夜の湖畔で
時計の針はまだ2時を指していた。これで3回目だ、1時間おきに寝て起きてを繰り返している。再びモゾモゾと布団に入るが少し考えて寝るのを止めた。これ以上寝てもどうせすぐに目が覚めてしまうのだろうし、逆に寝過ごして遅刻でもしたら大変だ。転校初日目の朝はいつもこんな感じだ。
父の仕事のせいだから仕方がないとも思うからこそ俺は愚痴1つ言ったことはない。が、長くて2年、短くて1ヶ月。そのスピードで転校をしている。だから、色々な街に行くわけだから友達は多いのが自慢だ。逆に親友と呼べるような親しい友達はいない。毎回「よろしく」と「さようなら」が同じ口調で言われるのがなんとも寂しい。
1回だけだがとある学校にいたとき俺以外に転校する奴がいた。確かに皆一見同じようにおくってくれた。でも、やはり俺には分かる。そいつと俺との絶対的なクラスとの絆の違いを。俺は羨ましいと思った。そして俺は父に頼み込み次の転校先からでいいからもう転校はしたくないとお願いした。すると思ってたよりすんなりと「まあお前も今まで我慢してきただろう、すまないと思ってる。そうだな…もう高校生だしな…独り暮らしてみるか?」と言ってきた。それがきっかけとなりどっかの田舎町のアパートに住むことになったのだ。
ボーとしてるのもなんか落ち着かなかったので俺は散歩に出かけることにした。近くに湖があるのを思い出したからとりあえずふらふらとそっち方面に歩きはじめた。都心と違って街灯が少なく月に光の方が明るいぐらいだ。車も一台も走っておらず不気味に虫の鳴き声が響き渡っていた。
しばらく歩き、虫の音が別に気にもならなくなったころ目の前に湖が見えた。湖の公園に入りとりあえずベンチに腰を下ろし、辺りを見回す。そこまで大きくない公園には真ん中に噴水がライトアップされてるぐらいであとは特に何もなかった。ざ、田舎って感じだ。流石にこの時間に公園にいる人はいないか…と思いさらにキョロキョロしてると突然足音が聴こえてきた。
俺が足音がする方を見ていると俺と同じぐらいの年だろうか、制服を着た女子が現れた。トコトコと歩き、まるで俺のことが見えてないのかという勢いで俺の横にちょこんと座り込んだ。よく見ると、これ…今日からいく学校の制服じゃん。
「貴方、転校生?」
向こうから話しかけてきた。なんだよかった俺のことが見えてなかったわけではないのか。
「そうだよ、君と同じ学校に…。」
「そう……。」
「ところでどうしてこんな時間にこんなところに?」
彼女は少し考えるそぶりを見せた。
「多分、貴方と同じ理由よ。」
「そうか…君も寝れなかったのか…。」
「まあ貴方と違って私は毎日なんだけど。」
その言葉に少し驚きはしたが、確かにそんな病気があったな。不眠症だったかな。
「いつからなの?」
「ずーと生まれたときから…。」
「え~と。なんかその…言いづらいけど、それで生きいけるの?」
「ええ、普通に…。」
ふと、その時彼女は何かを見つけたように立ち上がると湖のそばまで近づいて行った。俺も慌てて後を追いかける。すると急に今度はしゃがみこんでしまった。何かを見つめるように…。
「ねぇ?花って眠るのかな?」
突然よくわかない言葉を投げられた。よく見ると彼女の視線の先には小さな白い花が月の光で輝いていた。
「花は眠らないよ、今でもほら、こんなに元気そう。」
俺は自分でもよくわからない言葉を発した。だがその言葉に彼女は満足したらしい。花を抜くと自分の胸ポケットに入れた。
「じゃあ私と同じ独りだね。」
そうか、何となく彼女の気持ちが分かった気がする。毎晩眠れず独りで起きている悲しみ。そんな誰も活動していない悲しい時間。花もまた独り寂しく湖畔に咲いていたのだ。
「でも、今日は独りじゃないよ?」
俺は彼女に思いっきりの笑顔でそう言ってやった。俺の少し痛々しい発言にしばしキョトンとしていた彼女だが、やがて独り言のように呟いた。
「そうだね…今日だけは…。」
彼女は突然俺の手をとった。
「ねぇ?少し歩かない?」
夜の不思議な感じが漂う公園を男女が2人歩いていた。これが昼間ならカップルに見えたかもしれない。だが今は午前3時だ。見る人など1人もいない。大きいとまではいえない公園を20分ほど特に会話もないまま1周する。俺が少し前を歩き彼女後ろを着いてくる。静かな公園でふと足音が止まる音が聞こえたので俺は後ろを振り向いた。すると何処に消えたのか彼女は何処かに消えていた。慌てて俺は辺りを探したが見つけることは出来なかった。でもまあ同じ学校の人だ。またすぐに会えるだろう。そう思い、俺も公園をあとにした。