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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第11章 新たなダンジョンの探索調査
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フォレストキャッスル 1階 その2

1階の探索中です。

 分岐を右方向に向かって歩き出す前衛チームを見送りながら、後衛チームの状況を聞く。

 というのも、さっき少し気になることを言ってたからだ。



「蟲系のモンスターが近寄ってこなかったっていうのか?」

「ああ、何かを嫌がってるような感じだったな。おかげで楽に倒せたから良かったんだが、少し気になってな」



 ガーラントがどことなく不思議そうな顔をしている。

 戦闘好きのガーラントが言うんだから、ほぼ間違いないだろう。

 だからどうってことはないんだが…



「もしかして桜花がモンスターを遠ざけてるのか?」

『……………知らないです』



 素気ない返事が返ってきた。

 俺は何か桜花に嫌われるようなことをしたんだろうか?

 四駆のトランク部分の巣を取り払ったのが余程嫌だったのか?

 


 最近、桜花が色んな場所に巣を作ってる。

 ギルドの俺の部屋はベッドの上の天井付近に巣を作ってる。

 作業場は広く見渡せる位置に巣を作ってる。

 そして四駆のトランクだ。

 しかも、時々一緒に寝たいと駄々をこねてくる。

 実は一度だけ巣にお邪魔したことがあるんだが、その糸で作られた布の感触は想像を絶するくらいに心地よかった。

 流石は高級品のアラクネの糸だ。



 そんなことはどうでもいい。

 今はモンスターの不思議な行動についてだ。

 前衛チームの方には蟲系が少ないみたいだし、何がおかしいんだろうか。

 


「普通、第一階層には蟲系のモンスターが主体になるはずなんじゃが…」


 

