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Two persons

 翌朝、二人は荷物をまとめ、家を出た。

 ユイはこのアパートに一ヶ月ほど滞在していたと言うが、その割に荷物はスクールバッグのようなサイズの鞄一つにまとまっていた。ルシィルを持つ一流の方が多く見えるほどである。



「一流君、制服のままですが学校はどうしているのですか?」



 ユイの言葉に一流は言葉を詰まらせる。

 昨日は家を飛び出し色々あってユイと出会うことができ、一晩過ごす場所が見つかったものの、もしも一流一人なら警察に補導されて家に送還されるのが筋だっただろう。



「何も考えてなかったや……」


「そうなんですね。ちなみに私はこれでも高校生なんですよ」


「え!?」



 一流はユイを見上げる。

 雰囲気は大人びていて、身長も一流より高い。

 出会ってから見た目については色々考えたが、年齢について考えたことがなかった事に気づく。

 まだよくわかっていないネウロパストゥムの機械使いということもあって、てっきり社会人だと思いこんでいた一流だった。



「お、おお驚かれるような見た目してます!? 私はこう見えても十八歳なのです。世間では学生でもおかしくない歳ですからね!」


「おおあぁ……」



 一流はユイのイメージを修正し、女子高生のイメージも改めた。

 ただ、高校に通うとなると、住所や保護者諸々の処置はどうなるのか一流は疑問に思った。



「保護者とかはどうなってるの?」


「良いところを突きますね。勿論抜かりなく、ネウロパストゥムの方が色々やってくれています。私の生活はネウロパストゥムのサポートありきですから」


 

 何故かそこでユイは胸を張った。

 そして一流を見て、口の端を上げる。



「私が今日本にいるのは一流君を無事ネウロパストゥムの拠点まで護衛するという任務についているからです。重要な仕事ですのでネウロパストゥムが全面バックアップをしてくださり、それはもう今までにない快適な生活が出来ました」



 頬に手を当てうっとりしているユイを見て一流は苦笑いすると、時計を見る。

 七時五十分。

 一流の通う中学校だと既に遅刻だ。



「高校って何時までに行かなきゃいけないの? もう結構な時間だけど」


「え?」



 ユイは腕時計で時間を確認すると驚いて飛び上がりそうだった。



「不味いです! 一時限の開始まであと十分! 走らないと間に合いません! 一流君、行きますよ!」


「え? 何で僕まで? え、えー―――!」



 一流はユイに引きずられるように高校へと連れて行かれることになった。





 始業のベルと共にユイはなんとか三年の教室に滑り込む。

 教師は既に教卓でホームルームを始めており、そこへ飛び込んだユイは教師を始めとするクラスメイト達の視線を集めることになった。



「すみません、先生! 霙ユイ、ただいま参りました!」



 息を切らせたユイは物凄い剣幕で声を発する。

 そして席へと向かうユイは忘れているのか、一流を廊下に置き去りにしたままだった。

 一流は連れてこられたもののどうするか悩んだ末、とりあえず男子トイレに隠れておくことに決め、バレないようにこっそり個室の中へ隠れる。



「えー、霙さん。遅刻の理由だけ教えてください」



 担任の教師は男性。

 ユイが転校して一ヶ月、更にモデル顔負けの見た目ということもあってか妙に優しい。鼻の下を伸ばしていると言っても過言ではないくらい贔屓に見てくれている。

 


「申し訳ありません。弟が熱を出しまして病院まで連れて行っていたのです」



 その言葉にクラスから感嘆の声が上がる。

 鼻の下を伸ばしているのは教師だけではなく男子達も同じだったのである。



「わかりました、仕方ありませんね」



 担任はそう言うと、何事もなかったかのようにホームルームを続ける。

 ユイは息を整えながら自分の席に座ると、鞄からペンケースを取り出し机の上に置き、机の中から一時限目で使う教科書とノートを取り出した。



「霙さん、汗でシャツが透けて下着が見えてるよ」


「あ、すみません! 気分を悪くさせてしまって……。後で着替えますので!」



 今は六月、数キロの距離をスカート、革靴で走ってきて汗をかかない筈がなく、日本の気候にも慣れていないユイのシャツは透けるほどに汗を吸っていた。

 男子からの目を気にした隣の席の女子が気にかけてくれたのだが、ユイはその意図に気づかず平謝りする。

 ユイの背中に夢中で話をしている教師なんて眼中に入っていない男子に女子達が牙を剥いて威嚇するという攻防が繰り広げられる。



「それでは、一時限目に遅れないようにな」



 ホームルーム終了のベルと同時に男子がユイの机周りに押し寄せ、着替えに行かせるのを引き止めようと話を振る。

 それに気付く女子達がトイレに誘うが、ユイはどれに反応していいかわからず困惑していた。



「ねーね、弟さんもロシア人? どこに住んでるの!?」


「いえ、あー……あっ!!」



 自分のことに精一杯で一流の事を忘れていたユイはクラスメイトの輪を押し退け、教室を飛び出して廊下を見渡す。

 一流の姿はどこにもない。



「あ、あああぁ……どうしましょう……」



 ユイは泣きそうになりながらも女子トイレを見てみたり周囲の教室を調べてみる。

 しかし、ユイの姿を見た途端に男子からは歓声が上がり、女子からも有名人を見るかのような羨望な眼差しを贈られる。

 それどころではないユイは生徒たちの言葉を振り切り学校内を走り回った。



 一方、男子トイレの個室内でホームルーム終了のベルを聞いた一流はこれからどうするか考えた。

 勿論トイレを利用する生徒はいて、当然個室にもやってくる。そうなってしまうと次の始業まで個室からは出られないだろう。


 一流は考えた末に窓から脱出を試みた。

 鍵を開け、外を見ると教室同士を繋ぐベランダがあった。

 三年の教室があるのは三階で、ベランダから出るにはどこかの教室を通るしかない。

 ルシィルを操れるユイならば一流の持つルシィルを使って三階からでも脱出出来るだろうが一流はマーキナーを扱えない。



「あの手の動きを真似すればもしかしたら……」



 一流はアパートからルシィルに乗って飛び降りた時のユイの手の動きを真似すれば上手く飛び降りれるのではないかと考えた。

 そしてベランダに出た一流は誰もいない事を確認してボストンバッグを開く。

 中に収められたルシィルを操る指輪を両手の指にはめると、ユイの動きを真似しようと右手を上げ左手を大きく引こうとする。

 

 だが、右手を上げた時、その腕が誰かに掴まれた。

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