ひとまず無事終了
リーゼロッテを見送った俺たちは、改めてフランとジーナに挨拶しようとしたが、フランはとてもエキサイトしていた。
「何なの? ねえ何なの? 一体私をどうしたいの? あれじゃ私はダンジョン舐めて痛い目見た馬鹿なギルド代表ってことじゃない! 」
「思いっきりその通りじゃないか。自分でもわかってるね!」
ロニー、それはフォローになってない。炎上させてどうする。
「じゃがのう、フラン。あの場所で遭難などしてみい、ペトローザの代表を遭難させた大馬鹿者になるのはわしらじゃぞ? 各所に縁切り状を回されてあっという間にギルド解散じゃよ。それどころか、わしら個人まで縁切りされかねん。そこらへん分かっておるのか?」
ディノ爺さんがキツイ口調になるのは初めて見たな。話を聞くに「縁切り状」ってのは、取引停止の案内ってことだろう。大口の得意先から取引停止を言い渡されたら、他の取引先も二の足踏むからな。それどころか個人相手だとなおヤバイ。もうこの世界で仕事させないっていう意思表示でもあるし、フランって嬢ちゃんはそこらへんが分かってないのかもな。
「う…それは…だって仕方ないじゃない…バルボラの連中がペトローザの大口斡旋を受けるって噂だったから…うちもいいとこ見せないとって…」
成る程ね…。仕組んだのは「バルボラ」って奴等だな。おそらく同業者だ。多分ペトローザの仕事の大半がそいつらに回ってる。目障りな商売敵を手っ取り早く潰しに来たんだろう。このやり方ならペトローザの抜き打ちを見抜けなかったメルディアが一方的に悪い。何しろ、バルボラは何もしてないんだから。誰がその噂を流しているのかなんて突き止めようが無い。
「今回はロックの機転のおかげで何とかなったんじゃ。礼くらいは言わんか!」
爺さんは持っていた杖でフランの頭を小突く。…地味に痛そうだな。
「えっと…助けてくれてありがとう。あなた、ディノが連れてきてくれた鍵師ね。私の名前はフランチェシカ=メルディア。フランって呼んで。もしかしてさっきの鍵もあなたが?」
「ああ、あの程度なら簡単だ…ってそうだ、アイラ! お前に言う事がある!」
俺がいきなり話の矛先を向けたので吃驚するアイラとフラン。
「え? 何? ロック、どうしたの?」
「さっきの鍵開けのことだ。何で俺が怒ってるか判るか?」
「え? 上手く開けられなかったこと? だって、あの罠の仕組みがよく判らなかったし」
「それは知識不足だから仕方ない、後で教えるから。俺が言いたいのはそこじゃない。何で予備の道具を持ってないんだってことだ! アレの仕組みはいずれ判ったとしても、道具が無かったらお手上げだろう?」
俺はベルトに付けたポーチからピッキング用の針金を取り出した。その数はざっと50本以上。それを見た爺さんが俺に聞いてくる。
「おぬし、いつもそんなに持ち歩いとるのか?」
「勿論。いつどんな時に道具が駄目になるか判らないからな。鍵開けってのは場合によっては命に関わることだってある。そんな時に『道具がありません』じゃ話にならないんだよ」
「そうか…私はこれだけしか持ってなかったから…。そうだよね、あの時ロックがいなかったらフランもジーナもここに居なかったのかもしれないんだよね…ごめんなさい」
目に涙を浮かべながら、ぺこりと頭を下げるアイラ。俺はその頭を撫でてやる。
「この仕事の重みをわかってくれればそれでいい。その気持ちが大事なんだ」
「うん!」
一変して弾けるような笑顔を向けてくる。眩しすぎる。
「ねえ、あの扉の仕組みってどういうこと?」
「わしにも教えてくれんか?」
「僕にも教えて?」
アイラだけじゃなくフランや爺さんも聞いてくる。ロニーは…おまけだな。
「あれはな、3つ同時に開けなきゃ駄目なんだよ。『インターロック』に近いな」
「「「「「 インターロック? 」」」」」
インターロック機能。なかなか珍しい動作だ。普通の人が生活していてこの機能にお目にかかることはほとんど無いだろう。これが活躍するのは研究所や病院が多い。この機能は、「一つの部屋に複数の扉がある場合、一箇所を開けると残りの扉は鍵がかかる」というものだ。研究所等は外気の流入を嫌う。複数の扉が同時に開いてしまうと空気の通り道が出来てしまう。そのために研究員が入るための部屋としてこの機能を用いた部屋を作る。
そうすれば研究員の出入りの際にも外気が直接入り込むのを防げる。
さっきの扉はアイラが一つ目を開けた時には何の動きも無かった。二つ目が開いた瞬間に一つ目が施錠したからもしや? と思った。この機能の対策は簡単だ。針金を入れたままにしておけば施錠はしない。開錠したら道具ごとそのままにして次に移ればいい。だからこそ、予備の道具を持っていないアイラを叱った。
「成る程ね、そんな罠があるなんて判らなかったわ」
素直に感心するアイラ。
「連動する仕組みは魔法で作られてると思う。日本じゃ連動は電気任せだから」
「あなた、詳しいわね。まるでゲンみたい」
「そりゃそうじゃ。こやつはゲンの弟子じゃからな」
爺さんの言葉に唖然と俺を見るフラン。爺さんはなんでそこで偉そうに言う? おっと、その前にこれだけは言っておかないと…
「なあ、ひとついいか?」
皆の視線が俺に集中する。
「俺たちいつまでここに居るんだ? 用が無いなら帰ろうぜ」
そう言って車のキーを見せる。
帰りの車中、やはり爺さんは助手席だったが、後部座席は女性陣が占領していた。早々に酔ったのでシートを倒して寝ていた。行き場の無くなったロニーはキャリアに座って楽しそうだった。何気にお前すごいよ、ロニー。
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