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コンコン。


「…………」


コンコン。


「…………」


コンコン。


「…………」


やっぱりまだ寝ているんだ。


団長室の扉を数回ノックしてその場で立ち尽くす。

はて、これからどうしようか、としばらく考えてしまった。


鍵がかかっていないことは知っている。このまま開けて入ってもいいのかな。いや、勝手に入れば怒るかもしれない。でも、テオさんに団長を起こしてきてほしいと言われたのだから起こさないと戻ることができない。それには、部屋に入らないといけない。でも、勝手に入ると団長が怒るかもしれないし。


うーん。

どうしよう…。


それに、眠っているであろう団長を突然起こして、またあのときのようなことになったらと思うと、部屋に入るのをためらってしまう。


…………。


うっかりあのときのことを思い出してしまい、顔がボッと熱くなる。

いけない、いけない。忘れないと。


顔を思い切りぶんぶん振って、両手で頬をパチンとたたいた。

気を取り直してもう一度、扉を強くノックする。


「…………」


それでもやっぱり返事はなくて。団長様はどうやら深い眠りに落ちているようだ。


「行くか……」


ぼそりと呟いてドアノブに手をかけた。おそるおそる回して、ゆっくりと扉を開く。わずかに開けた隙間から滑り込むようにして中に入ると、ゆっくりと扉をしめた。


「ふぅーーー」


これだけの作業でもやたらと神経をつかう。


部屋の中を見渡した。

薄暗い室内には、閉め切られたカーテンから漏れてくる朝の光が差し込んでいる。

いつも団長が仕事をしているデスクにはたくさんの書類が乱雑に積まれていて、高く積み上げ過ぎたのか崩れた書類が床に散乱していた。それを全て集めて拾うとデスクの上にそっと置いた。


「あれ、これって……」


すると書類だらけのデスクの隅に一つのマグカップを見つけた。


「団長、使ってくれているんだ…」


それは私が団長に渡したプレゼントだった。


テオさんに言われたのだ。

『団長の誕生日がもうすぐだからアリスちゃんも何かプレゼント渡せば?』と。


私はそのとき初めて団長の誕生日を知った。4年もここで働いて団長のそばにいるのに私は団長のプライベートをほとんど知らない。団長もまたあまり話したがらないから。


私はテオさんに言われた通り団長に誕生日プレゼントを渡すことにした。もしかしたら団長が喜んでくれるかもしれない。普段は厳しくてこわい人だけれど、実は優しいところもある人だと私は知っている。

いたらないところが多くて前任のお手伝いさんよりも不出来な私はきっと団長にはたくさん迷惑をかけているだろう。これを機に日頃の感謝の気持ちも込めてプレゼントを渡すのもまたいいと思ったのだ。


プレゼントはすぐにマグカップがいいと思いついた。なぜなら、つい先日、団長が長年愛用していたマグカップを私がうっかり割ってしまったからだ。……それ、プレゼントというより弁償じゃないの?という指摘は無視します。


休みの日に街中を探して素敵なマグカップを見つけることができた。団長はきっと喜んでくれるはず!と、はりきって渡したのだけれど…


『こんなもん使えるか』


と、団長は嫌そうな顔をした。


『お前はバカか。この俺がどうしてこんな花柄のコップを使わないといけないんだ。くれるならもっとマシなコップを渡せ』


ショックだった。

そして深く反省した。


団長の誕生日プレゼントのために探していたマグカップ。いつの間にか自分のセンスで選んでしまい、自分の欲しいものを買ってしまっていた。こういうところが私はおっちょこちょいなんだ。

色とりどりの可愛らしい小さな花が描かれたマグカップ。突き返されはしなかったけれど、きっと箱に入ったまま使われていないんだろうなぁ、と思っていた。


けれど、使ってくれているようだ。

他に使うものがなくて仕方なくなのかもしれないけれど…。


やっぱり団長は実は優しい人だ。こわいけど。


そんなことを思い出しながら、私は、デスクの奥にあるソファに目を向けた。そこには団長が目を閉じて眠っている。


ベッドじゃなくてどうやらソファで眠ってしまったらしい。しかし、そんな大きな体ではソファにおさまりきれるわけもなく、足は飛び出ているし、少しでも動いたら床に落ちてしまいそうだ。だが、団長は器用にソファにおさまって眠っている。


なんだかその光景がおもしろくて少し笑ってしまった。


私は音をたてないようにゆっくりと近づく。

団長の寝息がすぐそこに聞こえた。


「おはようございまーす」


起こすつもりがあるのかないのか小さく囁いた。もちろん団長からの返事はなくて起きる気配はない。


「寝てますかー?」


すると、モゾリと団長が動いたので、私は思わず団長から距離を取る。

動いた拍子で何とかソファに乗っていた団長の足が片方だけゴトンと床に落ちた。


「…………」


それでも団長は起きない。

再び規則正しい寝息が聞こえた。


「団長、起きてください。朝ですよー」


ゆさゆさ、と団長の肩をゆらす。


「起きてください。もうみんな朝ご飯食べていますよー。団長の分なくなっちゃいますよー」


さっきよりも強く団長の肩を揺らす。すると、


「……うぅ」


低い呻き声が聞こえて、団長がまたモゾリと動いた。


「起きましたかー。だんちょー」

「………」


団長の目がパチリと開いて、その瞳に私をうつした。


「おはようございます。団長」


と、朝の挨拶をしたのだが、


「うおわああああああああ」


ものすごく驚かれてしまった。そんな団長の叫び声に思わず私も驚いてしまって、その場にドスンと尻餅をついてしまう。


い…痛い。


「何ですか団長。急に大声出さないでくださいよぉ」


打ったお尻をなでながら抗議すると、団長はソファに座りながら焦ったように言った。


「お前、何でここにいるんだ」

「何でって、団長を起こしに来たんです」

「何でお前が?」

「テオさんに言われたんです」

「テオに?」

「はい。団長がなかなか起きてこないから起こしてこいって」


私はゆっくりと立ち上がると、窓へ向かい、カーテンを勢いよく開けた。わずかに差し込んでいた光が一気に大量に部屋に入り込み、その眩しさに団長が目を細める。


「はい。団長、起きてくださいね」


任務完了。

団長、起きました。



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