 そんなことをディノが呟いていた。

 確かに初級ダンジョンとかには蟲系(蜘蛛やら蟷螂やら)が多かった気がする。

 となれば、ここまで極端に避けられているのは何か理由があるはずだが…。



【こちらルーク、ロックいますか?】

「こちらロック、どうした?」



 いきなりトランシーバーが鳴った。

 前衛チームが俺に連絡してくるのは、鍵開けが必要になったということだ。



【鍵のかかった扉を発見しました。魔法鍵は解除しましたが物理鍵が残っています。応援願います】

「了解、どうしたらいい、フラン?」

【中衛チームはそのまま前衛と合流して鍵開け、後衛はそのまま分岐点確保】



「というわけで、前衛に合流だとさ」

「今のところ危険度は低いからサクサク行きましょ。お宝があるといいわね」



 俺達はゆっくりと分岐を右方向に進んだ。

 通路は今までと同じように石畳だが、こっちの通路には絵画が一切ない。

 質素だが綺麗に仕上げられた石壁が続いた先に、少し開けた場所があった。

 その部屋には3枚の扉があり、そのうちの2枚は既に開いていた。

 残る1枚の前にアイラとディノが陣取っている。



「どうした、アイラ? お前じゃ無理そうか?」

「………わかんない。ちょっと複雑だからまだ自信ないかも…」

「ここはひとまずロックに任せたほうがいいじゃろうて」

「わかった、アイラは周囲の警戒をよろしく」



 早速の出番が来た。

 扉の前でしゃがみこんで鍵穴を確認する。

 見た目は単純なカム型の閂錠だ。

 このタイプは棒の先端に小さな板がついたような形状の鍵を使ってる。

 所謂、鍵の絵を描いたら皆が描くような、鍵の一般的なイメージ通りの鍵だ。

 先端の板状の突起が閂を動かすカムを動かす。

 鍵の動きがそのまま閂に直結してる分、動かすのに少々力がいる。

 そのせいか、ちょっとしたトラブルが起こりやすいタイプの錠前だ。



「これは通常のツールだと厳しいかもしれない。とっておきを出すとしよう」



 道具入れからピッキングツールを取り出す。

 形状は一緒だが、これは材質がかなり強い。

 何故こいつを選んだかというと…



「この錠前は直接閂を動かしてるんだが、そのぶん閂を回せるだけの力がなくちゃいけない。柔らかいツールだと閂が回る前にツールが曲ってしまうんだよ」



 シリンダー錠に見慣れていると、ちょっとやりづらいかもしれない。

 シリンダー錠っていうのは、かなり高度な仕組みの錠前ってことを再認識させられた。



 おっと、まずはこいつをきっちりと開けないとな。



「これはそんなに難しくないから………ん?」

「どうしたんじゃ? まさか………失敗か?」

「いや、ちょっと気になることがあったんだが………」



 開け方も解ったし、対処も問題ない。

 でも、ちょっとばかり気になる部分があった。



「ちょっと鍵の動きが固い。トラップということではないと思う。恐らくこの錠前が歪んでいるのかもしれない」



 道具入れから、鍵専用の潤滑剤を取り出す。

 ノズルの先端を鍵穴に差込み、カムの部分にちょっと多めに噴射する。

 これでカム周りに潤滑剤が染み渡ったはず………



「これで何とか………いけるはず………よし、回った」

「ほほう、流石といったところじゃのう。見ていて全く危なげないわい」

「うん、やっぱりロックは凄いね。僕達とは技術の次元が違う」

「そんなに褒めても何も出ないぞ?」 



 ディノやロニーは手放しで称賛してくれてるが、俺としてはそんなに悠長に構えるつもりはない。

 というのも、今の錠前は複雑さとかそういう種類のものではない難しさがあったからだ。



 今の錠前、閂を動かすカムの回り方がかなり固かった。

 固いということは、大きな原因は2つだ。

 1つ目はカム内部に不純物が入り込んで固まっている場合。

 2つ目は錠前自体が歪んで回転を妨げている場合。



 1つ目の場合、先ほどのように潤滑剤で不純物を洗い流すという方法で対処可能だ。

 問題なのは2つ目だ。

 こうなってしまうと、かなり慎重に対処する必要がある。

 場合によっては、合鍵でも開かない状況になってしまうこともある。



 さっきは潤滑剤でかなり軽減したが、おそらくあれでも完全じゃない。

 ダンジョンで一般常識が当てはまるかどうかは甚だ疑問だが、一般的に考えれば、この階は頻繁に使われているのだろう。

 となれば、これから先の錠前は使用頻度が低くなってくると思っていてもいいだろう。

 


 何故こんなことを考えているかというと、錠前が固くなるのは大抵ある理由があてはまるんだが、今はそれを追及している時間がないから放っておこう。

 


 鍵のかかっていた扉を開けて、アイラが内部の様子を窺う。

 どうやらモンスターはいないようだが、アイラは警戒を続けている。



「モンスター転移の兆候なし。たぶん大丈夫」

「よし、中を調べてみよう」



 アイラの探索にも反応がないので、ロニーが最初に部屋に入る。

 何故ロニーが?というと、予見できなかった罠やモンスターに対応するには身体能力がダントツに高いロニーが適任だったからだ。

 もし罠であれば即座に退室すればいいし、モンスターであれば剣技で対処できる。

 適材適所というやつだ。



「んー、特に目ぼしいものはないみたいだね。調度品はどうかな?」

「ちょっと待て! 廊下の絵は罠だらけだったぞ!」

「確かめてみればいいじゃろ。ロック、頼めるか?」

「ああ、ちょっと待ってろ」



 解錠道具をしまい、慎重に入室する。

 室内は結構広く、壁にはやはり絵画がかかっている。

 そこに描かれているのは………やはり理解不能なものばかりだった。

 これには何か重大な意味があるんだろうか?

 


「………やっぱりこいつも仕掛がしてある。触らないほうが良さそうだ」

「まぁ最初の部屋だから仕方ないんだろうけど、やっぱりちょっと悔しいわね」

「個人的には宝箱以外のものは気が引けるんだが………」



 残念そうな声のミューリィが物欲しそうに部屋を見回す。

 調度品はちょっと………一応、日本じゃ鍵屋は防犯のプロってことになってるから、まさか空き巣まがいのことをするわけにもいかないだろう。

 この絵は持ち帰ってはいけない気がする。

 夜ごとにここから何か這い出てくるかもしれない。

 それ以前に、描かれている内容が理解できない。



「ともかく、この部屋には罠もお宝も無かったってことじゃな。さっさと他の扉も調べるとしようかの」

「了解、この部屋は何も無し…調度品には罠あり、手出し厳禁…と」



 ミューリィが手元の紙に何かを書き込んでいる。

 覗いてみると、どうやら今まで通過した経路を描き込んでいるらしい。

 今入った部屋のところには、特記事項として罠のことを書き込んでいるようだ。



「これでいいわ、マッピングは任せて」  

「じゃあ隣の部屋に行くね」



 ミューリィが色々と書き込むのを待ってアイラが移動する。

 こちらの通路にはあと3部屋ほど残っているらしい。

 確かに廊下に出ると、奥のほうに向かって扉が並んでいる。

 見た目からはさっきの鍵と同様のものがついてそうだ。

 









