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parts part4

「ちょ、ちょっと! ユイさん!?」


「恥ずかしいのは私も同じです。ですがどうか」



 ユイは脱衣所に一流を放り込み、自らも入って内側から鍵を掛ける。

 これで、ユイをどうにかしなければ脱衣所から出ることは出来なくなった。

 そしてユイは勢いに任せて無理矢理一流の服を脱がす。

 脱がしたユイはシャツを握ったまま息を飲み込む。

 露わになった一流の胴体には、一流自身が話していた家族からのイジメの跡が痛々しく残っていた。



「……」


「ホラね。皆固まるんだ」



 少し得意げな顔をする一流を無視し、おもむろにユイはシャツを脱ぐ。

 白いキャミソールの隙間から覗く日焼けなど縁のないような白い肌には、一流とは比べ物にならないほど深い傷跡が残っていた。



「その傷は……」


「二年前、中国北京で起こったネウロパストゥムとアライザの戦闘によって出来た、アライザの持つ等身大の刃を受けた時の傷です。町一個を戦場にし、多数の犠牲者を出した大規模な戦いでした」



 そして恥じらいもなくユイはキャミソールを脱ぐ。

 弾むように現れた乳房よりも、一流は腕と胴体の接合部である肩に目を奪われた。

 ユイの両肩には手術痕が強く残り、縫合した痕がそのまま傷跡のようになっている。白くくすみのない肌だからこそその傷はより深く、濃く見える。



「両肩のものはマーキナーを操るための筋力を手に入れるために行った手術の痕です。最新の外科技術でも消すことが不可能だそうです」



 ユイの身体改造に絶句する一流を置いて、畳み掛けるようにユイは続ける。



「物心のついた時から私は人の死の場面に幾度となく立ち会ってきました。守られ、助けられず、力及ばず。ですが戦場で動きを止めたものは例外なく死ぬのです。たまたまその時死ななくても次の戦場では死にます」



 ユイは戦闘時のような張り詰めた空気の中、語る。 



「でも……」


「遺志を継ぐという言葉の重みは決して軽くはなく、人が背負うには重すぎる。仇討ちはそれから逃れる術として最適。遺志を継ぐというのは強靭な精神力と目的を果たすだけの力が必要なのですよ」


 

 ユイは部屋着にしては窮屈なジーンズのホックを外すと、チャックを下ろす。

 ジーンズの下から現れた白いショーツに一流は目が飛び出そうになるが、なんとか踏み留まった。

 そして恥じらうどころか次はその白いショーツを下げた。



「人の身体を捨ててもアライザと渡り合うにはマーキナーが必須。仲間の死を乗り越えアライザを壊し尽すことが私達の使命です」


「でも、それでも、隣の部屋の男の人が亡くなった時の反応は機械みたいだったよ」



 ユイはそんな返事が来るとは思わず衝撃を受け、その場に硬直する。

 一流の言葉はユイにとって常識を否定されるような重く力のある言葉だった。



「機械……です…か。すみません、私はまた……」



 俯いたまま顔を上げないユイ。

 一流は先程の自分の言葉がユイを深く傷つけた事に気づき、近寄る。

 


「ごめん……なさい」


「いえ……。前にも一度言われたことがあるのです。『悲しむべき時にお前は淡白すぎる』と」



 死を経験しすぎたからなのか、命の危機に常に遭遇しているかなのか、そう言われた理由がなんとなく予想できたが、とにかく一流は彼女のトラウマを突いたことだけはわかった。



「他のネウロパストゥムの人達はどこにいるの?」


「世界中に……。私達も隠れていますので分からないのが普通ですが、スーツケースのようなものを持って歩いている人は大体マーキナーを持ったネウロパストゥムですよ」



 服を脱ぎきったユイは一流が服を脱ぐのを待つと、風呂場へと入る。

 予め用意していたのか、湯船にはお湯が張られており、湯気が視界を遮る。

 一流は湯気に視界を奪われ一息つくが、背中に柔らかい弾力のあるものが触れる。

 触れたと思ったのも束の間、細く白い腕が一流の首に回り、ぎゅっと抱き締められる。弾力は増し、一流の背中で反発している。



「すみません、落ち込んでしまって……。それより一流君、裸の付き合いという言葉を知っていますか?」



 タオルを巻いていないユイに抱き締められている一流は抑えきれないナニカをタオルで必死に隠す。

 抱きしめるユイは弟を可愛がるかのように一流の頭を撫でる。



「背中を流しますね」


「えぇ!? いや、大丈夫です!」


「いえいえ、お構いなく」



 問答無用にボディタオルに石鹸を取り、一流の身体を洗うユイ。

 一流は抵抗虚しくユイに身体を洗われることとなった。



「そう言えば一流君、言うのを忘れてました。私が何故あなたと共にいるか。それは他の誰でもないあなたのお父様である霙正志様からの依頼だからです」



 その言葉に一流の動きが止まる。

 父にとって一流は子供の中で最も出来が悪く、関心すら持ちたくない存在のはずだった。



「マーキナーの製作において最も才能がある、と正志様は仰っていました」


「父さんが? 他には何か言ってた!?」



 一流は父親がそんなことを考えていたとは思わず、他にはないかと聞き返す。

 一流と父親との会話は数多くはなかったが、家族の中で唯一一流に危害を加えなかった存在だった。

 しかし兄弟からの虐めを止めない事に対して一流は父親も兄弟と同じように自分を出来損ないだと思っているのだと考えていた。

 だが、一流がからくり人形を幼い頃に見様見真似で組み立てた時は褒めてくれた記憶がある。



「他には……そうですね、あの子は我が家にいるべき存在ではないと。勿論いい意味だと思いますよ」



 ユイは正志の言葉を、一流の才能は財閥の一員として輝くものではないのだと解釈した。

 マーキナー製造は表では公表されておらず、代々跡継ぎが担う密かな活動に過ぎなかった。マーキナーの存在自体他の兄弟たちも知らない筈である。



「父さんが、僕のことを……」



 目を輝かせる一流をユイは後ろからそっと抱きしめる。

 ユイの身体が直に密着し、一流は固まる。

 鼓動が大きく脈打ちながらも一流はどこか安心していた。

 それは母の側にいる時のようだった。



「ふふ、ちなみに一流君が持っていたルシィルは霙機械のフラッグシップ機。その正式名称を『霙二号機改』と言います。その扱いやすさと身軽さ故にネウロパストゥムの間では霙機械のマーキナーは代々練習機として愛用され、霙機械のマーキナーには統一して『ルシィル』との愛称がついているのです」


「すごいや……知らなかった……」


「二号機を造られたのは正志様が十五歳の時、そして十年ほど前に改が造られたのだとか。あ、初代一号機は霙機械の設立者である英治様がお造りになったのですよ」



 ユイは一流の肩に頭を預けながら鼻歌を歌う。

 その曲は一流にも馴染みのある曲だった。



「その曲……」


「えぇ。この曲は貴方もよく知る曲の筈です。わかりますか?」

 


 一流はいつか聞いたことのあるその曲を思い出そうとするが、もやがかかったように思い出せなかった。



「知ってる筈なんだけど……思い出せないや」


「そう……ですか。そろそろ上がりますか。明日にはここを発たなければいけませんからね」


「うん」



 

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