掴むとスティールを軽々と持ち上げてしまった。



「経験イコール力だ。私にもなると感情すらも手に入れられる」


「ですが、機械である貴方達に出来ないことが一つある」



 ユイは顔の前にある左手を大きく広げる。

 するとスティールの腹部が開き、そこから数え切れない程の鎖が伸びて校長へと巻き付く。



「それは、<想像>です。私達人間は自らの手で人間を創り出すという夢のような事を実現するための研究を重ね、人工知能を生み出した。その途方もない研究のきっかけは想像。経験でしか動くことのできない機械あなたたちとの決定的な差です」


 

 校長は鎖を引きちぎろうとするが、何重にも巻き付いた鎖は動けば動くほど校長を締め付けていく。

 この鎖もウル鋼で造られた物だが、鎖には打撃が通らない。



「ぬおおおお!」


「この鎖もウル鋼で出来ています。凹ませる程度のパワーでは引きちぎることなど不可能です」



 ユイは突き出した右手を広げ、両手を広げた状態から合掌する。



「スティール! 『選定の儀』!」



 スティールは剣を逆手に持つと、足元で鎖に縛られている校長の真上から背中へ突き刺した。

 ざんっ。

 切れない物は無いと言われるスティールの剣は滑るように校長を両断し中身である部品もろとも切断していく。


 脳天まで二つに引き裂かれた校長はがくがくと断末魔のように震えると、停止した。

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