「ちぇ、結局こっちの通路はこれだけね」

「まだ1階層ですから仕方ないですよ」



 薄汚れたナイフを弄りながら、マッピングを続けるミューリィ。

 先ほどの通路にある部屋を調べたが、全ての部屋に同じ仕組みの鍵がかかっており、一番奥の部屋にあったにしか宝箱は無かった。

 しかも、魔法の鍵だけだったのでディノが解除したんだが、そこに入ってたのがミューリィの手にあるナイフだった。

 何か特別なナイフかと思ったんだが、何の変哲もない安物のナイフでだったので、お宝を期待していたミューリィはやや不機嫌だ。

 一生懸命セラが慰めている。



 今はさっきの分岐を左方向に進んでいる。

 相変わらずモンスターは前衛と後衛が全て片付けている。

 ダンジョン攻略アタックのことを考えれば、かなり効率も実入りも悪いやり方だが、今回の探索の目的は調査がメインだ。

 余程の余裕がある場合を除いて、危険と思われる行動は避けるように通達されている。

 勿論、獲得したものは自分達のものにできるが、その内容は詳細を報告しなきゃいけないらしい。



「こんなナイフ1本にも報告書が必要なのよね………面倒だからどこかに捨てちゃおうかしら」

「駄目ですよ、細かいところまで調べるのも今回の仕事なんですから」

「そんなことして後で怒られても助けないからな?」



 そんなことを言いながら進む俺たち。

 まだ1階層なのか、心なしか余裕がある。



「俺としてはもう少し緊張感を持ってもらいたいけどな」

「まぁそう言わないでよアルバート。ここまで安心して探索できるのは久しぶりなんだから」

「確かに緊張でガチガチになるよりかはいいけどさ…」



 苦笑いするアルバート。

 盾役としてここにいる彼が一番暇だ。

 攻撃を受けるはずなのに、攻撃してくるモンスターと遭遇しないんだからな。



「まだ1階だからですよ。もっと進めば違いますから」

「そうよ、今から緊張してたら疲れちゃうわ」

「でも、集中を切らすのは良くないのは確かだぞ」

【こちらルーク、中衛、後衛、フラン、聞こえますか?】



 前衛からの通信が入る。



「こちらロック、聞こえてるぞ」

【こちらサーシャ、聞こえるわ】

【こちらフラン、何か問題が?】



 何か問題でも起こったんだろうか?

 まだ1階だぞ?



【上階への階段を発見しました。他の通路もありませんからここで後続を待ちます】

【了解しました。中衛・後衛は慎重に合流してください】

「中衛チーム了解」

【後衛チーム、了解したわ】



 どうやら1階の探索は終了らしい。

 そのまま進むと、如何にも古城らしい感じの階段が見えてきた。

 アイラがぶんぶんと手を振っている。



「ロック、大丈夫だった?」

「ああ、大丈夫だが………ここが階段か?」



 こんな大きな建物なのに、地下に向かう階段はないのか?

 普通はあってもいいものだと思うんだが…



 と、少し離れた壁にちょっと気になる部分があった。

 綺麗に磨かれた石壁だが、ほんの一部が石目が違うような…

 でも、何か異常があるのならアイラが気付くはずだし、感覚に優れてるロニーやディノが気付かないというのもおかしい。

 たぶん傷でもつけて補修した後なのかもしれない。

 特に気にするほどのことじゃないな。



「お待たせ、こっちは特に問題なかったわ」

「これで全員揃ったようじゃの、上階へ移動するぞい」



 

 さて、次は2階か………

 きっとモンスターとの遭遇も比べ物にならないくらいに苛烈になっていくんだろう。

 俺には何もできないのが心苦しいところだが………

 それにしても、さっきはどうしてあんな壁が気になったんだろう?

 自分でも気付かないうちに疲れてるのか?


次回は2階に進みます。

ロックの感じてる違和感とは一体?


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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