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団長視点です。

俺の名前はディック。

はっきりとした年齢は言いたくないがギリギリ20代だ。


ここエリスール領の護衛を任されている第3護衛騎士団の団長となってもうすぐ5年は経つだろうか。


エリスールは国が所有するどの領土よりも治安が悪い。たぶんだから俺がここの団長を任されていると思う。


自分で言うのもアレだが俺はけっこう強い。

18のときに騎士学校を首席で卒業し、国の中心部である王都の護衛騎士団に所属された。3年後には一隊を任される隊長にもなった。このままうまくいけば騎士として順調に出世して、ゆくゆくは全騎士を束ねる総騎士団長になるのも夢じゃなかった。


しかし、まぁ人生にはいろいろある。ここでそのいろいろを語りたくはないが、俺は王都の騎士団に所属しているときにいろいろやらかしてしまった。


24のときに飛ばされるようにして国の外れにあるここエリスールへとやってきた。同期のやつらがいうにはどうやら俺は左遷させられたらしい。だからといって腐ったりはしていない。団長も任されていることだし、今はこのエリスールの護衛に力を注いでいる。


王都は特に目立った争いや事件はなくて平和で安全な街だった。だから護衛の騎士なんていてもいなくてもいいような存在で、騎士としてのキャリアは積めても剣の腕はおそらく向上しない。


だが、今はどうだ。


このエリスールは国の外れの国境付近に位置しているせいかあらゆる危険が多く、市民は騎士に助けを求めている。騎士が必要とされているこの環境。俺はこの街が嫌いじゃない。


俺が束ねている第3護衛騎士団のやつらはなかなかの曲者揃いで、剣の腕もなかなか優れている。他のどの領よりも危険が多いこの街では騎士として剣をふるうことも多いから当たり前だ。

訓練にもみな積極的で一剣交えるのがすごく楽しい。だから俺は王都にいる頃よりも騎士としての自分を満喫している。俺はこの第3護衛騎士団のやつらがなかなか好きだ。


……ただ一人を除いては、だが。


いや、そいつのことを嫌いというわけじゃない。そいつだけじゃなくて俺はただ若い女が苦手なんだ。特にあいつみたいに小さくて弱そうで守ってあげたくなるような可愛い年下の女は特に。


だいたいテオはどうしてあんな女をお手伝いで雇ったんだ。しかも団長である俺の許可もなしに。


前のお手伝いはよかった。60を過ぎたばあさんでみんなからまるで母親のように慕われていたし、女が苦手な俺も接しやすかった。けど、持病の腰痛がひどくなってしまい辞めてしまった。


新しいお手伝いを募集すればたくさんの女から応募がきた。が、俺が全て断った。理由はどいつも「若い」からだ。


若い女は俺が緊張してしまう。緊張して仕事に支障が出てしまう。だから断った。俺は前と同じくらいの年齢のお手伝いがいい。けど、なかなかその年代の応募がなかった。


なかなかお手伝いが見つからなくて詰所での生活が不便になり、団員たちがイライラしているのは分かっていた。普段の激務に加えて、食事・洗濯・掃除を当番制でこなしていたからだ。それを見兼ねた副団長のテオが、俺が遠征で領を離れているすきに勝手にお手伝いを決めてしまった。


それがアリスだった。


第一印象は「クソ可愛い子」だった。

俺がもっとも苦手な部類に入る女だ。


だが、その印象は少しずつ崩れていった。


アリスはとにかく仕事が遅い。覚えは悪いし、ミスはするし、料理はマズイし。最初こそ苦手部類の女にどう接してよいものか迷っていたが、さすがの俺もだんだんとアリスの仕事のできなさにイライラしてきた。気が付けばとうとう自分から声をかけてあいつの行動を指摘していた。


怒っているつもりはないのだが、つい大きな声が出てしまう。あいつの行動一つ一つが気になって、ミスを見つけるとそれをつい指摘してしまうのだ。そんな日々が続いて、いつの間にか俺はアリスへの苦手意識がなくなっていた。


俺もいつも怒っているわけではない。普通に会話もする。会話の途中であいつがあまりにもとぼけたことを言えばそれは怒るけど。でも、こんなふうに女と接するのは初めてだった。


昔から女は苦手だ。その理由は自分でもよく分からないが、女を前にすると緊張してしまう。でも、慣れてしまえばもしかしたら話せるのか?アリスと普通に接することができるようになったように。


それか、あいつだったからなのだろうか。アリスだから俺は普通に接することができたのか…。


アリスは俺が初めてまともに会話をすることができた女だった。


あいつといるとなんだか楽しい自分がいる。あいつの行動一つ一つがおかしい。完璧主義な自分からみるアリスはどこか抜けていて、あぶなっかしいやつで、放っておけない。


弱そうで頼りなさそうな女だけど、あいつは頑張り屋だと思う。俺に怯えながらも、アリスは詰所でお手伝いとしての仕事をもくもくとこなしていた。聞けば、親父さんが病気で入院費や自分の生活代を稼がないといけないらしい。だから俺に怒られながらも必死に仕事をしていたのか……。


俺の中でアリスを見る目がだんだんと変わっていき、気が付けばあいつのことを目で追っていた。他の団員たちと楽しそうに話すあいつをみるたびに、イラッとした。


俺の中でアリスの存在がどんどん大きくなっていく。


だからあのとき俺はあんなことをしてしまったのかもしれない。

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