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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第11章 新たなダンジョンの探索調査
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探索二日目開始

 耳元で喧しく鳴る目覚まし時計を止めて、まだぼんやりとした視界で周囲を見る。

 時間は午前4時すぎ、まだまだ日の出には時間がある。

 だが、探索メンバー達は既に準備を始めていた。



「遅いよ、ロック!」

「すまん、ちょっとぼーっとしてた」



 頬を膨らませているアイラに何とか言い訳しつつ、水場に向かう。

 軽く顔を洗って思考をクリアにすると、フランのいる天幕へと足を運ぶ。

 既に何人かはフランと共にダンジョンの地図の作成に入っているようだ。

 


「おはよう、今日もよろしくね!」

「その腕前、楽しみにしてるわ」


 ミューリィとソフィアが連れ立って入ってきた。徐々に現地スタッフも動き始めてるので、早々に朝メシを食べておかないとまずい。

 自分の天幕に戻り、魔法の鞄マジックポーチから朝食用ビスケットを取り出して一口齧る。


『マスター……おはようございます……』

「もうそろそろ時間だから早く目を覚ませ。これでも食べてろ」

『……はい』


 眠そうに眼を擦りながら起きてきた桜花にビスケットを一枚押しつけると、両手で持ってかりかりと齧り始めた。

 小動物のようなその姿に和みながら、前夜に用意しておいた道具を魔法の鞄に押しこんで身支度を整える。といっても、Tシャツを取り換えて上着を着るだけだが。


『食べましたー』

「よし、いくぞ」


 桜花が食べ終わるのを待ってから、いつものように桜花を背中に貼りつかせて天幕を出る。少し成長したから体重も増えたのかと思ったら、ほとんど重さが変わってなかった。

 肩口から覗く桜花の顔はいつも通りの明るさで、鼻歌まで歌ってるくらいだから機嫌の悪さは治ったらしい。


「桜花、おはよ!」

「桜花ちゃん、おはようございます」

『おはよう、アイラお姉ちゃん、セラお姉ちゃん』


 アイラもセラも桜花に自分のことを【お姉ちゃん】と呼ばせることにしたらしい。

 特にセラは一人っ子のせいか、【お姉ちゃん】と呼ばれて悶絶している。アイラは妹のエイラがいるからそれほどでもないのか?


「エイラよりも桜花の方が素直でカワイイよ。エイラは最近生意気!」


 そうでもないらしい。

 女の子3人が俺の後ろできゃいきゃいはしゃいでいる。

 緊張感が無い!と怒る奴もいるんだろうが、俺はそうは思わない。

 鍵開けの場合、如何に平常心でいられるかがそのまま腕の良し悪しに繋がると思ってる。いくら練習で出来ても実地で出来なきゃ意味がない。

 やたらと緊張してるより、普段通りの気持ちでいるほうが身体がスムーズに動く。ミリ単位での探りが必要な鍵開けでは、身体を如何に意思の通りに動かすことができるかがキモだ。


 フランの天幕に入ると、どうやら俺達が最後だったようだ。俺達の顔を確認すると、フランが今日のチーム分けを発表する。


「今日も基本的には昨日とほぼ同じメンバーよ。昨日から変える部分としては、ソフィアに中衛に入ってもらうわ。その理由は、前衛・中衛・後衛の間隔を少し短くします。お互いの距離を基本5分間隔にして、何かあった時の連携をスムーズにする予定よ」

「それはいいんじゃが、前衛で討ち漏らしたモンスターが中衛に行くかもしれんぞい」

「その為にソフィアを中衛に入れたの。ソフィアなら近接も魔法も使えるし、神官騎士としての経験も豊富だから」


 今日はソフィアも中衛か。なるほど、朝の意味ありげな台詞はこのことだったか。

 

「それでは日の出と同時にアタック開始します。あと大体20分くらいだからそれぞれ準備して」


 フランの声に皆が天幕を出ていく。

 俺は皆が出ていくのを見送ると、フランと共に残ったデリックに声をかける。幸い、ここにはフランとリル、デリックしかいない。


「ちょっといいか、デリック」

「どうした? 体調でも悪いのか?」

「いや、そうじゃなくて、昨夜のことなんだが、あの2人……ランガーとベルハルトだったか? ダンジョンの入口をうろついてたんだ。ディノが封印したから入ることは出来なかったみたいだが、どうも腑に落ちん」

「そうだな、あいつらはあくまでこの天幕の護衛だ。ダンジョンそのものには用は無いはずだ」

「本人達は【一度見てみたかった】とか言ってたが、どこまで本気かも怪しい」

「そうか……わかった。出来るだけ注意しておく」


 何もなければそれにこしたことはないが、どうも昨夜のあの行動が気になって仕方がない。

 態々ダンジョンを見るのに、暗い夜というのはおかしい。見るだけなら昼間に事情を話して見せてもらえばいい。

 あいつらが何の目的なのかは知らないが、注意しておくべきだろう。

 後衛の2人にも話しておいたほうがいいだろう。



「そろそろ時間よ、皆集まって!」


 フランの号令に探索メンバーが入口に集合する。さっきの件はサーシャに話しておいた。どうやら彼女も昨夜のことは把握しているようで、出来る限り後方への注意を払ってくれるそうだ。


 今日は例の隠し通路までは皆で動き、そこから時間差でスタートする。ということは皆の前であの通路を何とかしなきゃならない。責任重大だ。


「今日も打ち合わせ通りにお願い。突発的な問題が起こった場合はすぐに連絡して」


 フランの指示を聞くと、アイラを先頭にダンジョンに入る。例の2人は遠巻きに眺めているな……。

 特におかしい動きを見せているわけでもないし、俺の考え過ぎか?

