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似て非なるもの、別ベクトル。
憧れを形に自分なりのアレンジと理想を込めてこの作品を書きました。
抗っているつもりが流されている。
そんな運命に翻弄されてみては如何でしょうか?
歌姫ロールスウェイト。
彼女の歌声は世界に響き、国境を超えて人々を癒す。
戦争が起これば戦場に現れ、災害が起きれば被災地で歌を歌う。
常に世界中を飛び回っているその姿に人々は魅了されていた。
◇
霙一流、十三歳、中学一年生。
手にはボストンバッグ、所持金二千五百六十一円。
平日の水曜日にも関わらず、見に余るボストンバッグを担ぎ、学ラン姿で町を歩く様子は道行く人に違和感を与えた。
「そこの僕ゥ、平日の昼間から町ん中歩きまわりよるけど、ガッコはどしたんやぁ?」
怪しげな三人組の男達に話しかけられ、一流は大切なものを隠すようにボストンバッグを抱き締める。
だがその行動が裏目に出た。
「ちょいとそのバッグの中身見せてくれへんか?」
「嫌です……」
一流が断ると確信を得たのか男達はニヤリと笑みを浮かべ、無理矢理ボストンバッグを奪い取ろうと掴みかかる。
その光景を横目で見ながらも、人々は気づかないふりをして通りすぎていく。
面倒ごとには関わらないという社会の暗黙の了解だった。
「やめてくださいッ」
「それは無理だなァ、ぎゃははは!」
男たちは一流から剥ぎ取るように奪い取ったところまでは良かったが、そのバッグの重さに驚き、地面に落とした。
鈍い音を立てて地面に落ちたボストンバッグの重さはアスファルトの地面にヒビが入る程だった。
三人がかりでやっと持ち上がるそのバッグへの好奇心は止まらず、男達はジッパーを開く。
「うがっ!」
ジッパーを開けた男はボストンバッグの中から飛び出した棒状の何かに顎を強打し、大きくよろめいて仰向けに倒れる。
慌てて駆け寄る他の二人はその棒状の物を見て、街中にも関わらずすっとんきょうな声をあげた。
「う、ううう腕ェ!?」
ボストンバッグから飛び出た物、それは金属で作られた何かの腕で、それが拳を突きだすかのように飛び出ていたのだ。
まるで、ジッパーを無理矢理開けた男を殴り飛ばそうとするように。
「返してください、大事なものなんで……」
一流は腰を抜かす男二人を置いて、飛び出た腕をバッグに押し込み、肩に担ぐと、よいしょ、と肩に担ぎ歩き出す。
行き交う人達が一部始終を見ていないのが幸運だった。
「待て……」
先ほど倒れた男は、ぬるりと海老反りで立ち上がると、白眼を向いたまま首を元に戻そうと首をぐるぐると回した。
その動きに一流はその場に凍りつく。
他の二人も腰を抜かした体勢のまま表情のない顔で首だけがこちらを向いている。
様子が先程とはまるで違っていた。
「その中身を破壊する」
不良達はさっきまでの口調ではなく、棒読み且つ機械音のような声だった。
周りではその不自然さに気づき始めた人々が不良の首がおかしな方向を向いていることを発見し、女性の一人が悲鳴をあげる。
不良たちが悲鳴に気を取られている隙にバッグに近寄った一流だったが、ジッパーを開け終える前に不良の一人が恐るべき勢いで一流に詰め寄った。
不良の一人は一流の学ランの襟を掴むと、強く引き寄せると片手で放り投げる。
咄嗟に頭を丸めコンクリートの地面を転がった一流は、学ランの厚い生地に守られ、擦り傷で済んだが、バッグは不良の元へ落下する。
「破壊する」
しかし、ボストンバッグに向かって足を振り上げた不良の前に黄色い影が滑り込んだ。
「立て、ルシィル!」
黄色い影の正体は日本人ではあり得ない滑らかで穏やかな色合いの金髪をなびかせるブレザー姿の女性。
背が高く、一流より頭ひとつ高い。
そしてなにより絵に書いたように美しい女性だった。
その女性が腕を交差させ、振り上げると、ボストンバッグが大きく開いて中から人型の何かが飛び出した。
ボストンバッグから現れた黒い二足歩行の獣のような物の正体は、ずっと持ち歩いていた一流でさえ詳しくは知らなかった。
「ルシィル!『シェイクスピア』」
女性が右腕を前に突きだし、左手で十字を切るとルシィルの右腕下部が開き、棒状の物が落ちる。
ルシィルがそれを掴むと棒状だった物が槍のように伸びた。
投擲用に近い矛のついた短い槍を持ったルシィルへ、女性は左手も、右手と同じように突きだす。
「ルシィル、『破壊のテンペスト』」
ルシィルは姿勢を低くし一歩で間合いを詰め、女性が左手を引くと、槍を不良の胸に突き刺し、両手に持ち変えて不良の身体を上から下へ真っ二つに引き裂いた。
ぱあっ!
引き裂かれた不良の身体から飛び出たのは血ではなく、オイルのような透明な液体と金属部品の数々だった。
不良が人間ではなく機会だったことについていけない一流は、腰が抜け、座ったまま立ち上がることさえ出来なかった。
「……行動不能。停止する」
活動を停止し、その場で時が止まったように動かなくなった不良の一人を捨て置き、ルシィルと呼ばれる人間のような獣のような物を操る女性は、二人、三人目へと攻撃を仕掛ける。
だが、ルシィルの強さを見た不良達は挟む形で攻撃を仕掛けてくる。
右手をくるりと捻り左手でその右手を掴む。
するとルシィルは槍を更に伸ばして等身大のサイズまで伸ばす。
迫りくる二人の不良達の服を掴んだルシィルはそのまま不良の身体を槍で貫き、もう一人を逆の柄の部分で貫く。
ルシィルの槍、『シェイクスピア』は矛のない部分でも貫ける程の硬度を誇る。
三人目の不良をルシィルの槍が貫いた時、誰が呼んだのか遠くからサイレンが聞こえ、警察あるいは救急車がやってきていることを知らせる。
「一流君、こっちです!」
何故か一流の名前を知っている女性は、左手を引き、ルシィルを引き寄せると、腕に乗った。そして右手を上に上げるとルシィルは一流の手を掴み、拳を握ると、空高く舞い上がった。
「無事でしたか? あ、初めまして、私の名前はユイと申します。ロシアから来た機械使いです」
「機械使い……?」
一流が初めて聞く単語に首を傾げる。するとユイは驚いた表情を見せた。
「君の持っていたルシィルはマーキナーと呼ばれる戦闘用機械で、それを持っているのは機械使いだけで、だから君が持っているということは君は機械使いということで……でもあれ? ……えーとえーと……」
ユイはルシィルを右手で操りながら左手を使って説明するが、話がまとまらず、混乱していた。
一流も全く話についていけず何を言っているのかほとんどわからなかったが、説明に出てきた単語を繋ぎ合わせて考えてみる。
「つまり僕のバッグに入っていたのは戦うための機械で、それを持っているのはこの機械を使うことのできる人だけ……?」
「そう、その通りです、一流君。このルシィルはマーキナーの中でも由緒ある物なのですよ」
そこまで説明を終えると、ユイは少しだけ眉間にしわを寄せ、険しい顔つきになる。
「何故機械使いではない君がマーキナーを持っていたのですか?」
ユイの言葉を聞いて、一流の記憶は数時間前へ遡った。
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