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「団長、おはようございます」

「「「おはようございます」」」


団長が食堂に姿を現すと、入口付近に座っていた団員たちが口を揃えて挨拶をした。


「はよ~」


いつもよりも一段と低い声で挨拶を返し、団長はいつもお決まりの自分の席にドカリと腰をおろした。そのあとからはテオさんがやってきて団長の隣に座る。


「俺の飯は?」

「あれ、アリスちゃんがてっきり用意していると思ったけど」


すると、団長は無言で食堂をぐるりと見渡して、奥のテーブルで数人の団員に囲まれていた私を発見する。


「おい、アリス。お前そんなとこで何してんだ。俺の飯は」

「あ、はい。今やります」


スクっと立ち上がって私は姿勢を正した。そして料理場へと走り出そうとしたのだが、


「待ってアリスちゃん。返事、あとできかせて」


ウェル君にそう言われて、私はこくんと頷いた。


そして急いで料理場へと向かう。


それからすっかり冷めてしまったトマトスープや他の料理を温めなおして、団長が座るテーブルへと運んだ。


「どうぞ」

「お前、俺の朝食温めなおしておくって言ったよな。やってねぇじゃねぇか」


そう言って、団長はスプーンを手に取り口に運ぶ。と、何やら怪訝な顔をして…。


「ん?ダシ変えたのか」

「あ、すみません。いつものが終わっちゃって代わりになりそうなのを使いました」

「どうりで味が違う」

「まずいですか?」

「いや、別に食える」


文句を言いながらも団長はあっという間にスープを飲みほし、他の料理も完食した。開いたお皿をさげようと手を伸ばすと、


「アリス」


空になったお皿を見つめながら、ふと団長が私の名前を呼んだ。


「あいつらと何話してたんだ」


団長の視線が数名のグループへと向けられる。そこにはじゃがいも君やウェル君たちの姿があった。突然、団長に視線を向けられた彼らの肩がビクンとはねるのがわかった。


「別に何でもいいじゃないですか」


告白されていました…なんて言えるわけない。それに私が彼らと何を話していようと団長にはどうでもいいことじゃないか。団長には関係のないことなのだから。


するとそんな私の言葉にカチンときたのか、団長の大きな手が私の頬をつかむ。


「ほー。どの口がそう言ってんだ、ああ?」

「い…いひゃいじゃなひでふかー!」


ちなみに、痛いじゃないですか!と言っている。頬をつままれて上手く喋ることができない。


「俺の質問にはきちんと答えろ」

「わひゃりまひた。こらえまひゅよー」(わかりました、答えますよ)

「とぼけないで答えるんだぞ」

「わひゃりまひたってばー」(分かりましたってば)

「絶対、だぞ」

「はひ!」(はい!)


すると、団長の手がゆっくりと離れていく。私は挟まれていた頬にそっと自分の手をあてる。頬がもげるかと思った。本気でつまんできたよこの人。朝から本当に容赦がない。


その痛さに少し涙を浮かべる私を見ながら団長はため息をついた。そして、長い脚を組み腕を組む。


「ちゃんと答えろよ」

「……はい」


頬をさすりながら私は頷いた。


「お前、本当にあのときのこと覚えてないのか」


……?


あれ、質問変わってない?

たしかさっきは私がじゃがいも君やウェル君と何を話していたかを聞いていたはず。それに対して、ちゃんと答えろよって言った気がしたんだけど…。


「ちゃんと答えるんだよな」


団長の視線が私をとらえて離さない。


あのときのこと、とは、やはりあのときのことなのだろう。

だとしたら団長は何を考えているんだ!

隣にテオさんもいるのになんでその話するんだよー。


「あ、洗い物しなきゃ~」


私は思い出したように呟いてその場をあとにしようとしたのだが、


「待て」


と、団長の大きな手が私の腕をつかんで離さない。


「逃げるな。ちゃんと聞かせろ。覚えてるんだよな、あのときのこと」

「…………」


私と団長のやりとりに、その場にいた全員の視線が注がれているのがわかった。


団長…こんなところであの話はやめてください。


しかし、どうやら団長は私が本当のことを話すまではこの手を離してはくれないようで、掴まれた腕にグッと力がこめられる。


でもきっと団長は気付いている。

さっきはとぼけてみせたけれど、鋭い団長のことだ。私がウソをついているって見抜いている。だから、しつこく聞いてくるんだ。


でも、認めるわけにはいかない。


「だから、何のことですかね~」

「とぼけるなよ」

「とぼける?はて、何でしょうか」

「…………」


しらばっくれる私に団長は私を見つめたまま黙り込み動かなくなってしまった。その静かなオーラがとても不気味……。


「アリス」


地を這うような低い声で団長が私の名前を呼ぶ。


「そうか分かった。覚えてないなら、思い出させてやろうか」

「は…え?」


そう言って、団長は掴んでいた私の腕をくいと自分の方へ引っ張った。その勢いで私は団長の方へと倒れ込んでしまいそうになる。が、団長はもう片方の手を私の腰に回して倒れるのを支えてくれた…………次の瞬間、唇に何かが当たる。


「…………」


一瞬でシンと静まり返る空間。


最初、何が起こったのか理解できなかった。


けれど、私はこの感覚を知っている。

これと同じ状況が前にもあった。


あの日の朝、団長を起こしに行ってキスをされたときと同じだ。


「…………」


それが長かったのか短かったのかは分からない。

団長の唇が離れていったと同時に掴まれていた腕を離される。


団長の視線はするどく私はとらえたまま、私は茫然と立ち尽くしていた。


「こういうこと、前にもあっただろ」


団長に言われて、私はゆっくりと頷いた。


「思い出したか」

「…………はい」


最初から忘れてなどいなかった。


「思い出したならいい。…いつまでぼうっと突っ立ってんだ。食い終った皿片付けろ」

「あ、はい」


私は団長が食べ終えたお皿を重ねて運ぼうとしたのだけれど手がうまく動かなくて、その1枚を床に落としてしまった。もちろんお皿は割れてしまう。


「すみません」


慌てて割れたお皿を集めようとすると、団長の手の方が先にお皿を拾った。


「ったく、お前は本当にドジだな」


呆れたようにそう言いながらも、団長は割れたお皿の欠片を全て拾ってくれた。


「こんなドジでマヌケでとろくて、男にキスされたことも忘れちまうような女に惚れる男がいるとはね」


そう呟いた団長の声が聞こえた。




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