 どの道今からダンジョンなんだし、デリックに任せるしかないな。



「そろそろ着くよ。周囲にはモンスターの気配なし」


 先頭を行くアイラが皆に聞こえるように声を出す。

 着いたのは当然、昨日の隠し通路の前だ。


「ほれ、ロックの出番じゃ」

「ああ、任せろ」


 ディノに促されて扉の前に立つ。

 偉そうに答えたが、実際はかなり緊張してる。

 俺は改めて扉を観察する。しっかりとライトを照射し、細部に至るまでじっくりと観察していると、やはり目地が埋めきれていない場所がある。マイナスドライバーで慎重に目地を突くと、ぽろぽろと砂のようなものが崩れていく。


「ロック、その砂を見せてくれんか?」

「こんなもんでいいか?」


 その光景を見ていたディノが砂を手に取り、何かを確認している。


「これは……まだ新しい目地材じゃのう。ということは、つい最近まで使われていた場所じゃろうて。おお、すまん、続けてくれ」


 やはりここで間違いないようだ。

 ディノに促されて作業を続ける。


 目地の半分くらいまで目地材を削ったとき、あることに気付いた。

 錠前が……無い。

 てっきり扉だと思っていたんだが、見ればこちら側には鍵穴もドアノブも、丁番すらない。

 

 恐らくこれが扉なのは間違いないと思うが、とすればどうやってこちらから開けるかだ。

 目地材はもう全部落ちている。


「これは扉……なんじゃろうな?」

「でもどうやって開けるんだろう?」


 ディノとロニーが不思議そうに見ている。俺は何となくだがこの扉の正体が見えてきた。

 表面は鏡面のように磨きあげられていて、ノブやレバーもない。念のために床との境目を同じように突くと、やはり砂が落ちていく。そしてある部分に来ると、何か棒のようなものに当たる。


 間違いない、これはピポットタイプだ。しかもこちら側からは引いて開ける形状のようだ。しかも表面に掴むものがない。

 だが、こんな時のためにいつも常備しているものがある。

 

「これは何?」

「ん、ただの吸盤だ」


 意匠を凝らした建物の場合、バックヤードに入る扉に鍵穴もノブもないことがある。

 基本的にそういう場合は外から入ることを想定していない。バックヤードからは外に向けての一方通行だ。だが、この扉は開けられないわけじゃない。

 吸盤を2つ、扉の戸先に近い場所に付ける。レバーを下げて中の空気を抜いて固定する。


「ガーラント、ここを持って手前に引いてみてくれ」

「おう、任せろ」


 俺の想像通りだと、この扉はかなりの重量があるはずだ。そんなものは俺の力ではまず動かせない。


「お、動くぞ」


 ガーラントだからと信じたい。あんなに軽々と動かせるのはガーラントの筋肉だからだろう。


 何のことはない、この扉は中からの一方通行用だった。

 さっき使ったのは、ガラスや大理石を工事する時に使う運搬用の吸盤だ。吸盤と言っても、安物の小さいやつじゃない。相当吸着力の強いやつだ。

 時折、持ち手の無い扉があったりするから、いつも車には積んである。昨日、あの壁を見た時から、何となく必要じゃないかと思っていたんだ。


「きっと今まで探索していたのは来客用の部屋だ。外観を重視して仕上げを統一したのかもしれない。ここから先が本番だと思う」

「しかしよく扉の構造までわかるわね?」

「鍵は扉につくものだからな、ある程度の構造は理解してる」


 ソフィアがしきりに感心してくれているが、鍵屋ならそのくらい当然だ。むしろ分からないほうが問題だと思う。

 それに、こんなところで躓いていたんじゃ探索者としての沽券に関わる。まだまだ温いぞ!


「ほら、こんなところで時間潰すのは勿体無い。早く中に入ろう」

「お、おお、そうじゃな。前衛チーム、行くぞい」


 ディノがアイラ達を促して扉の中に入る。中は今までと同じように燭台の灯りがぼんやりと光っている。

 だが、昨日とは全く違う光景に少々驚いた。


 あれほどあったあの【絵】が一枚もない。

 よくよく考えてみれば、途中の通路にも無かった。

 誰かが盗んでいったのか?入口は封印されてたはずだ。

 まさか数枚くすねたのがバレて回収されたのか?


 その理由までは俺達の考えることじゃないが、いきなりの変貌ぶり……どうも嫌な予感がする。

結局何もなかったというオチ……


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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