元女王の物語
注意書
これは作者の独断と偏見により出来上がったものです。白雪姫ファンの方が不快になられたら申し訳ありません。
政略結婚で結婚した相手は我が国の王子様で、わたしは女王となりました。
結婚して5年がたっても生まれない我が子。周囲からの重圧は重たく、そして冷たいものでありました。側室を、という話が出ていたのをわたしは知っています。
なんといいますか、王子様はダメなお方で、わたしはそんな王子様……もう継承されたので王様にどうしても愛の心を向けられなかったのです。王妃というのは肩書きだけで仕事もなにもできない甘やかされ放題でそだってきた坊ちゃんのような王子様には政治は無理だとみなさん判断なさったのでしょう。わたしは幸い、才女と言われていましたからその程度なんでもありません。しかし、仕事をしている間、顔だけはいいあの人はメイドを誘惑したりどこぞの令嬢を誘惑したり娼婦を呼んだりと好き勝手やっていました。そして贈り物を送っていたり……。国は傾きます。
実際5年の間夜の営みは初夜のみ。口うるさくいうわたしが嫌なのでしょう。
わたしはあの人を愛することはできません。
もういっそ死んでしまった方が楽なのかもしれません。
しかし夢をみるのです。子が欲しい。子を抱きたい。
雪がしんしんと振るそんな日でした。その日、わたしはついに毒をもられ始めました。おかしな話です。仕事をさせていて今度は世継ぎを産まないから除かれるのです。邪魔なのでしょう。でも、ではこの国はだれが守るというのでしょうか。
わたしがわたしとして生きてきた短い年月は無駄だったのでしょうか。名前を呼ばれたのは結婚式の時が最後です。誰もわたしの名前を覚えてなどおりません。そうやって記憶から消えていくのです。わたしは、生きているのに。
毒の威力からかわたしは村を視察した帰りに吐血いたしました。
「女王!?」
「大丈夫よ。疲れたのかしら」
わたし付きの騎士が慌てます。彼はずっとそばにいてくれました。
雪に散らばるわたしの血をみてわたしは願いました。
「あぁ、美しい……」
「え?」
「雪のように白く、血のように赤く、黒檀の窓枠のように黒い子がほしいわ……」
ポツリとつぶやいた言葉に騎士が息を飲んだのに気がつきます。
「女王はお気になさっているのですか?子がいないことを」
「そうね……。わたしも女ですから、女としての幸せは全うしたいわ」
子がほしい……。そう告げたわたしをみる騎士の目には熱情があったことに気がつきました。この騎士はわたしを愛していたことを知っていました。そしてわたしもこの騎士を好ましく思っておりました。
不貞を働こうと思っていたわけではありません。ただ、騎士の目を見ていたらわたしの箍が外れたのです。騎士とはそれ以来会っておりません。
城に帰ったわたしは王様を久しぶりにお誘いいたしました。2度目ですね。そして、その行為が終わった後に付き人である騎士を昇格させ、わたし付きを辞めさせたのです。騎士にはなにもいいませんでした。騎士もわたしになにも言いませんでした。
そして生まれた我が子。大変な難産でした。わたしはすぐにわかりました。この子は……、いえ、これ以上は辞めましょう。
この子は王の子です。唯一の世継ぎです。
ただ、その子を抱いてわたしは我が子に抱くにはおかしな感情をもったのです。なんだかなにかの化身のような……そしてわたしは気がついたのです。雪のように白い肌、血のような赤い唇、黒檀の窓枠のように黒い髪。あの時に願った通りなのです。
たとえなんの化身であっても、この子が幸せになりますように……。
そしてその子を産んだ翌日いつものように毒入りの食事を毒だとわかっていて食べることにしました。生きる気力がなくなったのです。騎士が死んだと報告を受けてわたしはもうなにもできないと思ったのです。だから、毒を食べるのはわたしの自己責任なのです。
あの子に名前すらつけてあげれませんでした。考えていた名前はあったのです。でも、どうしてもつけれませんでした。
勝手な母を許してください。どうか、どうか、幸あらんことを。