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【番外編】 団長様の誕生日①

本編にでてきた回想話を番外編として書きました♪

全5話になります。


*本編の「キス事件」よりも前の出来事です*

「団長の誕生日がもうすぐだからアリスちゃんも何かプレゼント渡せば?」

「え?そうなんですか」


食堂で一週間分の食事メニューを考えていたら、副団長のテオさんがやって来てそう教えてくれた。


団長にも誕生日というものがあるらしい…。

まずはそこに驚いた。

厳しくてこわいあの団長様が一つ歳をとるようだ。


「いつなんですか?」

「今週の土曜日だよ」

「3日後じゃないですか!」

「うん、3日後だね」


私は手元にある一週間分の食事メニューが書かれたメモを見つめる。


「ケーキとか出した方がいいんでしょうか?」

「ケーキ!?」


真面目に聞いたつもりだったのになぜかテオさんは突然、お腹をかかえて笑い出してしまった。しまいには目にうっすらと涙をためながら、ひーひーと苦しそうに笑っていて…。

私、何か変なこと言ったかな?


「テオさん!どうして笑うんですか」

「アハハハ、…ごめんね。…想像したら、おかしくて。団長が、ケーキを食べているところ」

「…………」


そう言われて、私も想像してみた。

いつも厳しくてこわいあの団長が、切り分けられた小さなショートケーキを食べている。無表情でもくもくと。楽しみにとってあるのか、わざわざ苺を最後に残して……


って、笑える!


「テオさん!それおもしろすぎですよー」


自然と笑いがこみあげてきた。自分で問うた質問だったが、なんておもしろいことを私は言ったんだろう。団長とケーキほど不釣合いなものはない。

笑い出したら止まらなくて、ケーキを食べている団長の姿が頭から離れてくれない。すると、先に笑い地獄から抜け出したテオさんが目にたまった涙を軽くふきながら言った。


「団長にケーキはいらないんじゃないかな。去年までは誕生日でも何もしてなかったし、特別なことはしなくていいと思うよ」


たしかにここでは誕生日をあまり意識していないし、私も団員たちの誕生日を知らない。あ、でもタモン君の誕生日は知っている。


騎士見習いのタモン君とは歳が近いし、普段から何気ない会話をよくしている。いつかそんな会話の流れで誕生日を教えてもらい、忘れっぽい私は部屋に飾ってあるカレンダーのその日付をすぐに赤丸で囲んだ。ちなみに、タモン君の誕生日はまだずっと先だ。


タモン君にはプレゼントを渡そうと思っている。いつも私の仕事である洗濯や食事などの手伝いをしてくれて、とても助かっているから、その感謝の意味も込めて。きっと喜んでもらえると思う。


けれど、団長はどうだろう…。


私から貰ったプレゼントなんて喜ぶとは思えないし、むしろ迷惑なんじゃないだろうか。


「私のプレゼントなんて団長はきっと受け取ってくれませんよ」


そう呟くと、テオさんが首をかしげる。


「そうかな?」

「そうですよ!絶対にそうです!」


常日頃の私と団長のやり取りを見ていればわかる。私に対していつもガミガミとうるさい団長はきっと私のことをあまり良く思っていないはずだ。嫌われてはいないと信じたいけれど…。


できれば私は、団長とは穏やかな関係でありたいと思っている。ここで働き始めて約4年。騎士団員の全員が団長のことを騎士として一人の男として尊敬して憧れているのがよく分かった。そんな団長を、私も漠然と『すごい人』だと思っているし、厳しくてこわくなければ、私はもっと団長に親しみを抱けていると思う。


顔だけみればかっこいいのだから、もしかしたら好きになっていたかもしれないし…。


同じ職場でほぼ毎日顔を合わせているのだから、できれば仲良くしたい。けれど、何でも完璧にこなしてしまう団長から見た私は仕事のできないダメなやつで、きっとそんな私を団長は呆れていると思う。


私が団長にプレゼントを渡すなんて、そんなことできるわけがない。団長と自分の差をあらためて理解して、落ち込む……。


「この話は終わりです!」


テオさんにそう言って、私はメニュー表に視線を落とすと、再び一週間分の食事メニューを考え始めた。


何の食材が冷蔵庫に残っているからこの日はこれを作ろう。畑のあの作物が美味しく実る頃だからそれを使って料理をしよう。足りないものは街へ買い出しに行かないと。


もう4年近くもこの詰所で働いて団員全員分の食事を作っている。初めはまったく上手になれなかった料理だけれど、だんだんと手際もよくなって、味も向上した。団員たちから『今日も美味しかったよ』という言葉をよくもらうようになり、そのたびに私は嬉しくなった。


全て団長のおかげだ。


団長が忙しい仕事の合間や休みの日を使って私に料理指導をしてくれたから私は料理が上手になれた。厳し過ぎる指導に何度も何度も何度も泣かされたけれど、そんなスパルタ指導のおかげで私の料理の腕はぐんとあがった。


それにはとても感謝している。


私はお手伝いとしてまだまだ至らない点が多いと思う。覚えは悪いし、不器用だし、ミスはするし、物は壊すし…。そのたびに団長に怒られてしまうし、きっと迷惑もたくさんかけていると思う。


つい先月も、私のうっかりミスで団長に大迷惑をかけてしまったばかりだった。


王都にある本部から馬を何頭か第3護衛騎士団で預かることになった。馬の世話は入団したばかりの団員たちが担当で、馬小屋の掃除は私の担当だった。

その日もいつも通り掃除を終えた私は、ついうっかり馬小屋の鍵をかけるのを忘れてしまった。それに気付かずに夕食の準備を始めてしまい、翌日になり馬が全て逃げ出していることに団員が気が付いた。

何頭かは詰所の敷地内で見つけることができたのだけれど、そのうちの一頭だけは街の外へ逃げ出してしまったようでそのまま行方不明に…。

あきらかに私のせいなのに、監督責任ということで団長が始末書を書かされ、本部へ行き一番偉い人に頭を下げたらしい。

さすがにあのときはここをクビになると思い、いつその宣告をされてもいいようにと部屋の荷物を片付けていたのだけれど…


『お前、なに逃げ出そうとしてるんだ』


と、部屋に入ってきた団長に頭をごつかれた。

そのあとは一日中団長の説教が続いた。いつ辞めろと言われるのかビクビクしながら聞いていたのだけれど、団長はついにその言葉を言わなかった。


『親父さんの入院費が必要なんだろ。ここ辞めさせられたらそれ払えないだろうが。これからはもっとしっかりと働け、いいな』


そう言って、団長は部屋を後にした。


そのときのことを思い出す。


団長は厳しくてこわい人だけれど、ちゃんと優しいところもある人だ。


そして私は思い直す。


せっかくテオさんが団長の誕生日を教えてくれたんだ。これを機に日頃の謝罪と感謝の気持ちを込めてプレゼントを贈るのもいいのかもしれない。なんだかそんな気持ちになってきた。


「テオさん、私やっぱり団長にプレゼント渡します!」


隣にいるテオさんを見上げてそう告げると、笑顔で頷いてくれた。


「そうだね、それがいいと思うよ」

「はい!」


そうと決まれば何を渡すか考えないと。と、プレゼントを思い浮かべた、そのとき――――。



「アーーリーースーー」



食堂の入口から、まるで地獄の底から這い出てきたようなおそろしい声がきこえた。


この声は、団長だ…。



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